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TS、メスガキに出会う

「へい、パスパス」


 コート内に声が響く。それを合図に、相沢さんがどんぴしゃのパスを放ってきた。オフェンスであるオレの行く手には、神谷が立ち塞がっていた。コイツのブロックは、固い。


 しかし、オレはユーロステップを決め、神谷を抜き去る。ペイントエリア内に侵入し、レイアップシュート。見事に決まった。


「キャー、巧己くーん!」


 河合が姦しい声を上げ、声援を送る。それに続いて、他の数名の女子もキャッキャッと騒いだ。


 今度は、こちらがディフェンスとなる。


 神谷が、ドリブルしながら切れ込んできたが、それを止めることが出来なかった。彼女は、ディフェンス陣がいる手前で足を止め、シュートを放つ。ボールは、バスケットの中に入った。


 やはり、神谷の奴やるな。


「きゃー、ましろさまーーー!」


 神谷の親衛隊が(主に女子)、歓声を上げる。……いや、なんだ。互いに同性にモテて、どうするんだよ。


 待てよ。オレは、元男子だから、女子からチヤホヤされるのは、素直に嬉しいゾ。しかし、そのことを考えると、なんとも複雑怪奇な……


 また女バスの助っ人にやって来た。しかも朝練である。今は、まだ朝の7時20分。体育館の中には、バスケ部と卓球部しかいない。朝練しているのは、この二つの部だけである。


 3年のキャプテンが、休憩を指示したので、オレ達はコート脇に出た。


「ああ、そういえば。女バスも期待されているが、男子卓球部も期待されているんだって? 7月の大会でも上位にいけそうだと評判みたいだな」


 オレは、隣の卓球部に視線を送る。

 そう、朝練に付き合うことも大事だが、丸尾君の依頼も忘れていけない。


「そうなんだよー。卓球部も頑張っているし、女バスも負けていらないよね。来月の大会頑張るぞー」


 神谷は、燃えていた。


「ん? なんか、男子卓球部に女子が一人いて、やたらとチヤホヤされているのだが。練習中なのに、いいのかアレ?」

「ああ、アレね。あの子、1年の女子なんだって。ちょっとしたインフルエンサーらしいよ」


 相沢さんが答えてくれた。


「けど、たるんでいるよ。朝練中なのに、一人の女子にかまけているなんてさ」


 神谷は、仏頂面をした。


「まぁまぁ、ましろちゃん。でも、あの卓球部の女子さ。ちょっとオタサーの姫ってカンジだよねー」

「プッ。それは言い得て妙だな」


 相沢さんが毒を吐いたので、思わず笑ってしまった。


 と、件のオタサーの姫と目が合った。何を思ったのか分からないが、彼女はズカズカとこちらの方にやって来る。そして、オレの前で足を止めた。


「2年の塚原拓巳先輩ですよね? 元男子って、本当なの?」

「あ、ああ。マジだ」

「マジなん?」

「マジ」


 そう返すと、オタサーの姫は、オレを舐め回すかのように見た。

 彼女は、舶来のビスクドールみたいに整った顔をしていた。ツインテールであり、八重歯が可愛い。これは、確かに男子を魅了するタイプだわ。まぁ、背は低くて、チビだけど。


「……まぁいいわ。さて、ひなも、ちょっとは卓球の練習するかー。それじゃね、よわよわな塚原パイセン」

「よわよわ? オレの何処が、よわよわだっていうんだよ?」

「頭が。塚原先輩ってさ、スポーツは出来るけど、あんまり成績良くないタイプでしょ?」


 なんだと……何故、見破られたのだ。


 わなわな震えると、オタサーの姫は手をひらひら振って、去って行った。本当のことを言われて、悔しい。オレは彼女の背に、声をかける。


「名前。お前の名前を一応聞いておこうか」

「ひなはひなだよー。フルネームは、青空陽向(あおぞらひなた)っていうの。これからも宜しくね、よわよわの塚原パイセン」


 なんだコイツ。やたら煽り上手だな。煽り上手の青空さんかよ。


 陽向とかいう奴は、卓球部の方に戻った。そこから、女子卓球部にまざって練習する訳でもなく、ポーチからスマホを取り出し、ぽちぽちと弄り始めた。


「なにあの子。巧己くんを悪く言うとか、信じられない」


 河合は、ご立腹だ。


「うん、そうだよね。ちょっとボク、文句言ってくるよ」

「そうね。私も付き合うわ、ましろちゃん」


 河合と神谷が、卓球部の方に足を向けたので、慌てて止めた。


「ちょっと落ち着けって、二人とも。オレなら、大丈夫だから。大体、成績悪いのは、事実だし」

「そうか。まぁ、君が止めるのなら、いちゃもんをつける気はないけど」

「けど、巧己君。成績がイマイチなのは事実だし。それなら、期末試験に向けて、勉強をしなくちゃね」


 河合がそう口にしたので、オレと神谷は項垂れた。オレも2年なんだし、いい加減、勉強の方にも力入れないとな。


「おーい、ましろに相沢に拓巳君。そろそろ練習再開したいのだが、いいだろうか?」

「あ、はい」


 キャプテンが呼び掛けてきたので、オレ達は慌ててコートの中へと駆けた。

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