TS、ボクっ子と勝負する 3
練習が終わった後、着替え。オレは、女バスの皆が着替え終えてから、遠慮がち更衣室に入った。まだ女子と一緒になって、着替えることに抵抗がある。
私服に着替えてから、更衣室の扉を開ける。そこには、神谷がいた。
「塚原くん、お疲れ。練習に参加してくれて、サンキューな」
「いや、こちらこそ。部活辞めてから、なまっていたんだよ。久々に身体を動かせて、かえって良かった」
「そうか、なら良かった。じゃあ、一緒に帰ろうか」
神谷がそう口にしたので、一緒に下校することにした。
「それにしても、神谷は人気あるな」
「主に女子にだけどね……正直、なんだかなぁってカンジだよ」
神谷はそう口にして、自虐的に笑った。
「うーん、オレもそうかもなぁ。まぁ、なんだ。お互い大変かもな」
「そうかもね。けど、なんで……」
「どうかしたのか?」
「なんでだろう。ボクは普通の女の子なのに、なんで女子にモテるんだ? 一体、どうなっているんだよ。なんか不条理だ」
神谷は、溜め息をついた。
そりゃあ、お前の外見が宝塚っぽくて、貴公子っぽくて。ついでに、あのちゃんみたいなボクっ娘口調だからだろ。不条理でもなんでもない。
とは、流石に言えなかった。
「ところで、ボランティア部がどうこうとか聞こえたんだけど。そもそもボランティア部って、なにさ?」
そうか、河合との会話が、神谷にも聞こえていたのか。一応、コイツにも説明しておくか。
「ボランティア部とは、長らく休眠状態だった部活だが、この度復活した。地域ボランティアや、生徒達からの要望なんかを聞いたりする部だな」
「へー、そうだんだー。へー。それってつまりさ、君も部員ってことなの?」
「そう、部員は今のところ、オレと河合しかいない。絶賛、部員募集中だ」
「そっかー。なら、部員集まるといいね。ボクも応援させてもらうよ」
「それはありがたい」
神谷とそんなことを喋りながら、家路についた。
翌日の放課後。
相沢さんは、捻挫をしていたので、オレは彼女が部に復帰するまで、バスケ部の助っ人を続けることにした。ボランティア部の初めての依頼なので、気張ってやらなければ。
体育館に行く前に、河合と一緒にボランティア部に寄ることにした。依頼も入ったので、意気揚々と部室を開ける。
「やぁ」
なんか、扉を開けると、神谷がいた。部室の椅子に座り、寛いでいる。
見なかった……見なかったことにしよう。
オレは、ピシャリと扉を閉めた。
「ど、どうしたの、巧己君」
後ろにいる河合は、何事かと驚いている様子。
「どうしたこうしたも……まぁ、開けたら分かるよ」
言葉を受け、河合はそろそろと扉を開けた。そして、声を出す。
「ま、ましろちゃん! なんでアンタがここにいるのよ?!」
「いやー、部員二人だけじゃ足りないかと思ってさ。ボクも入部することにしたんだ。勿論、バスケ部との兼部になるけどね。これから宜しくな」
「アンタは要らない子! この部は、私と巧己君だけの愛の部室なの!」
「なんだそりゃ!?」
オレと神谷の声がハモった。
うっかり本音を漏らしたらしい河合は、慌てて口を押さえた。
「いや、神谷。部員が増えるのは、素直にありがたい。けど、お前バスケ部の主力だろ? 兼部なんかして、いいのかよ?」
「大丈夫だ、問題ない。毎朝6時から自主練してるし、兼部したところで練習量は落とさないさ」
「うーん、ならいいか……しかし、神谷。来月には大会あるんだし、程々でいいからな」
「その辺は心得ているさ」
神谷は、断言した。しかし、なんだろう……なにげに悪い予感がするのは、気のせいだろうか。
河合は、全く納得していないらしく、口を尖らせていた。
それから30分ほど部室にいて、3人で部室を出て、体育館に向かった。ボランティア部の本格的な活動は、相沢さんがバスケ部に復帰してからになるだろう。
しかし、河合と神谷とオレの部活か。
どうなることやらと、頭振りながら廊下を歩いた。




