表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第3部 星霜の学園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

233/252

第233話 過ぎ去りし日の悔恨

 マーガレットたちは川の下流に沿って、集合場所へと向かっていた。

 肌を撫でる空気は清らかに澄み渡り、ひんやりと心地よい。


 パンパンパァ―――ンッ!


 その時、光球(アーロ)探しの終了十分前を告げる花火の音が森内に鳴り響く。

 空に散る花火の煙を見上げ、マーガレットはひとり肩を落とした。


 あ、本当にイベントが終わっちゃう。二人のイベント潰しちゃった……。


 私たちのチームのポイントは、アリスとアヴェルの頑張りもあって四十八点となった。

 光球(アーロ)探しで優勝したら親密度がぐんと上昇値がするのだけど、五十点が優勝ポイントだった気がするのよね。けれど、あと二点。届かない。

 どこかに光球(アーロ)残ってないかしら。


 翡翠の瞳を大きく見開き、マーガレットは周囲をキョロキョロと見回す。

 幸運なことに、川原近くにふわふわと低空飛行している光球(アーロ)を発見した。


「あ、あそこにあるわ!」


 踵を返したマーガレットは道から外れ、川へと近付いていく。

 気付いたアヴェルもマーガレットを追いかけ、心配そうに呼びかける。


「マーガレット、俺が行くからちょっと待て」

「大丈夫よ。川までは入らないし、ちゃんとしっかりした地面があるんだから、ほら見て」


 つま先でリズムを刻むように、緑の地面を蹴ってみせる。

 するとどうしたことか、あったはずの地面はぐらりと動き、それが水草によってできた偽りの大地だと理解した時には――そのままザブンと川の中。


 飛び散る水飛沫に、アリスとアヴェルは呆気に取られる。


「マーガレットッッ‼」

「マーガレットさまあぁぁぁっ!?」




 水面(みなも)の片隅で、僅かにアリスの悲鳴が聞こえる。


 藻掻もがきたくても、身体は麻痺したようにうんともすんとも動かない。

 深く、底へ底へと、沈んでいく。


 ここは、水の中? ……い、け?


 私ったら、相変わらずカナヅチのままなのね。

 ……あいかわらず?

 それはマーガレット? それとも前世の、私?


 もしかして、前世の私は水の中で溺れて死んだのかしら。

 私、またこれで死んじゃうの……?


 アヴィ、アリス。

 二人のイベントを台無しにしてしまって、本当にごめんなさい。


 ……クレイグ。

 あなたの言うとおり、やっぱりドジしちゃったみたい。

 ここで落とす命だったのなら、あなたに好きって伝えておけばよかった、な。


 ああ……もぅ、息が……でき…………な、ぃ……。


 刹那――大きな腕がマーガレットの腰を包み、暗い水底からマーガレットを掬い上げた。そしてすぐさま、水のない川原へと運んでいく。

 運ばれていくさ中、意識を取り戻したマーガレットは息を吐いた。


「ゴホッ、カホっっ……がはっ」


 口から鼻から大量の水を飲んだマーガレットは激しく咳き込み、水や涙、体液を吐き出した。


「マーっ‼ よかった」


 紙一重でマーガレットを救ったのは、アヴェルだった。自らも川へと入り、二人は頭の先からつま先まで、ぐっしょりと濡れている。


 アヴェルはマーガレットを強く抱きしめたまま、マーガレットの背中を優しくさすっている。寒さと死の恐怖からくる身体の震えに抗うように、マーガレットはアヴェルにひしと縋りついた。


 まだ呼吸が上手く馴染まず、マーガレットは青ざめたくちびるから途切れ途切れの言葉をこぼした。


「はぁ、はっはっ…………アヴ……ごほっ」

「しゃべらなくていい。ゆっくり息を吸って整えるんだ。バートレット嬢、すまないがマーに癒しの賜物(カリスマ)を頼む…………バートレット嬢‼」

「……は、はい、もちろんです!」


 命の危機に気が動転し、呆然と佇むことしかできなかったアリスは、アヴェルの言葉で我に返った。

 背中にアリスの温かな手が触れる、癒しの賜物(カリスマ)によってマーガレットの呼吸がゆっくりと落ち着いていく。




 アリスの賜物(カリスマ)のおかげもあってか、虫の息だったマーガレットの呼吸はようやく正常に戻った。まだ少し喉に違和感はあるが、マーガレットは精一杯発声し、かすれた声で感謝の言葉を紡ぐ。


「あり、がとう……アヴィ、アリス」


 紫色の瞳を涙で滲ませたアヴェルは、マーガレットの頬にそっと両手を添えた。


「よかったマー……ずっと後悔してたんだ。あの時の、六歳の弱い俺は、溺れる君を見ていることしかできなかった。今度は君を救えて、本当によかった……うぅ」


 ぐっしょりと濡れたアヴェルの頬を、六歳の頃の後悔を懺悔(ざんげ)するように一粒の涙が流れ落ちた。


 もしかして、アヴェルは私が池で溺れた時のことをずっと気にしていたの?

 溺れた子供を助けるなんて、大人でも難しいことなのに……。


「アヴィ、あなたは弱くなんてないわ。あの時だって、助けを呼んでタチアナを連れて来てくれたじゃない。あの時の必死なアヴィの声、よく覚えてるんだから」


 アヴェルの涙を指先で拭いながら、マーガレットは微笑み、そしてそのまま意識を失った。


「マーガレット? マー、マぁーッ!?」

「マーガレット様、しっかりしてくださいっ!?」


 遠くで私の名を叫ぶ声が、微かに耳に響いた――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
非常に嫌な予感がする… ゼファー殿下がまた暴れそうな気配がする… 池の水草根こそぎ全部刈り取るとかしそう()
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ