第44話 温かい感触
ドオォォォォォンッッッッっっ!!!!
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雪煙が舞う。
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爆発音で驚いて固まってしまった警備兵たちを払いのけ、クレイグはマーガレットのもとへと向かった。
雪煙の中、マーガレットのシルエットがだんだんと鮮明になっていく。
そして完全に雪煙が晴れると――人々を閉じ込めていた分厚い氷壁は半分以上消失し、氷壁どころか建物自体が半分吹き飛んでしまっていた。
「皆さんっ、早くこちらから出てください!」
目の前で起きた目を疑うような出来事に、人々は閉じ込められていたことも忘れてあ然としていたが、マーガレットの言葉でようやく我に返って、氷の神殿から逃げるように脱出した。
そして、マーガレットが一番助けたかった祖父ルードヴィヒも驚いた表情のまま、マーガレットをぎゅっと抱き締める。
「マーガレット」
「……おじいさまっ、無事でよかった」
ルードヴィヒの温かい感触を確かめたマーガレットは翡翠の瞳をじんわりと潤ませ、ルードヴィヒの胸に顔を埋まらせる。
「正直、もう終わりだと思っていた。マーガレットのおかげで助かったよ、ありがとう。これがマーガレットの賜物なんだな。何人もの人を救って、何て自慢の私の孫娘だろう」
「私ね。お祖父様を助けたい一心で、お祖父様からもらったこの扇子に力を込めたの……でも込めすぎちゃったかしら。ちょっとやりすぎちゃったかも」
ルードヴィヒから贈られた特注の扇子はとてつもない一撃を放ったのに傷ひとつなく、もらった時と変わらぬ輝きを放っている。
対して神殿は……
マーガレットは半分消し飛んだ神殿に目をやった。
改めてみると私の賜物恐ろしすぎない?
まるで大怪獣がビームでも放ったみたいに何もない。
今さらながら、この賜物が恐ろしく思えてきた。
「ははは、そう気にすることはない。時間はたっぷりあるのだから、賜物の制御はこれからゆっくり学んでいけばいい。それにほら、見てごらん」
ルードヴィヒはマーガレットの肩を抱いて後ろを振り向かせた。
そこには氷壁から助けた人々が、家族や知り合いと抱き合って生還したことを喜び合う光景が広がっていた。
そっか、私はこの人たちを救うことができたのね――――よかった。
気が抜けたのかマーガレットはそのまま気を失ってしまった。
★☆★☆★
目を覚ますと、マーガレットは貴族用のテントで横になっていた。
私、どうしたんだっけ……。
「マーガレットお嬢様! お目覚めになられましたか。よかった」
「クレイグ。私、どうしたの」
「お嬢様は大旦那様たちを助けられたあと、倒れられたんです。賜物の力を使い過ぎてしまったとお医者様が言っていました」
「そっか。お祖父様を助けたくって、持てる力を全部使っちゃったから……お祖父様は?」
「大旦那様は、隣のテントで怪我の治療と検査をなさっています。かすり傷ではありましたが、大事があってはいけませんので。お嬢様もお疲れなら、もう少しお休みになってください」
「えぇ、そうしたいけど…………ねぇ、あの人だかりは何なの?」
マーガレットは指で差さないように目線でクレイグに示して尋ねた。
マーガレットの視線の先には、貴族用のテントの前に並んだ人々がこちらを見ては通り過ぎていくという、奇妙な光景が広がっていた。
なぜかあの人たちから、ものすごく視線を感じるんだけど。
明らかにマーガレットを見ようと背伸びをしている人、手を合わせて拝んでいる人までいる。
まるで動物園の人気者にでもなったような気分。どういうことなの?
「ああ、それはですね。今、面白い流れができていまして」
「おもしろい……ながれ?」
「はい。まず、逃げていった人々の大半は安全が確認されたあと、街へと引き返してきたのです。すると、あの半分になった氷の神殿を見て『神殿はどうした?』と訊きます。そして状況を知っている人が『あそこにいるご令嬢が、賜物で神殿を半分吹き飛ばして閉じ込められていた人々を救った』という話が広がり、お嬢様をひと目見たいと野次馬ができてしまったのです」
「……なっ、何よそれ!?」
「もうかれこれ三十分ほど、この調子ですよ。僕はもう慣れました」
「つまり、この人たちは気を失った私の姿を見に来ていたの? あの半分になった神殿を見たあとに」
神妙な顔をするマーガレットにクレイグはそっと告げた。
「……今のところ行方不明者もおらず、お嬢様が吹き飛ばした人もいないようです。よかったですね」
「っ! ……そっか、よかった~」
マーガレットは寝返りをうって、野次馬から見えないように笑みをこぼした。
あの時、咄嗟の判断で賜物を使ったけど、安全確認もしないで発動してしまって後悔していた。誰も巻き込まれていないで本当によかった。
「神殿の中にいた方たちは、名簿があって全員確認済みです。皆さん、トライセンさんの大声に驚いて何事かと入り口まで戻って来ていたようですし、お嬢様が気に病むことはありません」
その時――バタバタと大勢の足音が聞こえてきた。
ある人物が警備兵たちを引き連れてテントへとやって来たのだ。
―――トライセンだ。