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第22話 かわいい仲間

「にゃおーん。にゃぁにゃぁ、にゃにゃにゃにゃんっ」

「え、何で? ふふふ。まるで猫さんにお礼を言われているみたい。あなたって可愛くて本当にお利口さんね……あはっ、くすぐったい。あははは」


 仔猫はマーガレットの服をよじ登って、マーガレットの頬をペロペロと舐めはじめた。ザラザラした舌がこそばゆく、たまらずマーガレットは笑い出す。


「お嬢様、お静かに。奴らに気付かれてしまいます」

「ごめ、なさい……っでも、くすぐったくて……ふっふふ」


 次に仔猫は、マーガレットと仔猫の(たわむ)れる様子を羨ましそうに横目で見ているクレイグを視界に捉えた。

 じっと見つめられたクレイグは、全てを見透かされたような感覚を感じたが、仔猫が今度はクレイグの胸に飛び込んできたことで、それどころではなくなった。


「にゃむにゃむにゃむにゃむ」

「あ、ちょっ……と、くすぐったいよ。あはははは」


 マーガレット同様に頬をペロペロと舐められ、クレイグは久しぶりに楽しく笑った。声はもちろん、抑えめに。


「ふふふ。猫さんったら、助けてくれてありがとうってクレイグに言っているのかしら」

「僕は何もしてないですけど」

「クレイグも檻から出そうとしてくれてたから嬉しかったのよ。でもどうして、この檻は突然開いたのかしら。猫さん、何か知らない?」

「にゃ? にゃーにゃにゃんにゃあ」

「んー、さっぱり分かんないけど猫さん可愛い……そうだ、猫さんって呼ぶのもアレだし、あなたに名前をつけてもいい?」

「にゃあにゃん♪」


 仔猫は跳ねるように鳴いて返事をした。猫の返事をイエスと捉えたマーガレットは腕を組み、うーんと考えるポーズをして思案する。


「そーね、そーねぇ……んーと、じゃぁ、にゃん、にゃん…………『にゃんコフ』ってどうかしら?」

「え、何ですその名前」

「にゃん! にゃあにゃんみゃふ‼」


 対照的な反応を見せた一人と一匹だったが、一匹のほうは『にゃんコフ』という名を大変気に入ったらしく、クレイグからマーガレットへと再び飛び移ってマーガレットに頬ずりしている。


「あ、気に入ってくれたの? うふふ、よかった。これからよろしくね、にゃんコフ」

「にゃん、にゃんにゃお~」


 本人もとい、本猫が喜んでいるならまあいいかと、クレイグは目下の目的へと話を戻すことにした。


「それではにゃんコフも増えたところで、どうやってここから出るか、改めて考えますよ」

「あ、はーい」

「にゃぁ――ん」


 二人と一匹は脱出するため、頭を悩ませ始めた。





 残念ながら、部屋の中の格子窓は高い位置にある一か所しかなく、出口といえるものはマーガレットたちが入ってきた正面の大きな石扉だけだということが分かった。どうにかしてあの重い扉を開けて、誘拐犯に気付かれずに逃げないといけないのだが……。

 しかし石扉は廊下側から施錠されていて、押しても引いてもびくともしない。その上、扉を開ける際に大きな軋む音がするため、二つ隣の部屋にいる賊にも盛大に聞こえてしまう。


 まんがいち扉を開けられたとしても、気付かれずに逃げるなんて不可能なんじゃ――もしかして……詰んでる?


 クレイグも扉を見つめて「うーん」と唸りながら考え込んでいる。マーガレットと同じことを考えているのかもしれない。

 しばらくして考えがまとまったのか、クレイグは口を開いた。


「とりあえず、部屋の中で武器になるようなものを探しておきましょう」

「え、武器?」

「はい、次にアイツらが来た時に奇襲を仕掛けるために必要なんです。出口がひとつしかないこの部屋から出るにはそのチャンスにかけるしかない」

「なるほど、さっきあそこに大きな(ほうき)とちりとりがあったわ。武器になるかしら……ちょっと待ってて」


 急いで取ってきた箒を、マーガレットはクレイグへと渡した。

 クレイグの左手はちりとりも受け取ろうと手を出したが、マーガレットはちりとりを渡そうとはしなかった。


「お嬢様、ちりとりもください」

「私はちりとりで戦うから、こっちは私にちょうだい」

「いえ、できればちりとりを盾のように使いたいので渡してほしいです。奴らが来たら僕が隙をつくりますので、お嬢様はにゃんコフを連れて全速力で逃げてください」

「なっ、それだとクレイグはどうなるのよ! 捕まっちゃうじゃない⁉」

「なるべく捕まらないように努力します。外まで逃げたら、大通りへと出て人を呼んできてください」

「そんなのダメ、残されたあなたが怒り狂ったアイツらに何をされるか分からないじゃない!」

「分かってますよ。覚悟した上で言っているんです。心配しなくても僕は一度死んだような身です。大丈夫……また生き残ってみせますから」

「そ、そんなの……」


 ――悲しすぎるっ。


 その言葉は声にはならなかった。

「大丈夫」と言ったクレイグはなぜか笑顔を浮かべていて、それが無性に悪い予感を想像させる。


 クレイグを犠牲にして自分だけが逃げるなんて絶対に嫌だ。


 その時、ガコッと鈍い音がして扉の鍵が開き、ゆっくりと石扉が開き始める。石扉に目を向けた二人は急いで扉の死角へと移動した。


 うそ、まさかもう来るなんてっ。

 まだどうするか決めてないのに。


 その混乱に乗じ、クレイグはマーガレットの手から、ちりとりを奪った。


「っ⁉」


 クレイグはすまなそうな表情を浮かべている。

 マーガレットはすぐに取り戻そうと手を伸ばしたが、それと同時に石扉から廊下の明かりが差し込んだ。


 間に合わない!


 ギ、ギギギギキイィ――――ッ。


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