第18話 いつかあなたに会えるまで
ぐぉはっ! アリスったら可愛すぎりゅっ。
そんな風に言ってもらえるなんて幸せだわ。どこかにヒロイン使用人ルートとか落ちてないかしら?
アリスの気持ちはとても嬉しい……でも、それはやっぱり違うから。
「私たちがもう少し大人になって、素敵なレディになったらきっとまた会えるわ」
「そんな日が来るのでしょうか」
「えぇ、間違いない。予言しちゃう!」
本当はゲームで一緒の学園に通うことを知っているから、予言でも何でもないのだけど。
「不思議ですね、マーガレット様の予言なら私信じられます。早くその日が来てほしいです」
「ふふ、私もよ。それじゃあ……今度こそ、また会いましょうね」
「はいっ!」
「ザザもまたね」
「お前に『また』会うことはねぇ! リボンには礼を言うがもう二度と来るな。お前は危険だ!(アリスにとって)」
「ちょっとザザ、やめて」
「でもアリス」
「マーガレット様に失礼なことしないで!」
「……はい」
ザザはたじろいだ。
今までの優しいアリスとは少し違う。アリスの言葉の端に芯のようなものを感じた。
アリス、なんか強くなったな。
アリスが変わったのはやっぱりコイツのせい?
ザザがマーガレットに目を向けると、マーガレットはぎこちなくも微笑んでみせる。
もちろんザザも笑い返す――なんてことはなく、「こっち見んな」とチンピラのように睨みつけた。すると、マーガレットの前にスッとクレイグが立ちはだかって威圧する。
けっ、お貴族様は騎士の真似事か?
どうせコイツら、好奇心でやって来た貴族の子供なんだろ。
今日のことなんてケロッと忘れて、明日には俺たちを見下すに決まってる。アリスに希望を持たせるんじゃねえよ。
ザザの心のうちなど知らないアリスは、マーガレットに手を振って別れを惜しんでいる。マーガレットも手を振りながら今日のことに思いを巡らせた。
ユーリ君に会えなかったのは残念だったけど、アリスとザザに会えて楽しかった。でもこれ以上ゲームに干渉したくはないから、寂しいけどここにはもう来ないでおきましょう。
アリスはマーガレットたちの姿が見えなくなるまで、大きく手を振って見送っていた。アリスの金色の髪にはマーガレットからもらったピンクのリボンが、アリスの心を表すように嬉しそうに風になびいていた。
教会を出たマーガレットとクレイグは足早に屋敷を目指す。
今は大体昼の三の刻。
まだ日も高く、今から帰れば家の者に怪しまれることなく屋敷にたどり着けるだろう。
「お嬢様、さっさと帰りましょう。予定よりも遅くなってしまいました」
「そうね。お母様にバレたら大変」
「はい、どんなお仕置きよりも後悔することになります」
「ふふ、クレイグったら言うわね。まあその通りなのだけど。でも今日教会に行けてよかった。アリスって素敵なお友達もできたし、たとえバレたとしても後悔はしないわよ」
「……僕も言ってよかったと思っています」
アリスさんに優しく語りかけるお嬢様を見て、従者として誇らしく思ったと同時にやっぱりこの方に仕えたいと思ったのは間違いではなかったと確信できた。
そのことを思うと、クレイグの表情からは自然と柔らかい笑みがこぼれた。
しかし、クレイグの表情を見たマーガレットは固まった。
―え、もしかして⁉
「まさかクレイグ…アリスのこと好きになったの⁉ ダメよ、クレイグ。アリスは将来モテモテになるからライバルが多くて大変よ」
「………は?」
前言撤回だ。
マーガレットお嬢様には、この猪突猛進な勘違いのクセを直してもらわないと、将来どんなトラブルに巻き込まれるか分かったものではない。
今回はアリスさんのような純朴な方だったから良かったものを、貴族の令嬢や令息相手ではそうはいかないだろう。
そういえばお嬢様は、またアリスさんと出会えると確信しているような口ぶりだけど、あれは?
「あの、お嬢様はアリスさんのことっ、むぐッ!!?」
クレイグは見逃してしまった。忍び寄る悪意を。
二人の背後から迫り来るハイエナの影を。
背後から口を塞がれ、力強い筋骨隆々の腕に身体を拘束され、クレイグはなす術もない。
―――お嬢様はッ⁉
クレイグがマーガレットに目をやると、ガラの悪そうな男二人がクレイグと同様にマーガレットの口を塞いでいた。マーガレットは青ざめた表情で翡翠の瞳を大きく見開いて、ジタバタと必死にもがいている。
しかしひ弱な子供二人には、大の男たちに抵抗する術など、ない。
あぁ、気を付けていたつもりだったのに……気付けなくてすみません……お嬢、さま。
――ドカッ。
後頭部に衝撃を受けたクレイグは静かに気を失った――――
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次の話は――
とらわれの身となってしまったマーガレットとクレイグ。
神頼みするマーガレットに、クレイグが自分の過去を語ります。
クレイグが神様を信じない理由とは? 果たして二人は助かるのか?