TSがいると、家庭崩壊するのか?
一週間が過ぎた。その間、オレはボランディア部に行ってから、律儀に女バスの練習にも通った。
相沢さんは、軽い捻挫であった。来週からは部活に復帰できそうなので、ホッと胸を撫で下ろす。これでバスケ部の助っ人に行くのも、お役御免となるだろう。
そんなことを思い起こしながら、自宅のダイニングキッチンで、晩飯を食っている。
なんというか、オレは北欧系美少女にTSしてしまった訳だが、それで今の家庭はどうなっているのかというと……
本来であれば「息子がTSして、娘になった!」とか「跡取りが消えた!」と、親が大騒ぎしていてもおかしくない。そのはずであるのだが、現実は違った。
実のところ、ウチの親父もTSパンデミックに罹患し、厳格な父から金髪美少女にジョブチェンジしていた。
かつての父・裕一郎は、今や金髪ツインテール少女と成り果て、母の隣に座っている。
「はい、裕一郎さん。タコさんウインナーですよー」
「わーい。裕一郎、タコさんウインナー大好きー」
「はい、アーン。どうぞ召し上がれ」
裕一郎と呼ばれるかつての親父は、あーんと口を開け、お袋から口に入れられたタコさんウインナー頬張り、ニンマリとしながら咀嚼した。
「おいし~い。ありがとう、ママ」
「うふふ、どういたしまして」
金髪少女親父が褒め、お袋がはにかむ。なんなんだこの光景は。
地獄かな?
家庭崩壊こそしちゃいないが、これはこれでヤバい光景。
オレは嘆息し、タコさんウインナーを食べた。
もしかしてなんだけど、オレがあっさりとTSパンデミックを患ってしまったのは、親父からの遺伝子の影響がデカいんじゃね。
因みに、親父は会社をクビになるどころか、今度昇進するらしい。TSパンデミックは社会的にも認知されていて、罹患した者は同情の対象になり、かえって受け入れられていた。
「あのさぁ、お袋」
「なにかなー、拓巳ちゃん」
とうとう「ちゃん付け」になってしまった。
「明日、女友達が遊びに来ることになったんだけど、いいかな?」
「まぁ、それは目出度い! そっかー、もう拓巳ちゃんも隅に置けないわね。なら、お赤飯を炊かなくちゃねー」
「いや、そうじゃねーだろ。オレは女子になっていて、そんでもって女友達を呼ぶんだから」
「そ、そうね。なら、赤飯じゃなくて⋯⋯というか、よく考えると、同性の友達が来るなら普通であって、祝い事じゃないわ。男子が女子になって、アレがああなって、こうなっているから、ええと⋯⋯」
お袋は混乱している。10のダメージを受けた。
このカオス空間に耐えきれず、オレはさっさと飯を平らげて部屋に戻った。
明日、河合がこの部屋にやって来る。
メジャーリーガーのポスターを貼っているが、イケメングループのポスターにでもしようかな⋯⋯




