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第31話 グリンフィルドからの謝罪

 一週間後。

 庭園に隣接する小さな稽古場からは、木剣(ぼっけん)を元気に振って素振りするマーガレットとクレイグの姿が確認できた。

 グリンフィルド騎士団長には少し早めにフランツィスカ邸に来てもらい、イグナシオよりも先にマーガレットたちは稽古を付けてもらっている。


「よし、素振りはそこまで! 次はお互い構えて打ち合ってみましょうか」


 グリンフィルドの指示で二人は向き合い、息を合わせて打ち合いを始める。


「やあぁぁっ!」

「はっ!」


 気合だけは一人前だが、狙いの定まらないマーガレットの剣筋をクレイグは上手い具合に木剣で(さば)いていく。二人の稽古を観ながら、グリンフィルドは考えていた。


 ――クレイグには剣の才能がある。


 グリンフィルドは、クレイグから従者にしておくにはもったいないほどの光るものを感じていた。


 十年に、いや五十年に一度の逸材かもしれないな。もしかしたら将来、我が騎士団を支える存在になりえるかも。


 そして、対戦しているマーガレットに視線を移す。


 前回イグナシオ様と戦っていた時も思ったが……マーガレット様には剣の才能がこれっぽっちもない。あの戦い方はどちらかというと、確か侯爵夫人も――。




 グリンフィルドは二人に「やめ!」と声を掛け、ある物を持って汗を拭いているマーガレットの元へと駆け寄った。


「マーガレット様」

「はい、何でしょう先生」

「先日から思っていたのですが、マーガレット様は木剣ではなく、こちらの武器を使用してみてはいかがでしょうか?」


 グリンフィルドが両手に持っていたのは、マーガレットの腕くらいの長さの棒に短い棒が刺さっているローマ字の『T』のような形をした武器だった。

 (つい)になっているのか二本ある。

 何となくだが、マーガレットは前世で似たようなものを小説やゲームで見たことがある気がした。


 えーっと、何て名前だっけ。


「これはトンファーという武器です。

 両手に装備して相手の攻撃を受け流しながら、武器や肘打ち、蹴りなどあらゆる手段で攻撃する戦法を用います。

 マーガレット様は木剣を握ることに違和感を感じているようでしたし、素早い身のこなしから相手の(ふところ)に入るのがお上手とお見受けしました。このトンファーなら近接攻撃に非常に有効ですし、賜物(カリスマ)の力も伝わりやすいかと思います」

「なるほど! その通りです先生。木剣を握っていると、私の方が木剣に振り回されているような気がして、上手く動けなくって困っていたのです」

「やはりそうでしたか。ではこちらのトンファーを試してみましょう」

「はい!」


 マーガレットはトンファーの短い柄の部分を握り構える。それは木剣とは段違いにしっくり手に馴染んだ。


「わぁー、すごく手に馴染みます。ねぇ、クレイグ。ちょっと戦ってみましょ!」

「もちろんです」


 クレイグも初めて見る武器・トンファーを構えたマーガレットと戦えることに心躍っているようで、すぐに木剣を構えた。

 先ほどまでの打ち合いまでと違い、マーガレットは猪突猛進に突っ込んでいくこともなく、クレイグが仕掛けてくるのを待っている。武器でこうも戦術が変わるものなのかと、クレイグは感心した。


 誘いに乗るようにクレイグが踏み込む。するとマーガレットは二本のトンファーで木剣を挟み、挟んだ部分を軸に飛びあがって、クレイグの右肩めがけて蹴りを入れる。

 クレイグは反射的に右手で防御したが、左手だけで支えていた木剣が挟んだトンファーによって弾かれ、木剣はガラガラと乾いた音を立て地面に転がった。


「お、お見事です。参りました」

「……え、勝った? 私勝ったの、やったー」


 クレイグの参ったの声に、マーガレットはぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを身体全体で表現した。グリンフィルドは手を叩いてマーガレット、そしてクレイグを称賛する。


「いやはや、素晴らしい身のこなしに感服いたしました」

「先生のおかげです。このトンファーという武器、私にとても合っているみたい。この武器を紹介してくれてありがとうございます、先生」

「いえいえ。マーガレット様の才あってこそですから、お礼を言われるなんてとんでもない……それに二人が誘拐された件は、私にも責任があるのです」


 申し訳なさそうな表情をしたまま、グリンフィルドは地面に転がった木剣を見つめている。


 責任があるってどういうことなのだろう。


 マーガレットとクレイグには見当もつかなかった。そんな戸惑った二人の表情に気付いたグリンフィルドは、優しく語り出す。




「実は二人を誘拐した主犯の男は、五年前まで騎士団で騎士見習いをしていたダレンという男でして……彼があのような道に堕ちてしまったのは騎士団の問題が発端であり、引き止められなかった私の責でもあるのです。騎士団の過失で二人は危険な目にあったのですから、本当に申し訳なく思っています」


 と、グリンフィルドは深々と頭を下げた。

 話を聞いたマーガレットとクレイグは「なるほど」と納得した。


 お父様からダレンが元騎士見習いだとは聞いたけど、騎士団にとっても衝撃的な事件だったようだ。そういえばダレンも、クレイグに向かって騎士だ先輩だって上から言っていたっけ。


 しかしそんなことは関係ない。

 マーガレットとクレイグは目を合わすと、いまだに頭を下げているグリンフィルドを下から覗き込んだ。


「先生は何も悪くありません。頭を上げてください」

「そうです。もとはといえば、お嬢様が市民街区に勝手に出かけたのが悪いのですから、先生は何も悪くないですよ」

「そうそう、すべて私が招いた……って、クレイグったらひと言多いのよ!」

「ひと言くらい許してください。あの男がお嬢様の賜物(カリスマ)に目を付けた時は、本当に肝が冷えたのですから」

「そ、それは、本当にごめんなさい……ゴニョゴニョ」


 突然しおらしく黙ったマーガレットの様子が気になったグリンフィルドは、下げたままの頭を少し上げてマーガレットを盗み見た。

 マーガレットは俯き、口をへの字に曲げて反省した表情をしている。

 従者にここまで言われて怒ることなく反省しているマーガレットをフォローするように、グリンフィルドは(あいだ)に入った。



「稀少な賜物(カリスマ)は狙われやすいですからね」

「お父様にもそう言われたのですけど、私の賜物(カリスマ)のどのあたりが稀少なのでしょうか?」


 泣きべそをかいていたのが遠い昔のように、興味深そうにマーガレットは訊いた。


 そういえば、この二人はまだ六歳。その上、賜物(カリスマ)持ちが生まれないフランツィスカ家では深く学んでいないのだろう。

 マーガレット様が自身の賜物(カリスマ)の稀少価値を知ることは大事なことだ。

 ここは賜物(カリスマ)の最低限の知識をお教えしよう。


 するとグリンフィルドは顔を上げ、賜物(カリスマ)について語り始めた。


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