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第159話 スイーツは甘く美味しく

 スイーツカフェ『ジュノン』。


 木目を基調とした彫細工の壁に、貴族の雰囲気漂う荘厳でクラシカルなインテリアが見事に調和した店内は、まるで物語の一頁(いちぺーじ)のようである。


 給仕たちが、揃いのメイド服や執事服を着用して客をもてなすサービスも、貴族の生活を疑似体験できると庶民に受け、話題となって雑誌でも紹介されたほどだ。

 さらに、カップルたちへの特別なサービスも受けが良く、人気は現在進行形でウナギ上りで、着実にファンを増やしている。



 ―ガチャ、リンリンリリン。


 お客様を夢のひとときへと案内するのが給仕の役目と誇りを持つ、五年目を迎えたベテラン給仕のサリーは、やって来た男女のお客様をとびきりの笑顔で迎える。


「いらっしゃいませ。二名様ですね。あちらの奥の席へどうぞ」


 入店と同時に駆けつけた給仕のサリーによって、マーガレットとクレイグは店の奥のテーブル席へと案内された。


 あれほどこの店に行きたがっていたターニャはというと、店の前につくと「急用を思い出した」とかで、先に屋敷に帰ってしまった。

 そのため、マーガレットとクレイグの二人での来店となったのである。


 給仕から受け取ったメニュー表を開くと、そこにはケーキやドリンクなどの多くの品名が羅列していた。

 選り取り見取りかと思いきや、マーガレットは首を捻っている。


「うーん、種類がありすぎてどれを選ぶのか悩むわね」

「そうですね。でしたら、店員さんにおすすめを聞いてみましょうか……店員さん、すみません。おすすめの品はあるでしょうか?」


 クレイグが尋ねると、給仕はあるセットのイラストを指差した。


「そうですね……お二人ですと、こちらの『カップルラブラブセット』が一番のおすすめですわ」

「ふえっ!?」


 突然奇妙な声を上げたマーガレットに、給仕のサリーは目を丸くした。何でもないとばかりに、マーガレットは愛想笑いを浮かべて誤魔化している。

 

 しかし――


 か、カップル!? しかもラブラブって!

 私とクレイグって、給仕さんから見たらカップルに見えるってことよね。

 へぇ……そっか~。ふ~ん。


 勝手に上昇していく口角に逆らいながら、マーガレットは給仕が指差していたメニューのイラストに目を奪われる。


「あ、そのタルト。フルーツがたくさん乗ってて、とっても美味しそう」

「では、これにしましょうか」

「ええ」


「かしこまりました。『カップルラブラブセット』ですね。では、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」


 給仕は一礼して厨房へと下がる道中、振り返ってマーガレットとクレイグを見てにやりと笑う。


 二人とも綺麗な子。

 話し方から察するに、貴族令嬢と庶民のお忍びデートってとこかしら。

 令嬢ちゃんの驚き方からして、両片想いの恋人になりかけと見たわ!

 男の子のほうも一瞬だけ動揺してたし。


 しかし、二人には身分という壁が立ちはだかる。

 身分を越えた禁断の愛の行方は……って、まるで使い古された恋愛小説みたいね。んふふ、何組ものカップルを成立させたサリーちゃんの血が騒ぐというものよ。きっちりサービスしなくっちゃ♪


 給仕の下がっていく後ろ姿を見送ったマーガレットは、心の中で小躍りしていた。


 ふふっ、恋人同士かあ。

 主と従者じゃなくて、恋人同士。

 そのことを考えると、とても新鮮で、それでいて胸の奥がこちょこちょとこそばゆくて心地よい。


 クレイグとは顔を合わさない日がないほど毎日一緒にいるけど、こういう娯楽スポットで二人きりというのは初めてだ。

 もし私たちの身分が同じ庶民だったのなら、こんな感じのデートも当たり前にできたのかしら。


 マーガレットが夢現(ゆめうつつ)で満足そうに顔を緩ませていると、気付いたクレイグが不思議そうに首を傾げる。


「どうかしましたか?」

「ううん、何でもないわ」


 そうこうしている間に、満面の笑みを浮かべた給仕が『カップルラブラブセット』という名のフルーツタルトを運んできた。


 直径三十センチほどの皿の半分ほどを占めた丸いタルトの上には、イチゴやオレンジにキウイフルーツ、ブルーベリーなどのフルーツが宝石のように美しく彩られていた。皿にはチョコや生クリーム、ペパーミントの葉を使ってデコレーションまで施されている。


 まるでフルーツの宝石箱。

 んーっ、食べるのがもったいない。


 タルトに目を輝かせたマーガレットだったが、このタルトのとある違和感に眉をひそめる。


「あれ、フォークとナイフがひとつずつしかない?」

「あ、本当ですね。給仕さん、すみません。フォークとナイフと、それと受け皿をいただけませんか?」


 すると給仕の女性は、残念そうに眉を下げて礼をする。


「大変申し訳ありません。こちらは『カップルラブラブセット』ですので、ナイフとフォークは一組まで、受け皿はなしと制限させていただいております……

ですので周囲の目はお気になさらず、是非ともお互いに『あ~ん♡』と食べさせ合ってくださいませ。それではごゆっくりー」


 先ほどまで眉を下げていた給仕は爽やかな笑みを輝かせながら、そそくさとその場をあとにした。


 給仕の言葉に耳を疑ったマーガレットとクレイグが改めて周囲の席を見回すと、周りはカップルばかりだった。


 そして何より、同じ『カップルラブラブセット』を頼んだカップルたちは、

本当にひとつのフォークで仲睦まじく、フルーツタルトを「あ~ん♡」と食べさせ合っていたのだ。


 う、うっそぉ……っ。

 え……じゃあ、私とクレイグも「あ~ん♡」ってする、の?


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