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第39話 二人の禁止用語

 クレイグの望みと祖父の返事に違和感を覚えたマーガレットは、歓迎会がお開きになって自室に戻ると、すぐにクレイグに質問した。


「ねえ、クレイグ。さっきはどうしてお祖父様にあんなお願いを言ったの? 従者としてこれまで通りなんて、お願いでも何でもないと思うのだけど」

「それはその…………大旦那様は僕にあまり良い感情を持ち合わせていらっしゃらないように感じたものですから」

「え、どうして?」


 予想外のクレイグの言葉にマーガレットは声を裏返す。

 動揺しているマーガレットに対して、クレイグは静かに返した。


「今は子供だからいいですけど……大事な孫娘の、マーガレットお嬢様の身の回りの手伝いを、男の僕がしているのは将来的によくないと思ってらっしゃるのではないでしょうか……旦那様もちょっと怒られたと仰られたので」

「えぇっ!? そうなの……異性の従者ってそんなにいないのかしら。シャルロッテたちもそうなのに」


 お兄様の従者は言わずもがなサイラスだし、アヴェルの従者も同性だ。お父様も同性。お母様は侍女のタチアナだし……確かに、言われてみれば同性が多いかも。


「最近は増えたようですが、男女の主従は絶対に認められなかったそうですよ。昔いろいろとあったらしくて」

「ふーん、いろいろって恋仲とかそんな感じよね。私とクレイグに限ってそんなことあるわけないのに、お祖父様ったら心配しすぎよ」

「僕もそう思います。もうすっかりお嬢様の()()姿()()()()()()()しまいました」


 クレイグの言葉に前世の年齢二十歳越えのマーガレットは顔を真っ赤にした。


「ぶっ! それはそれでダメでしょ!? ……もうっ、失礼しちゃうわ」


 とマーガレットは口を膨らませて抗議している。

 クレイグにはマーガレットの怒った意味が理解できず、顔に「?」が浮かんだままだ。


 そう、クレイグはまだ六歳。分かるはずもない。というか分からなくていい。

 確かに着がえる時にクレイグに手伝ってもらうから、私の下着姿には見慣れているでしょう。

 でも下着姿も見慣れたなんて言い方したら、私がクレイグの前で下着でいることが普通みたいじゃない。


 ――それじゃ、お祖父様が危険視している『男女の仲』そのものだもの!


「いーい、クレイグ。お祖父様の前で、いいえ、その他の人の前でも『私の下着姿に見慣れた』なんて言ってはダメよ。それこそ、従者辞めさせられちゃうんだから」

「え!? そんな恐ろしい言葉なんですか……一体どういう意味なんです?」

「そ、それは…………お、乙女にそんなこと聞かないで!」

「……おと、め?」

「あ、ちょっとクレイグ。何よ、その乙女どこだろうって顔は――っ、キョロキョロしない!」


 あたりを見回していたクレイグの真紅の瞳が、ふと窓の外の光景に目を奪われる。

 窓の外では白い雪がふわふわと羽根のように舞い散っていた。雪に気付いたマーガレットも目を見開いた。


「あ、雪が降ってる。わあぁぁー積もるかしら。楽しみね……クレイグ?」

「…………僕、雪って初めて見ました」


 窓辺に駆け寄ったクレイグは、硝子窓に温かい息をかけながら暗い空を見上げていた。クレイグにしては珍しく興奮しているようだ。


 マーガレットの記憶だと王都ローゼンブルクは毎年降っているようだけど……クレイグってもうちょっと暖かいところの生まれなのかしら。


「じゃあ積もったら、雪だるまを作ったり雪合戦をしたりして遊びましょうね」

「……はいっ」


 二人の興奮をよそに、雪は音もなく、しんしんと積もっていくのだった。



お読みいただきありがとうございます。



次の話は――

マーガレットはお祖父様と一緒に『雪と氷の祭典』に出かけます。

楽しい祭典かと思いきや、とんでもない大惨事に巻き込まれ……。

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