TS、ラブホ前まで連行される 1
そんな訳で、日曜日。
マークシティで待ち合わせ。オレが、着いた頃にはすでに河合がいて、そわそわと腕時計を見ていた。
「あ、わりっ。時間通りに来たはずだったんだけど。待たせちゃったか?」
「ううん、全然。私、今日が楽しみすぎて、11時にはここに到着していたとか、全然ないし」
「そ、そうか……」
待ち合わせの時刻は、12時だった。ということは、11時から河合はここで待っていたっぽいな。けど、そこはツッコめないな……
「それにしても、河合が着ているワンピ。メッチャいいな」
「そうそう。これがクロシェワンピなの。拓巳くんの参考になるかと思って、着てきた」
河合は、ふわりと一回転回ってみせる。それだけで輝いて、彼女の背景に百合が描かれているかのようだった。
「うん、把握。じゃあ、早速ワンピが売っているとこ、連れて行ってくれるかな?」
「喜んでー」
河合は、腕を絡ませてきた。しかも、ごく自然に。しかし、女子同士で腕を組んで歩くとかどうなの? ――いや、女友達同士なら、これが普通のコミュニケーションなのか。
そんな風に思ったが、道を歩くも、女子同士で腕など組んでいなかった。
とはいえ、河合はご機嫌なので、腕を振り払うのも躊躇われる……
仕方無しに、腕を組んだまま歩くことにした。そんなこんなで、パルコまでそのまま進んでいった。
そこからショップに入ったのはいいが、試着室とかどうなんだ? とはいえ、サイズを合わせない訳にはいかない。戸惑いながらも、気に入ったワンピを手に試着室に入る。
着替える時、ブラとパンティーだけになった自分の姿が鏡に映る。こうして見ても、胸と股間がまぁアレだ。あるものがなくなって、隆起しているものがある。顔は、全くもって北欧系だし、髪は銀髪だし。
とはいえ、ワンピを着てみたいという女子の本能に抗えず、2、3着を着てみた。そこから少し迷った末、購入するワンピを決めた。
暫く、パルコの中を二人でぶらつき、「あれいいねー」とか「これ可愛いねー」とか、河合と言い合う。
オシャレ小物買う金があるなら、野球用具だ。
とか口にしていたオレが、見目麗しい同級生女子と雑貨屋さんにいる。しかも、そうすることにあまり抵抗がなくなってきたのだ。ホルモンバランスとは、つくづく恐ろしい。
可愛いは正義。
あの言葉は、嘘ではなかった。
存分に小物を見たり、服を見たりして、満足しながら外に出た。
そこから、BEE渋谷に寄って、ダーツをする。オレは、結構ダーツ好きなので、マイダーツを持ってきた。正直、プラスチックのハウスダーツは、投げにくい。
ズバっと、180を決める。よし、今日は調子いいぞ。
「うわー、拓巳くんって、野球だけじゃなくて、ダーツも上手いんだ」
河合は、小さく拍手していた。
「いや、今日は調子いいだけさ。けど、ダーツって、野球の応用が効くんだよ。肘を固定して、抜いて投げる。これって、肘投げの練習に打ってつけなんだ」
「へー。ねぇ、拓巳くん。投げ方、教えて、教えてよー」
「OK、そのくらいお安い御用だ」
河合がスローラインに立ち、ダーツを投げる。へろへろのラインを描き、どうにか3点に着弾した。
「あーん、分かんないよー。拓巳くん、もっとこっちに来て。腕を取って教えてよー」
「はいはい、分かりました」
オレは、河合の右腕を取った。すると、彼女はしなだれかかってきた。
「い、いや、河合さん? 右腕の動きを教えたいだけだから、そんなに全身を預けてもらっちゃ、かえって教えにくいのだが」
「いいじゃない。手取り足取り腰取り教えてよー」
これでは教えるもなにもない。仕方なしに、彼女から離れ、スローラインの後ろにあるスツールに座ることにした。それから、ハイスコアを3ゲームして外に出た。




