TSの部屋に、女友達が遊びにくる 2
部屋の扉が開いた。お袋の顔面が、蒼白になっている。
「た、大変よ、拓巳ちゃん。またまた美少女がやってきたの!」
そうか。それじゃあ、相沢さんか、加藤さんが思い直して、来てくれたのだろう。
オレは、ホッと胸を撫でおろした。
「どうもこんにちはー」
そう言って、扉から部屋に侵入してきたのは、意外な人物であった。神谷ましろである。
「いや、なんでお前が来たんだよ」
「あ、それは酷いな。ほら、2,3日前に、塚原のウチに遊びに行っていいかって、ラインで尋ねていたじゃないか。その時、キミがOKしたから、こうして来たっていうのに」
「言われてみれば、確かにそんな遣り取りをしていたな……」
渋い顔をしたが、内心では安堵していた。このまま、河合と二人きりでいたら、ちょっと耐えられなかった。
「あら? お呼びじゃない人が、やって来たわね」
「はは、押しかけてしまって済まなかった。でも、ボクはお邪魔じゃないんだなー、これが。ね、親友の塚原くん」
なんだろう。二人の視線が絡み合って、火花が散っているように見えるのは、気のせいだろうか。それに、部屋がピリッとひりついたような⋯⋯
「いや、神谷さ。オレの部屋に来るのは構わないけど、その前に連絡くらい寄越せって」
「あ、いや……確かにそうすべきだった。済まなかった。けどさ、田舎のばあちゃんが、さくらんぼを送ってきてくれて。美味しいから、どうしても塚原にも食べてもらいたくて。フルーツは、鮮度が命だから」
神谷がそう口にしたところで、トレーを携え、お袋がやって来た。トレーの上には、硝子の皿が乗っていて、そこに件のさくらんぼが入っている。
「どうぞごゆっくりね」
お袋は、テーブルの上に硝子の皿を置き、去って行った。
「折角だし、頂こうか。有り難うな、神谷」
「うん、どうぞ召し上がって。7月中旬だと、さくらんぼもギリギリ最後のやつなんだ。本来なら、6月のが一番旨いんだけどね」
「へー、そうなんだ。——って、これは旨い! 河合も食べて、食べて」
「……それじゃ、頂きます」
河合は、口にいれ、目を丸くした。
「ホントこれは美味しいわね」
「だよねー。うんうん」
神谷は、満足そうに頷いた。
「ところで、塚原。バスケのフォーメーションのことなんだけどさ」
「その話はまた今度。大体、相沢さんの足首も良くなって、オレの助っ人期間は終わったんだし」
「それもそうか。でもさ、これからも女バスの助っ人に来てくれよな。塚原なら、いつだって歓迎だし」
「うーん……まぁ、運動不足ではあるからな。身体を動かしたくなったら、顔を出してみるよ」
「そっか、やったね」
神谷は、指を鳴らした。そうしてから、本棚の方に行き、しげしげと本を眺める。
「あ、スラムダンクあるじゃん。読んでいい?」
「ご自由にどうぞ」
「うわー、久しぶりだなー。楽しみだよー」
神谷は、単行本3冊手に取り、クッションの上に座って、寛ぎながら読み始めた。
いや、コイツ、馴染み過ぎだろう。この部屋は、オレの部屋であって、お前の実家じゃないんだぞ。




