TS、ラブホ前まで連行される 2
腹が減ったので、タコベルに入った。二人でタコスを頬張りながら、下らない話をして、笑い合った。
「さっき見たカップ、あれは可愛かったよな。なぁ、河合?」
「あ、うん。そ、そうね」
「ん? なんか変なこと言ったか、オレ」
「いえ、そうじゃくて。あのさ、拓巳くんっていいよね。野球やっていたからなのかな? 爽やかなカンジがするの」
「いや、それはないだろ。爽やかってか、汗くさいだけだって」
「でも、女子になってからは、フローラルだよ」
ふ、フローラルだと? 汗臭かったオレが、銀髪の美女になったくらいで、いい香りになったというのか。
「まぁ兎に角、君は爽やかなカンジ。それでもって、銀髪の北欧系美少女でしょ。これは萌えるわー」
「いや、おだてても何も出ないぞ。冗談も大概にだなぁ⋯⋯」
「冗談ですって? 拓巳君は、分かってない! 推しを思う気持ちの尊さが、分かってないの!」
「あ、いや⋯⋯済みませんです、はい⋯⋯」
なんか、河合の視線に一瞬ゾクリとした。彼女が美人さんだから、そう感じてしまったのだろうか。
とはいえ、ここは話題を変えたほうが良さそうだな。
「そ、そういえば、河合。サンキューな」
「なにが?」
「いや、河合のグループにすんなり入れてくれて助かったよ。いやー、女子になって戸惑っていたけど、君達が受け入れてお陰で、どうにかなりそうだよ」
「うふ。うふふふふふふふ」
「な、なんだよ……」
「私はね、拓巳君。美しいもの、可愛いものが好きなの。だから、自ずとTSして北欧系美女になった拓巳君も大好きなの」
ん? なんかちょっと引っかかる言い方だな。
オレは、河合の言葉に口を尖らせた。
「いや、なんかその言い方だと、オレのことを良く思っているのって、美少女になったからって聞こえるだけど。じゃあ、男子だった頃のオレをどう思っていたんだ?」
「うーん、そうねぇ……はしゃいでいて、リーダーシップがあって、爽やかな好青年ってカンジかな? うん、元々嫌いなタイプじゃなかったよ」
「じゃあ、顔がよりお前の好みになって、プラスアルファされたと?」
「そうそう」
「そうなんだ……」
オレは、ちょっとばかり口を噤んでしまった。河合の好意は、素直にありがたい。だが、それは、オレが美少女になったところが大きいみたいだ。
正直、それで正しいのか、否なのか分からない。
大体、男子にしたって、可愛い女の子がいたら、舞い上がって、惚れたりする訳だし。それを一目惚れと定義はすれば、自ずと肯定されるものだしな。
そんなことを考え、唸った。
河合と視線が合うと、彼女はニッコリと微笑んだ。
「まぁ、そんなに考えてもしょうがないじゃない。気楽にいこうよ、気楽にさ。私は、男子だった頃から、拓巳君が気になっていた。そして、美少女になって、もっと気になってきた。今では、最推し……じゃなかった、最高の友達なったんだし、それでいいじゃない」
「そ、そうだな。うん、そうだよな」
オレは、紙コップに入った炭酸飲料をぐっと呷った。そのカップを置き、河合を見据える。
「さて、無事にワンピースもゲット出来たし、これ食べたら解散するか」
「そうねぇ……でも、まだ4時前よ。この後、カフェで一服するのもいいんじゃないかな? そこ、美味しいスイーツもあるし。文化村通りの方にあるから、ここからそんなに遠くないし」
「す、スイーツか。それいいな」
オレは、指を鳴らした。本来、辛党であったが、最近ではすっかり甘党になってしまった。スイーツと聞いたら、行くしかないだろう。
タコスを平らげ、店外に出て、文化村通りに行く。そこから、ずんずんと円山町の方へ。なんか渋谷の街並みが、どんどんと怪しげになっていく。辺りは、なんとなく淫靡というか……いや、ラブホがあるんですけど……
 




