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第119話 血のお茶会

「というか私は結婚延期になりそうなのに、お父様は三か月後にいきなり結婚って、どういうつもりなのかしら。失意の娘にもうちょっと配慮できないの!?」


 ジルベルタは美しく整った眉にシワを寄せて、鋭く声を張り上げた。声は抑えきれない不満で震えている。

 深く溜め息をこぼしたフェルディナンドは、妹に賛同するように静かに頷いた。


「だよねぇ。しかも相手は十八歳で、僕と同い年って……いつかはあるかもと思ってたけど、それでも複雑な気分」

「私だって、同じ学園に通っていた先輩がお父様の新妻になるなんて変な感じよ」

「ジルベルタはそのオフィーリア嬢に会ったことがあるんだよね。ジルベルタから見てどんな人?」

「それがね。学園で見かける時はいつも同学年の婚約者とイチャイチャ、あ、仲睦まじいことで有名な方だったの。だから、一体何があってその婚約者と別れてお父様と結婚することになったのか、謎なのよね。最近誰とも連絡を取ってないって言うし、なーんか怪しくない?」


 ジルベルタの疑念の声を聞いて、マーガレットはつい、「あ」と声を漏らす。

 その声に反応したジルベルタとフェルディナンドは、すぐにマーガレットに目を向けた。


「どうしたの? もしかして、構ってほしい? だったらジルベルタお姉様がギュッてしてあげるわよ」

「いえっ、あのう……オフィーリア様になら、二日前までほぼ毎日会っていましたよ」

「えぇ!?」

「何でだい?」


 驚いたジルベルタとフェルディナンドは、マーガレットに詰め寄った。

 四つの紫色の瞳から鋭い視線を向けられ、マーガレットはビクリと身体を震わせたが、ジルベルタが抱擁を少し緩めると、マーガレットはゆっくりと語り出した。


「えっと、私は今、妃教育の授業を受けているのですが、先日まで一緒に授業を受けていたのがオフィーリア様なんです」


 一か月ほど前から、ついにマーガレットの妃教育が始まった。

 マーガレットは城へと通い、専門の教師からマンツーマンで授業を受けている。


 ただしローゼンブルク近代史の授業のみ、担当の先生の都合もあって、マーガレットの授業だったところに急遽オフィーリアが入る形となった。

 三か月後に国王との結婚が控えているオフィーリアには、現在付け焼刃の妃教育がなされているそうだ。


 フェルディナンドとジルベルタは、義母となる年の近いオフィーリアにあまり良いイメージは持っていないようだが、共に授業を受けた級友であるマーガレットの目からすると、オフィーリアへの見解は大きく違っていた。




 二日前、オフィーリアと共に受けた授業の記憶が、マーガレットの脳裏にふと蘇る。


 ローゼンブルク城の一室で、マーガレットとオフィーリアはひとつのテーブルに仲良く並んで、グラスバン先生のローゼンブルク近代史の授業を受けていた。


 黒板には現在の王家となったいきさつが丁寧に書かれており、これから王家に嫁ぐ者は知っておかねばならない歴史である。

 それこそ、先程訪問したジョアナ王太后が嫁ぐ少し前の、今から四十数年前の先代国王の時代。


 ローゼンブルク王国は、戦争に勝った強国として隣国から恐れられ、妃も隣接した国々から輿入れしてきた王女ばかりだった。

 妃たちは祖国のために、こぞって国王からの寵愛を受けようと日々躍起になり、妃たちの対立も問題視されていたそうだ。


 ある晴れた爽やかな秋空の日に開かれたお茶会で、そのおぞましい悲劇は起こった。


 茶会に参加していた王妃、第一側妃、第二側妃、第三側妃までが、全員死亡。


 跡継ぎだった王子や王女たちも、誰一人として生き残らなかった。


 当初は王家滅亡を狙った何者かの犯行を疑われたが、

 亡くなった妃たちからはなんと——それぞれ違う種類の毒物が検出された。


 毒を仕込んだ者は一体誰なのか。何が目的なのか。

 謎が謎を呼ぶ事件解決のため、ついに王家に忖度をしない軍事貴族が介入し、詳しく調査を開始した。


 結局、妃たちが互いを狙って毒物を仕込み、相打ちとなって全滅した悲劇という結論に至った。


 この茶会のことを、後世では『血のお茶会』と呼んでいる。


 この血のお茶会が引き金となり、亡くなった妃たちの祖国との関係は最悪となる。ここからローゼンブルクは無敵の強国から瓦解し、傾国へと足を突っ込んでいく。


 ローゼンブルクには、国王が迎えられる妃は生涯で五人までという掟がある。

 そのため当時の国王が娶れる妃は残り一人だけ。


 跡継ぎ問題も気が気でないまま、最後の妃として名前が挙がったのが当時の宰相の娘だったジョアナ・モレノ伯爵令嬢だった。


 わずか十四歳という年齢で国王に嫁ぎ、二十歳以上年の離れた国王を支え、血のお茶会で亡くなった妃たちの祖国との仲も徐々に改善させて、ローゼンブルクを傾国から大国へと押し戻した生きる偉人。


 近代史のグラスバン先生はズレてきた眼鏡の位置を戻しながら、スラスラと語る。


「この悲劇をふまえ……マーガレット様とオフィーリア様には、妃としての矜持をジョアナ王太后殿下から学んで頂きたいと思っております。


血のお茶会を受けて、現国王であらせるエドワード国王陛下の時代では、他国からの妃は避け、本国から妃を娶るようになさいました。


現陛下が唯一、他国から娶られた妃は、マーガレット様のご婚約者であらせるゼファー王太子殿下の母君、今は亡きトゥーラ第一側妃殿下のみです」


 ―え。


 ということはやっぱり亡くなっているじゃない。

 トゥーラ妃って確か事故で亡くなったと聞いたけど、外国から嫁いだら死ぬ呪いでもあるのかしら……。


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