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第43話 壁

「ねぇ、ちょっと待って。し、神殿が崩れたってお祖父様は……お祖父様は無事なの!?」


 すぐに帰ってくると言ったのに、お祖父様はいまだに姿を見せない……まさか。


「お嬢様っ!」


 マーガレットは居ても立ってもいられず、馬車から飛び出した。

 クレイグの制止も振りほどいて、無我夢中で氷の神殿へと急ぐ。


 逃げてくる人々にぶつかりながら、マーガレットは逆走するように氷の神殿のある広場へと走る。




 広場付近は土煙(つちけむり)ならぬ雪煙(ゆきけむり)があがり、そこにあったはずの出店も、可愛い雪像も立派な氷像も、近くの建物までもが神殿に巻き込まれてボロボロに崩れてしまっている。


 何よこれ―――さっきまであんなに楽しそうに皆笑っていたのに。


 マーガレットは青ざめた表情で氷の神殿へとたどり着く。いいや、氷の神殿だったものというのが正しいだろう。


 神殿の氷の屋根は入場口側に倒れて地面に突き刺さり、神殿の高さも半分ほどになっている。神殿を囲むように立っていた長い氷の柱は、倒れたり折れたり潰れたりと原型を留めているもののほうが少ない。


 嘘よ、嘘……。


 どんどん血の気が引いて指先から冷たくなっていくのを感じる。


「マーガレットお嬢様っ」


 マーガレットの名を呼んだのは、ルードヴィヒと一緒にいたはずのルードヴィヒの従者だった。


 従者はおぼつかない足でフラフラと歩きながらマーガレットのもとへとたどり着くと、ガクッと膝をつく。従者の頭からは少量の血が垂れている。


「お祖父様は、お祖父様はどこなの!?」

「申し訳ございません、お嬢様。ルードヴィヒ様は私などを庇って……」

「え、どういうこと!?」


 従者は何か言いかけたがそれ以上口にせず、神殿を見つめた。

 従者の見つめた神殿の入場口あたりには、大勢の人々が集まっていて何か叫んでいる者もいる。


 もしかして、お祖父様もあそこに!?


 マーガレットは駆け出した。

 ようやく追いついたクレイグもさらに追いかける。


 そして、マーガレットは自分の目を疑った。

 そこには崩れた神殿でできた氷の壁があり、その透明な壁の中には出口を塞がれて神殿内部に取り残された人々が助けを求めていたのだ。


 そしてその中に――


「お祖父様っ‼」


 祖父ルードヴィヒの姿もあった。


 マーガレットはルードヴィヒの眼前の氷壁までやって来て、二人を隔てている氷の壁を叩く。気付いたルードヴィヒもかがんで、氷壁越しにマーガレットの手に手を合わせた。

 ルードヴィヒは何か言っているが、分厚い氷壁のせいでよく聞こえない。

 ジェスチャーから離れるように言っているのかもしれない。


 ドオォォォ―――――ン。


 少し離れた場所の氷壁では、自警団や警備兵たちがハンマーで氷を割ろうとしたり、火をつけて氷を溶かそうと奔走している。


「駄目だ。この氷、分厚すぎてビクともしない」

「この氷は屋根用に作った氷だからな。細工して氷を重ねていって頑丈になっちまったらしい」

「でも早く穴を開けなきゃ……潰れちまうぞ」


 ゴゴゴゴゴ……。


 人々を隔てている氷壁は重さに耐えきれず軋みながら、ゆっくりと地面に近付いてきている。このままだと神殿の中の人たちは――――助からない。


「すみませんが、関係のない方々は危険ですので離れていてください。さぁお嬢さんたちも」

「関係なくなんてないわ! そこにいるのは私のお祖父様だものっ」

「……ここは危険なので、もう少し遠くで離れて見守っていてください。私たちも最善を尽くしますから」


 マーガレットとクレイグは警備兵に肩を持たれて安全な場所へと連れられていく。




 この人たちは最善を尽くすと言っているけど、あの氷壁が傾き続けていつ潰れてしまうかわからない。そうなったら、お祖父様は……。


 お祖父様はそこにいるのに……

 見守っていることしか、無事を祈ることしかできないの!?

 そんなのは絶対に嫌よ!


 あの分厚い壁を破壊できたら手っ取り早いのに……私の賜物(カリスマ)を使えば。

 でもハンマーでも壊せない氷壁を、私の賜物(カリスマ)で壊せるかしら。


 マーガレットは胸元に何かを感じた。


 これは、お祖父様からもらった扇子。

 お祖父様が私のためにと用意してくれた、もしものための武器。


 ――そう、今がその『もしも』の時よ!

 お祖父様や閉じ込められた人たちを救うために、やるしかない!


 マーガレットは胸元から扇子を取り出すと警備兵の腕を抜け、踵を返して氷壁へと走り出す。氷壁にたどり着くまで十秒ほど―――その間にマーガレットは右手に握った扇子に持っている力と、願いを、すべて注ぎ込んだ。


 グリンフィルド先生の授業の甲斐あってか、力が集まるのが早い気がする。


 警備兵はマーガレットを止めようと手を伸ばしたが、逆にクレイグに腕を掴まれて引き止められてしまった。


 ありがとう、クレイグ。


 氷壁の中にいる人たちに危なくないように、自警団の人たちがハンマーを打ち込んでいたちょっと離れたあの辺りに賜物(カリスマ)を打ち込みましょう!


 勢いをつけて走って来るマーガレットに気付いた警備兵たちも止めに入ったが、身体強化されたマーガレットは素早く、誰にも止められない。

 

「どいてどいて――! 氷を破壊するからああぁぁぁぁ――――っ」


 ドオォォォォォンッッッッっっ!!!!


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