TS、部活に入る 2
1年の教室。オレが2年になって、まだ半年も経っていないというに、妙に懐かしく感じる。あの頃は、まだ男子だった。
そこで、首を振る。懐かしんでいても、どうしようもないことなのだ。
廊下にある手洗い場で、バケツの中に水を入れ、その中で雑巾を洗った。入念に雑巾を絞ってから、バケツを手に部室に戻った。
河合は、床の掃き出しに精を出していた。オレはもう一本の箒を取り、手伝うことにした。
「なんかさ、1年の教室とか懐かしいねー。3階の廊下を通ってて、そう思っちゃった」
「それな。オレもそう思った」
「なんだ、巧己君もか」
「そっちこそ」
お互いに顔を見合わせ、笑った。
「そういえば、巧己君とは、2年から一緒のクラスになったんだねー」
「そうそう。でもさ、河合が構ってくれているお陰で、すんなりと女子グループに馴染めた。そこは感謝しているよ」
感謝しているが、まぁアレだ。この前の日曜日、ラブホ前で諍いがありましたけどね。
「いやいやー、それほどでもー。私、巧己君のためなら、巧己君の為なら……はぁはぁ」
なんか河合が息を荒げた。やっぱ、この子ちょっとヤベーな。時に、暴走機関車になるつーか。
「それで、今日は部室の清掃をしたとして……具体的な活動はどうする?」
オレは、話題を逸らすように告げた。
「やっぱり、地域ボランティアは継続よねー」
「うんうん、だな」
「それからさ。私、アイディアが思い浮かんだんだけど」
「へー、どんな?」
「学園目安箱」
「は? め、目安箱。なにソレ、時代劇の小道具? それとも、将軍吉宗か何か? 丁度この前、日本史でやったところだよな」
「まぁ、目安箱はネーミング的にアレか。当面は、リクエストボックスにしておきましょうか。で、この部室の前に、箱を設置します。そこに生徒達が、要望なり、悩み事を記入した紙を入れるの」
「それをオレ達、ボランティア部員が解決すると?」
「そう、その通り」
河合は、箒を片手に、オレを指差した。ふむ、意外と悪くないかも。
「ソレいいかもな」
「でしょー。なら、後で篠塚先生に提案してみようよ」
「うん、それしようか」
にっこりと微笑むと、河合は頬を赤くして、目を逸らした。こっちも慌てて、あらぬ方向を向く。どうにもな……なんか照れが入る。河合のグループに入って一週間も経つというのに。
オレは、誤魔化すように言葉を発する。
「リクエストボックスねぇ。どんなのがいいだろうか?」
「それは簡単。無印とかで、洒落たポストボックスでも買ってくるよ。そこに要望なり、悩み事とかを書いてもらって投函してもらうの。うふ、ちょっといーでしょ」
「ああ、それは確かに。いいかもしれないな」
「よし、じゃあ、それで決まりね。後で篠塚先生に相談してみることにして、掃除頑張ろうー」
「おう」
それから二人で黙々と、それでいて懸命に掃除をした。
1時間半も経過しただろうか、埃まみれだった部室が、それなりに綺麗になった。
そこで、互いに顔を見合わせ「イエーイ」と言って、ハイタッチを交わす。乾いた手のひらの音がした。
その翌日。
ボランティア部の前に、ミントグリーンのシンプルでいて、可愛らしい郵便ポストが置かれた。その隣に、貼り紙しておいた。
相談事 請け負います。相談事を書いて、ポストに投函してください。
ボランティア部
そんな風に書き記しておいた。
これから利用者が出るといいねと、河合と語り合った。




