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第13話 遭遇

「わあぁぁぁ―――‼」


 マーガレットの視界に見覚えのある教会が目に入り、瞳を輝かせたマーガレットは(たま)らず声を上げた。

 所々(ところどころ)(こけ)むした石造りの教会は、治安の悪いこの地区ではひと(きわ)神秘的で特別な雰囲気を(かも)し出している。


 ゲームの中で何度も見た教会に本当にそっくり!



 聖セティア教会には攻略対象者のひとりであり、私の推しでもあるユーリ(きゅん)ことユーリ・スレイマンがいる。


 この教会で司祭見習いをしているユーリは、ヒロイン・アリスのひとつ年下の幼馴染(おさななじ)みで、淡い蜂蜜(はちみつ)色の髪に金色の瞳が印象的な華奢(きゃしゃ)で心根の優しい少年だ。


 ユーリは幼い頃から仲の良かったアリスを姉のように(した)っていたのだけど、学園で悩みを聞いてもらううちに、アリスのことをひとりの女性として意識するようになっていく。

 でも、ユーリは司祭となる身で恋は許されない。

 司祭になるか、全てを捨ててアリスと逃げるかで揺れる二人の恋は、すれ違いが多くて切ないのよねぇ。


 さてと、そんなユーリ君の子供の頃の可愛い御姿を拝見(はいけん)しちゃおうかしら、ふっふっふ。


 マーガレットは(はや)る気持ちを(おさ)えながら、教会の扉をゆっくりと開ける。




 ―ガララララッ。

 扉を開けたマーガレットは息を飲んだ。


 石造りの外壁と違って、中は白を基調とした白塗りの壁に木目が美しく、しんと静まり返った聖堂には荘厳(そうごん)な雰囲気が漂い、ステンドガラスから差し込む光が、女神を(かたど)った石像を照らして神々(こうごう)しく輝かせている。


 きっと信徒たちはこの石像に毎日祈りを(ささ)げているのだろう。

 やっぱり恋ラバに登場する教会だけあって素敵だ。


「素敵な教会ね」

「そうですか? 教会ならどれも一緒ですよ」


 んもう、信仰心皆無(かいむ)なクレイグは置いといて、ユーリ君はどこかしら……


 キョロキョロとあたりを見回したマーガレットは、あることに気付いて首を(かし)げた。


 教会の中にはユーリどころか、教会関係者も信徒も人っ子ひとり見当たらない。


 今日は教会はお休み? お店じゃないんだから、まさかね。





「何かご用ですか?」


 すると優しさで満ちた天使の歌声のような少女の声が、マーガレットの耳へと届いた。


 ―この声、まさか。


 声の聞こえた方向に目をやると、通路近くの扉から金髪の少女が不思議そうな顔をしてこちらに視線を送っている。


 マーガレットは、この少女に見覚えがあった。

 肩まで伸びたサラサラとした絹のように細い金色の髪に、(くも)りのない晴天のような空色の瞳。それにいつも付けているピンク色のリボン。

 

 顔はまだ幼いけど、確かに面影(おもかげ)がある。

 この少女は間違いなく、『恋ラバ』の主人公(ヒロイン)のアリスだわ‼


 こんな風に会うなんて……そうよね、ユーリ君がいるなら幼馴染(おささなじ)みのアリスだって近くにいるわよね。それにしてもアリスったらこんな幼いころから主人公としてのオーラが(にじ)み出ている。

 その上可愛いとか…………天使か⁉


「…………」

「……あの、私の顔に何か?」

「あ! ごめんなさい、天使かと思って見惚(みと)れていました」

「まぁ⁉ 私が天使なんて、あなたの方が天使様のようにおきれいですのに」

「ふふっ、私は天使というよりも()()じゃないかしら」

「うふふ、面白い方ですね……あの、司祭様にご用があるのでしたら数日は留守で戻りません。実は遠方の地に奇跡の子が現れたそうで、その子を迎えるために数日はお帰りにならないかと」



 奇跡の子。

 その奇跡の子ってユーリ君のことじゃなかったかしら。ユーリ君ってアリスにも(おと)らない唯一無二(ゆいいつむに)のとても珍しい賜物(カリスマ)が使えたはず。

 記憶の欠如(けつじょ)で詳しくは思い出せないのが無念なり。

 今ユーリ君を迎えに行っているってことは少し来るのが早かったみたい、残念。


 マーガレットは気を取り直してアリスに笑いかける。


「いえ、私たちはただ教会を見学に来ただけなのです」

「まぁ、そうなんですか! 今日は建国祭の予行練習があって、副司祭様たちも全員出払っているんです。その間の教会の留守を私が任せられているんですけど……よろしければ、私が教会を案内しましょうか? (つたな)い案内になると思いますが」

「えぇっ、本当に? (主人公(ヒロイン)から聖地案内してもらえるなんて、激アツすぎるっ)……じゃあ、お願いしてもよろしいですか。あ、私の名前はマーガレットといいます。こっちはクレイグです」


 クレイグがアリスに会釈(えしゃく)をすると、アリスも慌てて会釈を返した。

 ちょっと慣れない会釈が初々(ういうい)しくて可愛らしい。


「私はアリスといいます。よろしくお願いします。では、早速そちらの女神ファビオラーデ様の石像からご案内しますね」

「女神ファビオラーデ様?」


 マーガレットの心は(はず)むように踊り、石像までスキップしていた。


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