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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第3部 星霜の学園

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第221話 ルート潰し

 ローゼル学園にて。

 昼食を終え、東の校舎の教室へと移動するため、マーガレットとクレイグ、アリスは中庭の噴水の前をゆっくりと通り抜けた。


 すると一同は、校舎の角から慎重な足取りで進むフェデリコ先生の姿を捉えた。先生の両手には、魔法科学で使う教材や資料が山のように積まれている。


 積み重なった資料の僅かな隙間から、三人の姿を確認したフェデリコ先生はこちらに向かって笑みをこぼす。瞬間、資料がバサバサと崩れ落ち、床に散乱した。


 前を歩いていたアリスは「大丈夫ですか」と声を掛け、即座に駆け寄って資料を拾い集めた。マーガレットも集めようと駆け寄ったが、この状況に何か既視感を覚え、静かに足を止める。


 あれ? この光景、どこかで……。

 そうだわ、ゲームのフェデリコ先生のイベントで見た。


 確か、フェデリコ先生は名家の令嬢たちから結婚を申し込まれていて、大量のお見合い写真を落としてしまうのよね。

 その膨大なお見合い写真にアリスが焼きもちを焼いて、自分の特別な感情を意識し始める、みたいな話だったはず。


 マーガレットは散乱した資料の中から、目を凝らしてお見合い写真を探した。

 しかし、私物を入れているらしいファイルから飛び出した女性の写真は、一枚のみ。


 お見合い写真が一枚……どういうこと?


 資料を拾い集めたアリスは、ついにその一枚だけのお見合い写真に手を伸ばす。

 フェデリコは、「あ、それは」と消え入りそうな声を発した。


 写真を手に取ると、アリスは柔らかな笑みを浮かべ、写真をフェデリコへと手渡した。


「お綺麗な方ですね。フェデリコ先生の恋人の方ですか?」


 おおう、アリスったらズバッと聞くわね。

 でも普通の会話みたい。

 フェデリコ先生に、特別な感情は持ち合わせていないということかしら。


 フェデリコはアリスの問いに、力なく笑って返した。


「はは、いやいや違うよ。それは、お見合い写真なんだ」

「まあ、そうだったのですね。あの、私ったら個人的なことを聞いてしまってすみませんでした」

「ん、気にしないで。どうせ断るつもりだし」

「そうなのですか?」

「うん。ボクに結婚はまだ早いかなぁって」


 あれ。意外と会話が弾んでる?

 もしかして……お見合い写真が大量にあるとわかれば、アリスが嫉妬するんじゃ。よし、やってみましょう。


 マーガレットは資料を集める二人の輪に自然に加わると、含んだ笑みを浮かべる。


「ふふ、本当は結婚の申し込みが多すぎて、フェデリコ先生は選べないでいるのかも」


 マーガレットの言葉に、フェデリコは一瞬驚いたように動きを止めたが、すぐに柔和な笑みでその場を和ませた。


「はは、マーガレット嬢の僕の評価は意外と高いらしい。残念ながら、お見合い写真はこの一枚だけだよ」

「え……本当に?」

「うん、ボクみたいな魔法科学の変わり者の先生と結婚したいっていう奇特な女性は稀だしねぇ」

「あ、あんなに女生徒から人気なのに!?」

「……え、マーガレット嬢のボクのイメージって、そんなにモテモテ?」


 え、フェデリコ先生がモテていたのはゲームの中だけ?

 いえ、学園の女生徒たちが寄せる熱い眼差しも、先生への好意を物語っているし。


 マーガレットは口をつぐんで眉をひそめ、イベントの内容について考えを巡らせ始める。そんな物思いに沈むマーガレットの横顔を見守っていたアリスは、不意に明るい声を響かせる。


「いえ、マーガレット様に私も同意します。先生の授業の時は、女生徒の皆さんはいつも楽しそうにしていらっしゃいますし。やっぱり、フェデリコ先生はモテモテです」


 アリスの透き通った声と真っ直ぐな瞳で、真実味は幾分か増したように感じられた。フェデリコも照れを誤魔化すように、頬を掻いている。


「可憐な二人にそう言ってもらえると、本当にモテモテになった気分だ。嬉しいなぁ」


「皆様方、ご歓談のところ失礼します。あと三分で次の授業の始業時刻となりますので、そろそろ向かわれたほうが」

 懐中時計を手に持ったクレイグのひと言で、皆は慌ててそれぞれの授業へと急ぎ向かった。


 マーガレットは教室へと向かいながらも、一枚だけのお見合い写真が腑に落ちないでいた。


 フェデリコ先生がモテないってどういうことかしら?

 先生の親友のイグナシオお兄様なら、何か知ってるかも。

 帰ったら、お兄様に聞いてみましょう。



 ★☆★☆★



 その日の夜、フランツィスカの屋敷にて。


 マーガレットは、ソファに座る兄・イグナシオの隣に腰を下ろし、フェデリコについて語った。聞き終えたイグナシオは窓の向こうの闇夜を見つめ、躊躇ためらうように言葉を紡ぐ。


「あー、あいつは学生の頃からモテてたが……あの件で、例の降爵(こうしゃく)の件でな。娘のほうが乗り気でも、両親が嫌がって結婚の申し込み自体は少なくなったんだ」


 イグナシオお兄様の述べた例の降爵の事件とは、フェデリコ先生が私と仲良くしたことに嫉妬したゼファー様が引き起こした事件だ。


 貴族の間でも何かしらのウワサは立っていただろうし、将来の国王に嫌われた人物に嫁ぐのは難しいということなのだろうか?


 ん、ちょっと待って。

 ということは、フェデリコ先生のお見合い写真が少ないのは……。


「もしかして、私のせい?」


 責任を感じて顔をしかめたマーガレットに、イグナシオは何気ない調子でさらりと告げた。


「いや、そうじゃないだろ。それに本気で結婚したい令嬢からは結婚の申し込みが来るみたいだし、ちょうど良いふるいになったんじゃないのか。ま、アイツがモテるのも癪に障るし、寧ろ良いだろ」

「もーう、お兄様ったら。じゃあ、ベーカー子爵家のミネア様って、それでも結婚したい方なのね。素敵だわ」


 マーガレットは両手を祈るように合わせ、素敵な恋物語にうっとりと想いを馳せている。しかし、ベーカー子爵家と聞いたイグナシオは言いづらそうに息を漏らすと、視線を彷徨(さまよ)わせた。


「あー、いや。ベーカー子爵家は没落寸前だから、なりふり構っていられないんだろうなぁ」

「わー、夢のない話」


 フィリオ家降爵事件。

 あの時のことが、フェデリコ先生のルートに影響を与えてしまったなんて……。

 はあ……アリスの恋の邪魔にならないように注意しなきゃ。




お読みいただきありがとうございます。


次の物語は――

クレイグが、ラウルのお茶会に招かれた当日。

ところが、招待されたクレイグ本人より、

マーガレットのほうが何やら気を揉んでいるようで……。

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