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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【学園編】  作者: 星七美月
第2部 悪役令嬢の婚約者

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第157話 くすぶる嫉妬

 興奮冷めやらぬマーガレットは、生クリームたっぷりのクレープをひと口ほうばる。まろやかな甘いクリームが枯渇した脳内に染みわたり、マーガレットはようやく冷静さを取り戻した。


「ターニャの言うとおりだわ。もう少し落ち着いて追いかけなくっちゃ」


 クレイグに気配を気取られない距離を保ちつつ、サンノリゼ通りの店で買い食いをしながら、マーガレットとターニャは追跡を続けた。

 傍目からは、買い食いを楽しんでいる少女二人組にしか見えないことだろう。


「もぐもぐもぐ……あ、お嬢様。目標(クレイグ)に動きが!」


 ターニャの視線の先には、大きな旅行鞄を持った女性とクレイグがいた。

 クレイグは女性と二言三言(ふたことみこと) 言葉を交わすと、女性の鞄を持って仲良く一緒に歩き出す。


 今度こそ、ルビーさん?


 瞬きをすることも忘れ、マーガレットは女性を観察した。

 女性の年齢は十代後半から二十代前半くらい。

 髪は短くショートボブで、ストロベリーブロンドが似合う快活な女性といった感じだ。


 クレイグって、ああいう女性(ひと)がタイプなの?

 ……私も髪をボブにしてみよう、かしら。


 マーガレットは魔法薬で金色に染まった三つ編みを指に絡ませて、少し口を尖らせている。


 そしてクレイグと、ルビーかもしれない女性のたどり着いた建物を見て、目を疑った。


 大理石の柱の堂々とした佇まいは、まるで古代の宮殿を思わせる。

 それはサンノリゼ通りの中でも、飛び抜けて豪華で洒落た石造りの建造物。

 エントランスには、お客様を迎える複数のベルボーイ。

 そこは……


「ホ、テ、ル……」


 ホテルのエントランスで、クレイグとルビーなる女性は楽しそうに談笑している。すると突然、女性がクレイグに抱きついて軽い抱擁を交わした。


 え……その人は、だれ?

 随分と楽しそうだけど、どういう関係なの?


 クレイグは家族を亡くして天涯孤独なはずだし、親戚もいないはず。

 絶対に赤の他人よね。

 その人は一体、誰?


 一瞬にして、マーガレットの頭の中は真っ白になり、血が凍るような感覚が全身を駆け巡った。


 絶望が私の身を覆っているような、この感覚は何?

 ブクブクと頭の中に(もや)がかかって、まるで水の中にいるみたい。

 あの時とは全然違うのに。

 え…………あの時って、何だっけ?


 すると、マーガレットの頭がズキリと痛み出す。痛みが意識を曇らせた瞬間、凛としたターニャの声が耳に響いた。


「お嬢様、マーお嬢様ってば!」

「……ターニャ?」

目標クレイグが次のところに向かっちゃうよ」

「え、でもホテルに」

「しっかりして! クレイグはあの女の人の荷物が重そうだから手伝っただけで、もう女の人とは別れて今はあっちの方に歩いていったよ。ほら、早く行かなくちゃ見失っちゃう」


 ターニャに手を引かれながらマーガレットがチラリとホテルに目をやると、先ほどのショートボブの女性は、旅行鞄を持ったベルボーイと一緒にホテルへと入っていくところだった。


 私、また勘違いしたんだ。

 クレイグのこととなると、私は冷静でいられないらしい。


「あ、クレイグ。また止まった」

「え!」


 ターニャの声で我に返ったマーガレットが正面を向くと、ある店の前で立ち止まっているクレイグが視界に入った。

 他の新しい店と比べると年季の入った店構えのその店の名は、ブレナン宝飾店。


 ――ブレナン。

 手紙の送り主のルビー・ブレナンと同じ苗字だわ。

 クレイグはこの店に用があって来たに違いない。


 すると、店の隅から(ほうき)を持った少女がクレイグに駆け寄り、何事か話しかけている。少女はマーガレットとそう変わらないくらいの年頃で、店の前の掃除をしていたことからこの店の関係者だろう。


 あの子が本物のルビー・ブレナンさんかしら。




 クレイグと少女ルビー(仮)が店に入って、五分が過ぎた。

 マーガレットとターニャは近くのベンチに腰を下ろし、出店で買ったドーナツを美味しく食べる少女の演技をして張り込み中だ。


 ブレナン宝飾店のショーウインドウには、ネックレスやブレスレットなどのアクセサリーを始め、細工の施されたライターや懐中時計といった宝飾品が飾られていて、店の中の様子を確かめることはできない。


 宝飾店を見ては、ソワソワと心配そうにするマーガレットの隣で、ターニャは口を膨らませる。


 クレイグってば、他の女の人に構いすぎ!

 マーお嬢様をこんなに心配させて、変装までさせて……羨ましい。

 でもお嬢様と一緒におでかけできて、これ以上ないくらいあたしは幸せだけど。


 それにクレイグが助けた女の人たちって、みんな赤毛で、どことなくマーお嬢様に似てるから放っておけなかったのかなって、何となくわかっちゃったし。


 そんなことを考えていたら、ターニャはドーナツをぺろりと食べ終わっていた。

 ターニャとは打って変わって、ドーナツを手に持ったままのマーガレットは、宝飾店に注意を払いながら道行く人々にも目を向けていた。


 店で買ったクレープを互いに食べさせ合うカップル。

 寒さを凌ぐために腕を組み、温め合う弾ける笑顔のカップルと、幸せそうなカップルばかりが目に入る。


 いいなぁ。

 私もあんなふうにクレイグと……

 なんて、婚約者のいる私には一生無理な話よね。


 今、クレイグはお店の中でどんな話をしているのだろう。

 さっきのルビーさん(仮)と楽しく話しているのかしら。


 クレイグを追跡して、ルビーさんの正体を突き止めることばかりに気を取られていたけど、私は彼女の正体を知って……そのあと、どうしたいのだろう。


 何でもなかったって安心したいのだろうか。

 でももし、クレイグとルビーさんがさっきみたいな道すがらの幸せなカップルなのだとしたら、私は……。




 ―チリン、チリリン。


 人混みの中でも微かに聞こえたドアベルの音とともに、宝飾店の扉が開いた。

 店から出てきたクレイグは、紙袋を大事そうに持って、店の中に向かって深々とお辞儀をしている。


 宝飾店に用事があったのは間違いなさそうだ。

 そういえば、謎の女性ルビーにばかり気を取られて失念していたけど、クレイグは宝飾店に何の用事があったのかしら。



 店をあとにしたクレイグは、貴族街区の方角へとまっすぐ歩き出す。

 おそらく屋敷へと帰るつもりなのだろう。


 思ったより早かったわね。

 あれ? クレイグが帰る前に屋敷に帰り付いておかないと、まんがいちクレイグが私の部屋に来たらバレちゃうんじゃ……!

 真面目なクレイグだから、「用事は済んだから仕事します」はあり得る。


「ターニャ、すぐに帰りましょう。クレイグと鉢合わせしたら大変だわ」

「うん、わかった。もぐもぐごっくん」


 三つ目のドーナツを飲み込んだターニャとマーガレットがベンチから立ち上がったその時、背後からとても聞き覚えのある少年の声が聞こえた。


「お嬢様?」

「「え?」」


 マーガレットとターニャは背後からの恐ろしい予感を感じつつ、恐る恐る振り返る。


 そこには、先ほど貴族街区へと向かったはずのクレイグが眉間にシワを寄せ、

訝しげな表情でこちらをじっと見つめていた。


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