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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第3部 星霜の学園

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第180話 公然の秘密

 アリスは入学式での、ある出来事を静かに思い返していた。


 それは、ほんの一時間ほど前のこと……


 治癒の賜物(カリスマ)が認められ、平民であるにも(かか)わらず、貴族の通うローゼル学園の特待生となったアリスは、何もかも豪奢な学園の建物に目をチカチカさせながらも、やっとのことで入学式会場の講堂へと辿り着いた。


 新入生用の席に腰を下ろしたアリスは、生徒たちの視線がある一組(ひとくみ)の男女に注がれていることに気が付いた。

 八列ほど前に座っている男女二人の生徒には、前方後方、左右からの生徒の視線が集中している。


 何だかとても注目されているお二人だけど、新入生なのかしら?


 注目されている男子生徒は銀色の髪を揺らしながら、隣の赤毛の女生徒に笑いかけ、仲睦まじそうに談笑している。

 アリスは驚嘆のあまり、息を呑んだ。


 あの女生徒の後ろ姿……見間違えるはずがない。

 あの方は、マーガレット様だ!


 アリスは感激で胸が一杯になり、マーガレットにもらったお気に入りのリボンに思わず触れる。


 十年前、マーガレット様からいつかまた会えると言われたあの日から、再会できる日をどれだけ楽しみにしていたことか。

 よく見ると、隣にはあの時一緒にいたクレイグ様らしき方もいるし、間違いないだろう。


 ああっ、どうやって話しかけよう。

 私のことを覚えていらっしゃるだろうか。


 アリスの心はマーガレットとの再会を想い、期待に胸が高鳴っていく。すると、すぐ後ろの席の女生徒たちの話し声がそっと耳に流れ込んできた。


「ねえ、見て! あの銀髪の御方がアヴェル・ローゼンブルク第二王子殿下よ。なんて素敵な方なのかしら。後ろ姿でも高貴さが伝わってくるわ」

「そのお隣はマーガレット・フランツィスカ公爵令嬢様よ。ゼファー王太子殿下のご婚約者の」


 すると女生徒の一人が口元に手をあてて、周囲に聞こえないように声をひそませる。


「……ねえ、知ってる? 本当はアヴェル殿下とマーガレット様がご婚約するはずだったのに、兄のゼファー王太子殿下がマーガレット様を奪ったってウワサ」

「もちろん。かなり有名な話だもの。後ろから(はい)するだけでも、あんなに仲睦まじいのに結ばれないなんて可哀想なお二人よね」

「ねー、悲恋って感じだわ」




 ―噴水前。

 我に返ったアリスは、目の前で親しげに談笑しているマーガレットとアヴェルの姿を、空色の瞳を見開いて見つめていた。


 あの時耳にした、アヴェル殿下がゼファー王太子殿下にマーガレット様を取られたというウワサは、やっぱり本当のことなのかしら。


 そう思ったのはアリスだけではなく、近くで見ていたフェデリコも同じだったようで、途端に心に隙間風が吹き荒れたフェデリコは二人から目を逸らす。


「あ、今日中に学会の資料をまとめておかなきゃならないんだった。ボクもこのあたりで失礼するよ。君たちも早く下校するように……それじゃ」


 すると時計を確認したラウルも、思い出したようにパチッと指を鳴らした。


「俺もそろそろ生徒会に行かないとな。殿下、生徒会長の件は是非考えておいてください」


 足早に遠ざかる二人の背中を見送りながら、アリスは突然、重大な閃きに心打たれた。


 これで私もいなくなれば、マーガレット様とアヴェル殿下は二人きりになれるんじゃ! それでお二人は幸せな時間を過ごせるわ。




「じゃあマーガレット、そろそろ俺たちも行こうか。屋敷まで送ろう」

「あら、アヴィのエスコートなんて久しぶり。昔、ダンスを踊った時以来ね」


 マーガレットとアヴェルの談笑に水を差すのは気が引けたアリスだったが、空気のようにさりげなく呟く。


「あ、あの、それでは私もこの辺で失礼します」


 しかし小走りで立ち去ろうとしたアリスの腕を、マーガレットが引き留めた。


「え? アリスも一緒に帰りましょうよ。馬車で家まで送るわ」

「でもそれだと……」

「ん、どうしたの?」


 優しく問いかけるように首を傾げるマーガレットにアリスが目を奪われていると、今度は白い歯を浮かべたアヴェルが呼び止めてくる。


「バートレット嬢も来るといい。マーガレットには、募る話がたっぷりありそうだし」


 この二人に親切に勧められては、平民の私が断るだなんて……で、できないっ。


 心の中では自分の不甲斐なさへの悔しさで一杯だったアリスだが、表面上は小さく頷くしかなかった。アリスの空色の瞳にはちょっぴり悔し涙が浮かんでいる。


「……はい、それではお言葉に甘えさせていただきます」

「ふふ、よかった~。それじゃあ、帰りましょうか」


 三人は学園の馬車の停車場へと歩き出す。

 先ほどの出来事をふと思い出したアヴェルは、くちびるをふっと膨らませ、クスリと笑みを漏らした。


「ふふ。それにしてもマーガレットに呼び止められたおかげで、入学初日から生徒会に勧誘されるなんて思ってもいなかったよ」

「本当ね。でも、一番災難なのはマティアスに連れていかれたクレイグじゃないかしら」

「ははは、確かにそうだ」


 アヴェルの朗らかな笑い声が、中庭に明るく響き渡る。その明るさに感化されるように、マーガレットは口元の端を上げて、にんまりと意味深な笑みを刻んだ。


「それに、素敵な特待生とも知り合いになれたでしょ?」


 マーガレットのその含みのある笑みに、アヴェルは何か企みを感じ取り、思わず渋い笑みを浮かべた。


「マーガレットは、俺にまでバートレット嬢を売り込むのか」

「だって、こんな可愛い女の子はそうそういないわよ」


 マーガレットは口をぷぅっと膨らませて、幼馴染みに抗議の意を示している。

 しかし、そのマーガレットの表情は威嚇しても仔猫のように愛らしく、アヴェルはつい口を綻ばせる。


「……ふふ。そうだなバートレット嬢も可愛いよ」


 マーガレットとアヴェルが自分のことを話題にしているのに、アリスは穏やかな表情を浮かべたまま、反応を一切示さなかった。


 なぜならアリスの頭の中は今、あるひとつの言葉に占領されていた。そのため、二人の会話はアリスの耳に入ることなく、静かに通り過ぎていたのである。


 アリスの頭の中を占めていたのは、入学式での女生徒たちのある会話。


 ――本当は、アヴェル殿下とマーガレット様が婚約するはずだった――


 その言葉がアリスの頭の中で、鳴り響く鐘のように幾度も反響している。


 弟の婚約者を奪うなんて、ゼファー王太子殿下ってどんな方なのだろう?


 平民の私がこんなことを思うのは大それた望みかもしれない。

 でも、どうにかしてマーガレット様とアヴェル殿下の仲を取り持つ手助けができないかと、胸の内で切に願わずにはいられなかった。




お読みいただきありがとうございます。


次は――

放課後、マーガレットは女生徒の怒鳴り声を耳にします。

その声に、嫌な予感がよぎったマーガレットがその場所へと向かうと

アリスが女生徒たちに囲まれていて……

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