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TSの部屋に、女友達が遊びにくる 3

 河合の方に目を遣ると、彼女はさくらんぼを食べていた。


それから、オレの方を見て、何か言いかけて──やめた。なんというか、悔しそうでも、悲しそうでもなく、 ただ置いていかれたみたいな表情をしている。


「あ、あのさ、河合。この前、ルームフレグランスの話をしていたじゃないか。お勧めとか、あるかなーって」


 取り繕うように言うと、河合の顔が輝いた。彼女は、持参してきたトートバッグの中から、タブレットを取り出す。


「巧己くん。私、いいの見付けちゃったんだー」

「え、マジで?」

「うん。えっとね、ブラウザにルームフレグランスの記事をブクマしておいたから、タブレットで一緒に見よ?」

「うんうん、それはいいね」


 河合は、テーブルの上にタブレットを置いた。ブラウザを開くと、そこに記事が載っていた。


「そうだ。ボランディア部でさ、生活向上しそうなものも取り入れてみようか」

「生活向上? というと?」

「うん、例えば、ルームフレグランスとか。人間って、香りに敏感なの。落ち着く香りとかあるわけ。それをちょっと部のSNSでポストしてみるとか。落ち着く香りなら、心が安定するし、集中したい時は、そういった香りにしてみるとか。そんなポストをしてみたらどうかな?」

「ああ、それはいいかもしれないな。なんか、皆のためになりそうだ。それならそうだな……ヨガで集中力アップとかどうかな?」

「うんうん、いいかも。拓巳君、冴えてるー」


 河合が褒めたので、なんか照れてしまう。取り敢えず、「生活向上しそうことをポストしてみる」と、メモに書いた。そうしてから、ルームフレグランスのサイトを見ようとした。


 しかし、オレは彼女の対面に座っているわけで、タブレットの画面が逆さまだ。それを察したかのように、河合が声をかける。


「巧己くん、それじゃあ見辛いでしょ。私の隣に来たら?」


 え? それでは、河合の隣に行くことなり、身体が密着するよな。どうしたらいいものやら……


 眉間にしわを寄せると、神谷と目が合った。


「ルームフレグランスだって? は、そんなのくだらないね。それより塚原。ボクと一緒にスラムダンクを見ようって」

「あーあ、これだからガサツな女子は困るのよねー。お部屋がいい香りになるなんて、素敵なことじゃない。けど、女子力の低い誰かさんには、分からないことかー」

「な、なんだよ。女子力低いって、ボクのことを言ってるのかい?」

「あら、そんなこと言ってないけど。もし、そう聞こえたのなら、自意識過剰なんじゃなーい」


 二人は、また火花を散らした。


 と、そこで気配がした。おもむろにドアを開けると、廊下には、耳をそばだて、立っているお袋がいた。


「あのさぁ、お袋……」

「おーほほほほ。これは失敬。おーほほほほほ」


 お袋は高笑い。オレは頭を抱えた。


 前にはお袋がいて、後ろから河合と神谷の尖った声が聞こえてきている。前門の虎、後門の狼状態じゃねーか。なんで、オレの部屋がこんなに殺伐としているんだよ。


「おろ? アレはなんだ」

「なによ。話を逸らさないでよね、ましろちゃん」

「いや、ちょっと待った。ボク、気付いちゃったんだよねー。ベッドの下に、わざとらしく衣装ケースが二つ並んでいることに」

「えっと、それは……」

「ベッドの下に何かあるっていうのは、アレだよね。アレ」

「あ、アレ」


 後ろを振り向くと、河合が顔を赤くしていた。


「うわ、バカ。やめろお前ら。そんなところに、Hな本とか断然ない。絶対にないんだからな!」


 慌てて駆け寄るも遅かった。神谷が、衣装ケースの取っ手を引き、手前に引いた。ああ、オレのシークレットアイテムが。


「あ、こ、これは……」


 神谷は、息を呑んだ。そこには、野球部時代のユニフォームやら、帽子、土で汚れた硬式球があった。


 Hな本も見られたくなかったが、野球用具も見られたくなかった。そんなものを後生大事にまだ持っているとか、未練がましいにも程がある。


「え、えーと……」


 神谷は頬を掻いてから、おもむろに頭を下げた。


「ご、ごめんない! てっきりHな本でも入っているかと思って。そんで、塚原のことをからかってやろうかと思ったんだ。それなのに、こんな……」

「巧己くん、私もごめんなさい。つい、好奇心に負けちゃって、覗き見てしまいました」

「い、いや。別に構わないよ。二人とも、頭を上げてくれよ」


 なんか、かえってオレが、恐縮してしまった。


 なんかアレだな。こうして慇懃に頭を下げられると、かえってこっちが畏まってしまうんだな。野球用具は見られたくなかったが、よく考えてみれば、大事件ってほどでもない。Hな本を見られたほうが、逆にクリティカルだった。

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