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第19話 とらわれた二人

 ―う、うん……何かお酒臭い…………あれ、私? どうしたんだっけ?


 気が付いたマーガレットがゆっくりと目を開けると、目も(くら)むほどのまぶしい光が差し込んできた。どうやら真上の天井の照明の光のようだ。

 まぶしい明かりを避けるように、マーガレットが寝返りを打つと目の前にはクレイグが横たわっていた。


 クレイグ? あれ、私どうし……そうだ! 

 確か男たちに捕まって……こうしちゃいられない。早くどうにかしないと!


 記憶が(よみがえ)ったマーガレットは勢いよく起き上がった――が。


「おっと」


 起き上がろうとしたマーガレットは、野太い男の声とともに大きな手に頭をがっちりと押さえつけられて身動きが取れない。


 ―誰?


 分厚い指の隙間(すきま)からは筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の大男がこちらを見下しているのが見えた。


「まだ起きるのは早いッスよ、嬢ちゃん。今縛るからもうちょっと待つッス」

「どうしたムートン」

「あ、ダレンの兄貴。嬢ちゃんが起きたッス」

「早く縛っとけ。ガキが逃げたら金にありつけねーだろが! おい、デニス。お前ももう一人を早く縛れ」

「へい、分かりやっした」


 クレイグの傍にひょろ長い男が近寄って来る。


 クレイグは一瞬目を開けたがすぐに目を閉じた。マーガレットとクレイグは手足を縛られて、身動きひとつ取れなくなってしまった。




 五人の男たちは酒盛りをしながらマーガレットとクレイグを囲むように座り、二人は逃げることはおろか、身体を動かすこともはばかられる状態だ。周囲を見回したマーガレットは眉を潜ませる。


 どうにかして逃げ出さないと……さっき『兄貴』と呼ばれていた、左頬に傷跡のあるダレンって男がリーダーかしら。


 いつの間にかクレイグは目を覚まし、縛られた自分たちを(さかな)にして酒をかっ食らう男たちの様子を(うかが)っている。

 豪快に酒を飲むダレンはテーブルに頬杖をついて、こちらを冷たい視線で睨みながらニヤリと笑った。


「さて、金ヅルども。お前らには聞かなきゃならないことがあってなァ。お前らの名前は何だ? それが分からなきゃ金の無心(むしん)の仕様がねェ」

「………」


 あぁ、なるほど。私たちは身代金目的で誘拐されたというわけね。

 やっぱりクレイグの言うとおり、市民街区で貴族の子供ってまるわかりだったんだ。フランツィスカの名前を出すのは簡単だけど、素直に言ってもいいものなのだろうか……分からない。


 マーガレットは助けを求めるようにクレイグをチラリと見る。一瞬だったが、クレイグは首を小さく横に振り名前を出すなというサインを出した。


 ちょっと様子を見たほうがいいということかしら。



「おいおい、だんまりかよ。名前を聞かれたら答えるのが礼儀だろ……ったく、最近のガキはなってねぇなアァ? そういうつもりなら……デニス、やれ」

「へい」


 返事をしたひょろ長い男は腕を振りかぶってから、マーガレットの左頬に遠慮のない平手打ちを食らわせた。


「っかはっ!!?」


 その衝撃にマーガレットの身体は浮き上がり宙を飛ぶ。


「お嬢様っ‼」


 マーガレットが床に身体を打ち付ける(すんで)(ところ)でクレイグが何とか受け止めた。


「っく! ……大丈夫ですか、お嬢様ッ‼」

「だ、だいじょ……イッ……じゃないかも」


 マーガレットの無事を確認したクレイグは心配そうに見つめている。

 二人の様子を観察していたダレンは、酒の入ったグラスをカラカラと回しながらニヤリと笑う。


「へぇ……んじゃぁ、女のガキだけが貴族か……よし、お怪我はありませんかお嬢様。お名前をお教え願えますか?」

「……いやよ」

「んんー? これまでの経験上、だいたい一発入れりゃ、うるせぇくらいにビービー泣いて勝手にベラベラと喋りだすんだが……ふむ」


 ダレンは表情ひとつ変えることなく、手に持っていたグラスをクレイグ目がけて投げた。

 クレイグの髪をかすったグラスはバリンッと高い音を立てて割れ、マーガレットとクレイグの周囲には鋭いガラスの破片と酒の匂いが霧散(うさん)した。


「クレイグ!?」


 驚いたクレイグは、鼻息荒くまばたきも忘れて真紅の瞳を見開いているが、幸運なことに怪我はないようだ。


「早く答えろ」


 ホッとしたのも束の間、ダレンは椅子から立ち上がり体をフラつかせながらこちらへ近づいて来る。

 ダレンが見ているのはマーガレットではなくクレイグだ。


 ―こいつまたクレイグを!


 クレイグも理解したらしく、ダレンを睨みつけて必死に抵抗の姿勢を見せている。


「ったく、生意気なクソガキが。今度はそのグラスみたいに粉々にしてやろうかぁ、アァ?」


 ただの脅しなのか本気なのか、酔っ払いの真意がわからない以上、その言葉はクレイグよりもマーガレットに効いた。



「分かった、言うから! 私の名前はマーガレット・フランツィスカです。これでいいでしょ!」


 名乗りながらマーガレットは()ってクレイグの前に座り込み、ダレンを威嚇(いかく)する。ダレンはマーガレットの挑発など眼中になく、雷にでも打たれたような表情を浮かべていた。


「フランツィスカだと⁉ フランツィスカっていや、軍事貴族(ぐんじきぞく)の公爵家しかねぇ。公爵家のお嬢様が何でこんな()()めをうろちょろしてんだ? ……まぁいいか。奇遇だなお嬢様、オレの仲間たちはこの前突然決まった粛清(しゅくせい)とかで、軍事貴族に捕まって死んじまったばかりなんだ。笑えるだろ、フハハっ」


 ダレンの顔は笑ってはいるが、目は()わっていてまったく笑っておらず、マーガレットは背筋がゾッと波立つのを感じた。


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