TS、相談される
「済まん、遅れた」
ちょっとした私用を済ませ、部活に顔を出したら、河合と丸眼鏡をかけた男子が、何やら深刻そうな顔をしていた。どういった状況なんだ、これ。
「河合、なにかあったか?」
「うん、そうね……詳しくは、卓球部の彼から聞いてみて」
言葉を受け、卓球部の男子生徒に向き直った。
「どうしたの? ひょっとして、困り事か?」
「え、ええ。そうなんです。僕一人じゃどうしていいか、分からなくて。ボランティア部が生徒の相談に乗ってくれると聞いたものですから……」
「うん、それじゃあ話してみて」
「ありがとうございます。先輩、これを見てください」
丸眼鏡をした彼が、スマホを差し出してきた。見てみると、画面にショート動画が映し出されていたが、サムネが酷かった。
「卓球部のチー牛くんw よわよわ男子でーす」
そんな笑えないサムネだった。動画は、ウチの高校の卓球部の練習風景で間違いないようだ。
ショート動画を見たが、終始彼をバカにする内容であった。
「これは酷いな。君、名前は?」
「1年の丸尾健一です。あの、先輩。これってどうにかならないですかね?」
「うーん、どうだろうな……オレ、あんまりSNSとか詳しくないから」
眉根を寄せると、河合が口を開いた。
「これは由々しき事態であると認識しました。ボランティア部として、丸尾君の依頼を受けます。そうですね……丸尾君の動画を撮った犯人をどうにかして捕まえる。そして、動画を削除させる。そのようにしたいのですが、如何でしょう?」
「は、はい。もし、それが出来れば、文句なしです」
「では、ボランティア部として、犯人を見付けられるよう鋭意努力します。何か進展がありましたら、丸尾君にLINEで知らせますね」
「はい、宜しくお願いします」
丸尾君は席を立ち、深々と頭を下げてから、部室を後にした。
「いや、河合さ。安請け合いしたものの、解決のあてとかあるの?」
「あまりないわ。けど、あのショート動画って、ウチの高校の体育館で撮影されたものでしょ? それも、卓球部の練習風景を撮れるとなると、犯人像は絞れてくるんじゃないかな?」
「確かにそうかも。少なくとも、外部の者――つまり、この高校以外の者が撮影したとは、考えにくい。わざわざ外部からやって来て、ウチの高校の部活風景を撮るとか、理由がない。そして、部外者が長い時間、体育館にいたら、騒ぎになってしまうはずだ」
「でしょ? つまり、犯人は、この高校にいるはずよ」
「そうだよな⋯⋯なら、体育館に行って、怪しい者がいないか、調べてみようか」
オレの言葉に、河合は頷いた。そこから二人で、体育館へと向かった。
皆、普通に部活している。特に怪しい者など見当たらない。いきなり、犯人臭い奴が見つかるとか、そう都合良くいかないよな。
ドリブル練習していた神谷であるが、目聡くオレを見付けたらしく、こちらへやって来た。
「やぁ、塚原。あのさ、お願いがあるんだけど」
「一応、聞いてみよう」
「明日の朝練、付き合ってもらえないかな?」
「ボランティア部への依頼としてなら、聞き入れよう」
「へへ、やった」
神谷は、指を鳴らした。
「ところで、神谷。体育館で、盗撮している奴とか見かけなかったか?」
「え、なにソレ? 美しすぎるボクを盗撮している輩が?」
「そんな奇特な奴、この世に存在しねぇよ」
「まぁ、冗談だけどさ。うーん、そうだな……ちょっと心当たりはないなぁ」
「そうか。けど、もし怪しい奴を見かけたら、オレに知らせてくれると助かる」
「分かった、心に留めておくよ。それじゃあ明日の朝ね」
神谷は手を振り、コートの中に戻っていった。身体を動かしてなかったし、女バスの朝練に参加するのも悪くないかも。
それから、オレと河合は、体育館の中を入念に見て回ったが、特に怪しい者など見つけられずに終わった。