第64話 悪役令息のお茶会
フランツィスカの屋敷。マーガレットの部屋にて。
ソファに仲良く並んで腰かけているマーガレットとシャルロッテの二人は、『とある本』を食い入るように熱心に読んでいた。
本には、ある物語が綴られていた。
物語の内容は『姫と騎士の愛の逃避行もの』という、よくある話だった。
マーガレットは本とにらめっこしているシャルロッテの様子を窺っていたが、ふと悪戯心が芽生えたのか、シャルロッテの耳元で本の内容を音読し始めた。
「姫様は僕が他の女性ばかり追いかけていると言いますが、僕にはあなたしかいないのです。本当は騎士も家柄もすべて捨てて、今すぐあなたを攫ってしまいたいとさえ思っているのに……ああっ、愛しのシャルロッテ、愛しています(キリッ)」
「ぅきゃあぁぁァァァァ――――~っ‼」
突然物語の騎士に名前を呼ばれ、興奮して野生の獣のような雄叫びを上げたリアルお姫様の声に、マーガレットは度肝を抜かされビクリと身体を震わせる。
お、驚いたー。
おっとりしたお姫様なシャルロッテでもそんな声が出せるのね。
実は、マーガレットは自作の短編小説がなかなか上手く書けたので、遊びに来たシャルロッテに読んでもらっていた。
サービス精神でついヒロインの名前を「シャルロッテ」と付け加えて読んでしまったけど、反応からしてやっぱりシャルロッテは姫と騎士の恋愛ものに興味があるのかもしれない。
シャルロッテって騎士マティアスルートの恋敵として登場するし、やっぱり騎士様が好きなのかしら。
ヒロインのアリスが誰を選ぶかによって私を含めた恋敵たちの未来も変わるので、私もシャルロッテも実は運命共同体なのかもしれない。
といっても、シャルロッテには幽閉エンドなんてひとつもないのだけど。
ソファに座るシャルロッテは、今も足をバタつかせてマーガレットの読み聞かせに悶えている。
「ふあぁぁぁぁ~~っ、何なんですこの刺激的な恋のお話は。すっごくドキドキしてしまいました」
今までお城で王家選定の児童文学しか読んでこなかった八歳のシャルロッテには、ひっくり返るほどの衝撃だったのだろう。
今も天井を見つめて、興奮気味に早口で感想を言っている。
ただ、純粋な子に悪いことを教えてしまったような、真っ白だったキャンパスにシミをこぼしてしまったような妙な罪悪感があるけれど、気付かなかったことにしておこう。
罪悪感から目を逸らした私は、にっこりと笑って本のページをめくる。
「シャルロッテ、他にも刺激的な物語を書いたのよ。『悪役令嬢もの』と『異世界転生もの』…………さあ、どっちから読む?」
★☆★☆★
ヒヒィ―――ン。
二人が物語を読み終えた頃、窓の外から馬の嘶きが聞こえた。
気付いたシャルロッテは、軽快なステップで窓へと駆け寄る。
「あ、やっぱり王家の馬車。お兄様かしら……お出迎えしましょう!」
窓の外に見知った馬車を発見したシャルロッテは、マーガレットの制止も振り切って、部屋を飛び出して一階の玄関ホールへと走り出す。
「もうシャルロッテったら。本当のお姫様は物語よりもじゃじゃ馬ね。クレイグ、ミゲル、追いかけるわよ」
ため息を吐きながら、マーガレットは二人の従者を引き連れて一階へと向かった。
ところで、どうしてフランツィスカ家に縁のなさそうな、シャルロッテの兄であるゼファー第二王子殿下が来訪するのかというと……実は今日、フランツィスカの屋敷ではマーガレットの兄・イグナシオ主催の大規模なお茶会が開かれるのである。
ローゼンブルク王国の男子は、昔は十二歳で大人と認められていたため、十二歳の時に貴族令息たちを家に招いて親睦を深めるという風習がお茶会として今も残っている。
そのため、今日は十代の少年青年たちがフランツィスカ家に大勢やってくるのだ。
招待リストを見せてもらったけど、中には『恋ラバ』の登場キャラも数名招待されているみたい。実は私も『恋ラバ』の登場キャラたちに会うことが楽しみ過ぎて、その熱量で自作の小説を書いてしまったのだった。
玄関ホールへと続く階段を降りたところで、マーガレットたちはようやくシャルロッテに追いついた。




