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第118話 星の導き

 ジョアナ王太后が団欒室から去ったあと、祖母の戒めなど知ったことかと、ゼファーは甘い微笑みを浮かべてマーガレットに忍び寄る。

 しかし、ジルベルタが素早くマーガレットの肩を抱き寄せ、冷ややかな視線で弟を牽制した。


 すると、まるで透明な壁でもあるようにゼファーはマーガレットに近付けず、奥歯を噛み締めて恨めしそうにジルベルタを睨んでいる。


 あれ、ゼファー様が近寄ってこない?

 ゼファー様ってもしかして、王太后様だけでなく、ジルベルタ様のことも苦手なのかしら。


 不思議そうに目を瞬かせるマーガレットの頬に、ジルベルタは愛でるように頬ずりをしている。


「マーガレットちゃんの頬、スベスベで気持ちいい。ゼファーったら、さっきお祖母様に距離を取りなさいって言われたばかりなのに、もう近付こうとするなんて我慢のない男ね。

そんな男は、可愛いマーガレットちゃんには似合わないんじゃないかしら。

あ! もしかして……これは星の導き!?」

「ああ、やめてくれ姉上っ」


 ジルベルタの冗談めいた言葉に恐怖心を滲ませたゼファーは、顔をしかめて本気で嫌がっている。

 二人の会話がまったく理解できないマーガレットが翡翠の瞳を丸くしていると、気付いたジルベルタが優しく補足する。


「マーガレットちゃんには言ってなかったけど、私の賜物(カリスマ)は『星読み』といって、選択するべき未来が何となくわかる能力なの」

「ええっ、それはすごい賜物(カリスマ)ですね」

「あら~、そんな言ってくれるなんて嬉しいわ。でも私の賜物(カリスマ)は、目の前に提示された選択肢から、ぼんやりと判別するくらいの簡単なものよ」

「それだけでも十分すごいですよ。私も、ジルベルタ様のような賜物(カリスマ)があったらいいと思っていたのです」


 選択肢って、まるで選択肢で進んでいくゲームみたい。

 ジルベルタ様の賜物(カリスマ)があれば、乙女ゲーで失敗なんてまずなさそうだ。

 主人公がその賜物(カリスマ)を持っていたら、チートレベルにとても役に立ちそうだわ。


 それにゲームじゃなくても、実際に何か危険なことに巻き込まれた時、回避できそうな気がする。


 例えばゼファー様に好かれない選択肢とか。

 ゼファー様の婚約者にならないですんだ行動とか。

 あー、あの頃に戻ってやり直したい。


 ゼファー様があんなに嫌がっているのだし、ジルベルタ様の賜物(カリスマ)の底知れない力が伝わってくる。

 ジルベルタ様の賜物(カリスマ)。お世辞抜きで私も欲しい!


 マーガレットが尊敬の眼差しでジルベルタを見つめていると、ジルベルタは歓喜に顔を輝かせてマーガレットをもう一度強く抱き締める。


「あ~もうっ。可愛すぎる。この子はゼファーになんてもったいない。フェルお兄様、私がこの子と結婚してもいーい?」

「ジ、ジルベルタ様!? むぐっ」


 ジルベルタの丁度良いサイズの胸に挟まれたマーガレットは、鼻と口を塞がれて息をするのもやっとだ。

 そこに今度はフェルディナンドも加わり、マーガレットの頭を撫で始める。


「それじゃあ、ジルベルタはお嫁にいけないじゃないか」

「いいのよ、お嫁にいけなくたって。どうせアデニ・アラビカは内乱の真っ最中で、来年学園を卒業してもお嫁にいけなさそうだし……いっそのこと婚約を解消してくれても構わないのだけど」

「えぇーっ本当にぃ? いつもセルジュ公子(こうし)と手紙のやり取りをしているの、どこの国の第二王女様かな?」

「え、ちょ、何でそのこと……もうっ!」

「あはははは」


 ジルベルタは照れを隠すように、片肘でフェルディナンドを小突いた。

 そのジルベルタの表情は恋に恥じらう乙女のようだ。


 ローゼンブルク王国の第二王女であるジルベルタは、東の隣国アデニ・アラビカ公国のセルジュ公子(こうし)と婚約している。


 しかし、二か月ほど前からアデニ・アラビカ公国の一部の地域で内乱が始まった。

 もしこのままジルベルタが学園を卒業する一年後になっても内乱が続いていた場合、嫁ぐことはできず、残念なことに結婚式を延期せざるを得ない状況らしい。


 ジルベルタは動揺を押し隠すように、唇を尖らせて素っ気なく呟いた。


「まあ、もともとセルジュとの婚約は難しいって星読みでわかっていたから、そんなに驚きもしないわ。やっぱりねって感じ」

「……へぇ、そこまでわかってたのに、婚約に異議を唱えなかったのは『ひとめぼれ』ってヤツだったのかな? 何てったって、星読みの選択よりも自分の選択を優先したんだから」


 フェルディナンドの悪戯っぽい笑顔とからかうような言葉に、ジルベルタはみるみる頬を熱くしていく。


「あーもうっ、お兄様はもう黙って! 私のことはいいから、お兄様もさっさと相手を探しなさいよ」

「いやぁー、僕は独り身のほうが気楽でいいなぁ。他人が介入すると王位争いだの、世継ぎだの、面倒くさいだろうし。僕は病弱な第一王子のままでいいや」

「お兄様って本当に欲がないわよね……身体のことさえなければ、私はお兄様が一番国王に向いてると思うけど」


 ジルベルタとフェルディナンドの会話を聞きながら、まだジルベルタの胸に挟まれているマーガレットは脳をフル回転で働かせていた。


 ほうほうほうっ!

 たとえ賜物(カリスマ)で良い選択肢が見えていたとしても、愛のために険しい道を選ぶなんてジルベルタ様って情熱的な方なのね。

 うぉぉぉ、創作意欲が爆発しそう。

 メモを取りたいけど、ゼファー様がいるから無理だわ、残念。


 創作活動をゼファーに禁止されてから、マーガレットは表立って小説を書くことはなくなった。


 そう、表立っては。


 実は細心の注意を払って、秘かに書き続けているのだ。

 その事実を知っているのは、クレイグとターニャの二人だけで、読者ももちろん信頼できる二人だけ。

 しかし二人とも忌憚のない感想をくれるので、十分楽しんで書けている。


 マーガレットが創作に思いを馳せていると、何か思い出したらしいジルベルタの顔が曇り、突然怒りを露にして荒々しい声を響かせた。


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