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第116話 おかしな三角関係

「えーっと、ジルベルタはカヌレが好きだっけ。シャルロッテは……わかってるって、全部だね。ルナリアは……」


 フェルディナンドは、三人の妹たちのお菓子を取り皿に丁寧に取り分けていく。

 その光景を見ていたマーガレットの顔には、驚きと感心が浮かんでいた。

 

 妹の好きなお菓子まで把握しているなんて、何て気遣いのできる方なのかしら。


 するとマーガレットの番が回ってきたらしく、新しい取り皿を取ったフェルディナンドは、マーガレットに向けて穏やかな笑みを浮かべる。


「……マーガレット嬢はどれがいい? んー? …………そうだな、このマフィンは僕のおすすめだよ。この苺のクリームが乗っているのは甘くて美味しいよ」

「美味しそうですね。そちらをいただきます」


 フェルディナンドからマフィンを受け取っていると、向かいのソファからルナリアの甲高い声が響いた。


「もうっ、ジルベルタお姉様。イグナシオ様をからかうのはおやめください!」

「あらあら~、ルナリアがそんな風に焼きもちを焼くなんて初めて見た……でも、私もイグナシオ様のこと気に入っちゃったわ。それになかなか良い抱き心地だし、いい男になる予感♪」


 ニヤニヤと悪戯っぽく笑うジルベルタは、包み込むようにイグナシオを抱き締めている。


 ジルベルタは少し男勝りではあるが、快活で大人っぽい魅力漂う女性だ。


 そんな大人の雰囲気を醸し出すジルベルタに抱きしめられ、十三歳の思春期真っ盛りのイグナシオは、ジルベルタの甘い香りにあてられてタジタジである。

 おまけに、ジルベルタのちょうど良い胸がイグナシオの顔面を押し潰そうと攻め込み、緩む顔をルナリアに見られまいと耐えるのに必死だった。


 ちなみにイグナシオの左腕には、涙で目を潤ませた小さなルナリアが必死にしがみついていた。

 ルナリアは、まるで仔猫が威嚇するかのように、ジルベルタを睨みつけている。

 これが見ている分には、なかなか興味深い。


 イグナシオお兄様、すごくモテてるわ。モグモグモグ。


 マーガレットは、イグナシオの三角関係を肴にマフィンを口に運ぶ。

 しかしいつの間にやら、マーガレットもゼファーに抱き締められ、イグナシオと似たような状況へと陥ってしまった。


 うーん、どうやってゼファー殿下から逃げようかしら。


 向かいの修羅場とゼファーの執拗な抱擁でマーガレットは気付いていないが、マーガレットの隣に座るアヴェルもまた、苛立ちを隠すことなく兄ゼファーを睨みつけている。


 その刺すような視線を華麗に躱しながら、ゼファーはマーガレットに話しかけた。


「そういえば知っているかい、マーガレット。アヴェルはこの前、お見合いしたんだよ」

「え、そうなのですか?」

「父の勧めでね。とても可愛らしい令嬢だったらしいけど断ってしまったらしい。惜しいことをしたものだよね」


「兄上には関係のないことです」


 ゼファーからの挑発に、アヴェルは鋭い口調でぴしゃりと言い返した。

 もうひとつのソファに座っているフェルディナンドとシャルロッテの二人は、気心の知れた兄弟たちの争いに目を丸くする。


「あんな顔で睨むアヴィも、酷いことを言うお兄様も初めて見ました。ワタクシの兄弟がこんな風に争うなんて…………マーガレットったら魔性の女です」


 皿に山盛りに積んだお菓子を食べる手を止めて、シャルロッテは奇妙な三角関係を食い入るように見つめている。

 すると、紅茶を飲んでいたフェルディナンドが何の前触れもなく、突然咳き込んだ。


「ごほ、ゴホゴホッ」

「フェルディナンドお兄様、大丈夫ですか? 病弱なんだから気を付けてください」


「だ、大丈夫ですかフェルディナンド様?」


 ゼファーの魔の手から、一瞬の好機をついて逃れたマーガレットと、フェルディナンドの隣に座っていたシャルロッテの二人は、こぼれた紅茶で服を濡らしたフェルディナンドに駆け寄り、タオルで優しく拭き始めた。


「あ、ありがとう。シャルロッテ、マーガレット嬢……いつもすまないね」

「あらぁ、それは言わない約束だわ」


 と、シャルロッテとフェルディナンドはお決まりの調子で会話している。

 この二人はいつもこんな感じで会話しているのだろう。


 二人の会話に耳を傾けていたマーガレットは、堪え切れずクスリと笑みをこぼす。


 フェルディナンド様って病弱って話だったけど、それ以上に面白い方なのね。

 気遣いもできて、とっても気さくで優しいし、民のことを考えて統治してくれそう。


 フェルディナンド様が国王になってくれたらいいのに。

 そしたら私も王太子妃にならなくてすむのだけど……。

 王太子妃なんてなりたくないし、ついでにゼファー様とも婚約破棄したい。


 そんな愚痴を脳内でこぼしていたら、いつの間にか服は乾いていた。

 フェルディナンドは、マーガレットとシャルロッテに向けて儚くも優しげに微笑んだ。


「二人ともありがとう。おかげで早く乾いたよ。あとは自分でできるから、二人はパーティを楽しんで」

「あら、でもまだ袖の部分が残っていますわ」


 マーガレットは親切心で言ったのだが、顔を引くつかせたフェルディナンドはマーガレットの耳元で呟いた。


「気持ちは嬉しいんだけど、さっきから弟たちが怖い顔でこっちを睨んでいるからさ……その優しさだけ受け取っておくよ、ありがとう」


 フェルディナンドの言葉を裏付けるように、ゼファーとアヴェルは射殺すような眼差しでフェルディナンドを睨みつけていた。

 まるで狩人が獲物に狙いをつけるような、威圧感さえ漂っている。


 しかしマーガレットが振り返ると、二人はすぐに爽やかに微笑んで、先程の敵意のこもった表情が嘘のようである。


 その様子を見たフェルディナンドは、「うわぁ……」と声をこぼして顔を歪めた。


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