表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/194

第48話 モヤの中の誰か

 結局、マーガレットたちはソレイユタウンに三日間滞在し、復興を手伝った。

 王都からの支援部隊も到着し指揮権も部隊に移譲したので、マーガレットたちはついに王都へと帰ることとなった。


 その王都への帰り道、馬車に揺られたマーガレットはあんな恐ろしい事件に巻き込まれたにもかかわらず、とても上機嫌だ。


「孤児院が建てられそうで良かった。お願いを聞いてくれてありがとう、お祖父様」

「可愛い孫娘の頼みなら何でも聞くとも。重い氷の瓦礫(がれき)をマーガレットが片付けてくれたから、すぐにナイロが取り掛かるだろう」


 ナイロは、イグナシオの従者のサイラスの父の名だ。

 サイラスの実家はフランツィスカ領で『フロート建設』という名で建設業をしている。

 私がうっかりあけてしまう屋敷の壁の穴も、フロート建設の王都支社に頼んでいつも直しているらしく、ナイロさんからは「いつもありがとうございます」と直接感謝されてしまった。


 悪役令嬢といえど、まだ六歳のか弱い少女なので、壁を破壊して感謝されるのはちょっぴり複雑である。

 ルードヴィヒは思い出したようにマーガレットに話しかけた。


「しかし、もっと何か欲しいものはあったりしないのかい? 可愛いドレスや人形、宝石だっていいのに……孤児院の再建や炊き出しがしたいなど、現実的すぎてお祖父様はマーガレットが心配だ」

「孤児院の再建なんて、かなりぶっ飛んだお願いだと思うのだけど。お祖父様は私を甘やかしすぎよ」

「いやいや、それだけでは私の気持ちがおさまらない。他に欲しいものはないのかい?」

「うーん、それだったら……」

「ふむふむ?」

「…………」

「遠慮しないで言ってくれ、マーガレット」

「……クレイグを私の従者から外さないで。それが私の欲しいものよ」

「…………くっ、どうしてそんな難しいことを言うんだ」

「え、孤児院を建てるよりもずっと簡単なお願いでしょー!?」


 不意を突かれたルードヴィヒは黙り込み、クレイグも気まずそうにどこか遠くを見ている。馬車の中には何とも言えない空気が流れるのだった。




 馬車に揺られ帰路につく中、ルードヴィヒはマーガレットの変わりように改めて驚いていた。


 我が孫娘は、一体どうしてしまったのだろうか。

 ついこの前まで「おじいさま、おじいさま」と無邪気に笑ったかと思うと、ビービー泣いて我が儘ばかり言う子供だったのに「従者を外さないで」が願いだと……。


 そもそも従者にマフラーを巻いてやったりポテトを食べさせたり、なぜそんなに世話を焼くのだ。

 この従者をそんなに気に入っているのか? お気に入りなのか?

 好きなのか? ラブなのか? 結婚したいのか?

 いやいやいや、いやいやいやいや…………そんなわけあるはずない。


 それとも従者への優しさからなのか。

 優しさからだとしたら、マーガレットは天使の生まれ変わりで、背中に羽根を隠しているのかもしれない。

 どれ、あとで背中をさすってみよう。


 親バカならぬ祖父バカをこじらせたルードヴィヒは、ふと馬車の窓の外に目をやる。

 窓の外には真っ白な雪景色が広がっていて、ルードヴィヒの興奮した頭も少しだけ冷えたような気がした。ルードヴィヒは、心のどこかに引っかかりを感じていた。


 最近のマーガレットを見ていると、誰かを思い出す。

 白い(もや)の先の懐かしい誰かを……。




「お祖父様、大丈夫?」


 ふとルードヴィヒの眼前に、心配そうに覗きこむマーガレットの姿が広がった。

 

 私と同じ赤毛を引き継いだ、小さなマーガレット。

 眉をハの字にして心配そうに私を見つめる姿も、誰かの面影を彷彿とさせる。


 ルードヴィヒはマーガレットを抱き寄せて、膝の上に乗せ背中をさすった。


「あはははっ、お祖父様ったらくすぐったいわ」


 どうやら天使の羽根は、生まれる時にレイティスの中に忘れてきたらしい。

 声を出して楽しそうに笑うマーガレットの横顔に、ルードヴィヒはある既視感を覚えた。


 ――すると、かかっていた(もや)が晴れていく。


 マーガレットが誰かに似ていると思ったが、ようやくわかった。

 しかしそうなると……マーガレットは波乱の人生を送るかもしれない。


 できれば王家に深く関わってほしくはないのだが……うちの家系は()()()()()があるからな。目立つことはなるべく避けるべきだ。

 今回の件が大きく扱われぬように手心を加えるべきか。


 馬車に揺られ、自分の膝の上でスヤスヤと眠る孫娘の髪を優しく撫でながら、ルードヴィヒはある人物を思い出し、深いため息を吐く。



 ルードヴィヒの不安は、馬車が王都へと近付くほど大きくなっていくのだった。




お読みいただきありがとうございます。



次の話は、

マーガレットたちが氷の祭典に行っている間の、フランツィスカ家のある日の出来事です。

まったり過ごしていたイグナシオたちのもとに、不穏な報せが届きます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ