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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第3部 星霜の学園

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第240話 禁断の関係?

 マーガレット、クレイグ、アリスの三人は、美術のレポートを作成するため、ローゼル学園の図書館を訪れていた。


 学園の図書館は王立図書館、中央図書館に次ぐ、三番目の規模だ。

 木造の壁に囲まれた広大な図書館は、書棚が果てしなく続いていて、まるで本の地平線のようである。

 席は、半分ほど生徒で埋まっており、本を読む者、課題をこなす者、勉強に勤しむ者と皆それぞれであった。


 マーガレットたちのレポートの課題は、ローゼンブルクの美術黎明期を支えた四大作品の感想だ。

 絵画の載った分厚い本を睨みながら、三人は感想をどう書くべきか悩んでいる。

 何となくそれっぽく大袈裟に書こうとするマーガレットに、色彩から話を広げようとするアリス。そしてまったく何も浮かばず、時代の背景から攻めようとしているクレイグ。


 すると、クレイグの頭上にたくましい腕がドカッとのしかかってきた。


「うお、メンドそうなの書いてんなぁ~」


 聞き覚えのある男性の声に、クレイグは押し付けられた腕を振り払い、刺すような視線を投げかけた。


「……何か用でしょうか、マティアス」


 逞しい腕の正体はマティアスだった。

 普段と比べると元気のないマティアスの表情に、クレイグは眉をひそめる。

 向かいに座っていたマーガレットも感じたようで、気遣うような眼差しを向ける。


「マティアス。何か元気がないみたいだけど、大丈夫?」

「あー、いや、これはその」


 すると、新たに聞き慣れた男性の柔らかな声が加わる。


「心配しなくても、マティアスは試験勉強のし過ぎで疲れているだけだよ。マーガレット」


 珍しくまごついているマティアスの代わりに答えたのは、本を携えたアヴェルだ。アヴェルの言葉に、クレイグは驚愕した。


「え、マティアスが勉強!? 明日は世界の終わりか」

「おま……クレイグ。その反応、俺は勉強なんてしないと思ってただろ?」

「え、寧ろ勉強するんですか?」

「こ、コイツ。馬鹿にするなよっ、俺だってな~」


 覇気のなかったマティアスの声は次第に大きくなり、普段の威勢の良さを取り戻していく。しかし場所が場所なだけに、アヴェルは本でマティアスの腰を優しく小突いた。


「こらマティアス。図書館では静かにしないと。すまないな、三人とも。マティアスは慣れない試験勉強で気が立っているだけなんだ」


 それを聞いた三人は顔を見合わせた。代表してマーガレットが口を開く。


「慣れない試験勉強って……マティアスはどうして勉強を始めたの?」

「簡単なことさ。マティアスは学園創立以来の赤点続きらしく、このままだと退学もありえるそうでな。父君のグリンフィルド騎士団長を呼ぶと言われて……」

「あ――~っ! おい、アヴェル。そんなことまで言う必要ないだろがっ……もういい。俺、勉強に戻るわ」


 項垂うなだれたまま、マティアスは奥の席へと戻っていった。その背中は、どことなく哀愁が漂っている。


 なるほど。

 保護者召喚されそうになっちゃって、慌てて試験勉強しているのね。


 残ったアヴェルはというと、不意にマーガレットの隣の席に腰を下ろした。

 すると、その端麗な顔を不安げに曇らせ、マーガレットを覗き込む。


 息がかかるほどの距離で見つめ合うマーガレットとアヴェル。

 幼馴染みの二人にとってはごく普通の距離なのだが、図書館にいた生徒たちの視線は、一気に『王子』と『王子の兄の婚約者』という禁断の関係に釘付けになる。


 そんな周囲の気配に気付かない二人は、言葉を交わし始めた。


「マーガレット、目にクマができてる。張り切って勉強し過ぎじゃないか?」

「そんなことないわよ」

「そんなことあるだろ」

「……もう、何でわかったの? 実は昨日、遅くまで試験勉強したの」


 悪戯がバレた子供の様に苦笑するマーガレットに、アヴェルは爽やかな笑みをこぼして、マーガレットの頭をそっと撫でた。


「あまり無理はするなよ」

「ええ、ありがとう。アヴェルもね」


 二人の間に漂う柔らかな雰囲気に図書館の熱気はヒートアップし、生徒たちは静寂の図書館だということも忘れてざわめき始めた。


 あれ、周囲からすごく視線を感じる。

 もしかして、アヴェルとのことで注目されてるの?


 騒然としたざわつきにマーガレットも勘付き、アヴェルにそっと耳打ちした。


「何か注目されているし、離れましょうか」

「ん? ああ」


 ほんの一瞬、チラッとだけ、マーガレットは向かいのクレイグを盗み見る。

 クレイグは素知らぬ素振りで課題に取り組んでいて、まったく気にする素振りもない。


 それはそれで、何だか悲しい。


 落ち込んだマーガレットの様子に、アヴェルは「ふっ」と声を漏らす。

 気付いたマーガレットがアヴェルに目をやると、「何でもないよ」と笑顔であしらわれてしまった。


 マーガレットたちに別れを告げたアヴェルは、頭を抱えながら勉強しているマティアスの隣の席へと腰を下ろした。


 先ほどまでとどこか違う親友の空気に、集中力の切れたマティアスは問いかける。


「ん、どうした?」

「いや、何でもない。それよりも勉強するぞ。騎士団長に来てほしくないだろう」

「おう! 絶対に親父殿を阻止してやるっ!」



 マティアスの努力は報われるのか。

 結果は神のみぞ……もとい、女神ファビオラーデのみぞ知る。


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