表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第3部 星霜の学園

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

231/251

第231話 運命のふたり?

「あ、ここにもありましたっ」


 アリスは草木の下に隠れていた仄かに光る光球(アーロ)を発見した。

 指先で触れると、光球(アーロ)は眩いほどに輝き、ピンポン玉ほどの金色のボールへと変化する。


 ボールを受け取ったマーガレットは、すでに袋に収められた金色のボールを指でなぞってひとつひとつ数え始めた。数え終わる頃には、マーガレットは驚嘆の声を上げていた。


「ええっ! すごいわね、アリス。これで九個目の金色よ。金色のボールって十個しかないって言っていたのに、ほぼうちのチームが独占しているわ」


 アリスが幸運の持ち主なのか、ヒロイン補正なのかはわからないけど、この数はちょっと超越している。


 岩場の陰を探していたアヴェルも、探す手を止め、その驚愕の数値に唸り声を上げた。


「金はひとつ三点だから、金だけで二十七点……もしかすると本当に優勝が狙えるかもしれないな」

「わあ! 私、こういう勝負事で優勝したことがないので、優勝できたら嬉しいです。下町の借り物競争ではいつもビリなので」


 ちなみに、金色のボールの他に、銀色が二つ、銅色が五つ袋に入っている。

全部で三十六点。総合計 五百五十点のうちの三十六点は、多いのか少ないのか。


 生徒の中には探知の能力に優れた賜物(カリスマ)の持ち主もいるだろうから、まだまだ油断はできないのよね。




 薄闇に包まれた森を進むうち、視界がふわりと開けた。突如として広がった光景に、マーガレットたちは息を呑む。


 木立から差し込む太陽の光が、金色のシャワーのように降り注ぐ。

 その光景は、まるで光の妖精たちの集う秘密の庭園のようで、筆舌に尽くしがたいほどに美しい。


 「何て綺麗なの……」


 幻想的な空に魅せられ、顔を上げたままマーガレットは歩みを進める。すると、突如、地面が溶けるように崩れ――足を踏み外した。


「マーガレット、危ないっ!?」


 大声とともに、アヴェルはマーガレットを背後から力強く抱きしめる。

 足元に目をやると、靴にはべったりと泥が付着しており、この先が沼地であると告げていた。


 アヴェルが止めなければ、このまま進んで沼地に沈んでいたかもしれない。

 その恐ろしい事実に気付いたマーガレットは、振り返って背後のアヴェルに力なく微笑みかける。


「あ、ありがとう。アヴィ」

「ふう、よかった。これでクレイグに怒られなくてすむな」

「う……確かに。ごめんなさい」

「おっと、落ち込ませるつもりはなかったんだ。ごめんごめん」


 マーガレットを背後から抱きしめるアヴェルは、機嫌を窺うようにマーガレットの頬にそっと顔を寄せる。

 その近すぎる距離は、傍目から見たら恋人同士にしか見えないだろう。


 空にかかる金色のシャワーも、運命の二人のためだけに存在しているかの如く煌めいていた。


 そして、ここにもひとり――思い違いをしてしまった者がいる。

 アリスのくちびるは緩やかに弧を描き、マーガレットとアヴェルを愉悦に満ちた表情で見守っていた。


 やっぱり学園のウワサどおり、このお二人は運命なんだわっ!

 幼馴染みのお二人は、やっぱり相思相愛。

 なのに、マーガレット様はゼファー殿下と……だとしたら、何て悲恋なのだろう。大好きなマーガレット様のために、何かお手伝いはできないだろうか。


 アリスの空色の瞳が輝いた瞬間、沼地の中心にある小島(ことう)の木の根元がきらりと光った。


「あっ、あそこにも光球(アーロ)が」


「本当だ。でもバートレット嬢、あそこまで行くのはひと苦労だ」


 アヴェルの指摘通り、光球(アーロ)のある小島の周囲は沼で囲われており、渡るのは難しい。かろうじて、いくつかの岩が沼から点々と顔を出しているだけである。


「これくらいなら大丈夫です。私が行ってきますね」


 アリスはひょいひょいと軽やかに岩を渡り、沼地の中心の小島へと辿り着く。

 マーガレットがこちらに向け拍手をして讃える姿が、遠目にも確認できた。隣のアヴェルはマーガレットが沼に落ちないか心配で、とても忙しそうだ。


 アリスが目的の光球(アーロ)に触れると、光球(アーロ)は金色へと変化した。これで三十九点。

 すると、アリスの脳裏に天使の囁きが響く。


 そうだ。私はしばらくこっちにいて、二人きりにしたらどうだろう。


「マーガレット様ぁ~! 私はこちらを探してみますので、お二人はそちらをお願いしまーす」


 声を張り上げて伝えると、二人は快く了承した。




 沼地近くを隅々まで探し始めたマーガレットに対して、アヴェルはある人物に向けて共感の溜め息をこぼす。


「はーあ。クレイグの気持ちがわかった気がする」


 アヴェルは、さりげなくマーガレットを観察していた。

 リスを見つけて微笑みかけたかと思うと、突然茂みを掻き分けてほふく前進する。三秒目を離すと、もうその場にはいない。

 その予測不能な行動には翻弄されるばかりで、まるで踊らされているような気分になる。

 

 人を見守るということが、こんなに大変だとは。

 今度、従者のデイビッドや護衛騎士たちに何かねぎらいの物を贈るとしよう。


 ―その時だった。


「あっ!」

 いつもより甲高いマーガレットの声が沼地に響き渡る。


「マーガレット、どうした?」


 心配したアヴェルが駆け寄ると、マーガレットは沼のほとりの木の枝に絡みついている『ある花』を指差していた。

 それは百合の花に似た、少し小ぶりの白い花だった。


『あの花』には見覚えがある。


「ねえアヴィ、この花覚えてる? 子供の頃、フランツィスカ家の屋敷の池に咲いていた綺麗な花と同じ花よね」

「……ああ、そうだな」


 アヴェルは少し声を落として返事をした。


 その花を忘れるはずがない。

 その花を取ろうとして、マーガレットは池に落ちてしまったのだから。

 臆病な六歳の俺は、水に沈んでいくマーガレットを震えて見ていることしかできなかったんだ。


 俺にとってその花は、戒めの花だった――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ