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第115話 ローゼンブルク王家の人々

「こちらが兄のフェルディナンド。婚約パーティでも紹介したけど、こっちが姉のジルベルタだよ」


 ローゼンブルク城三階の団欒室にて。

 イグナシオとマーガレットの兄妹は、ゼファーの紹介で第一王子のフェルディナンドと第二王女のジルベルタと対面を果たしていた。


フェルディナンドが体調不良で婚約祝賀パーティに参加できなかったこともあり、王族兄弟六人とフランツィスカ兄妹だけの歓迎パーティが催された。


 淡いオレンジ色の明るく美しい髪をひとつに束ねている穏やかな青年が、第一王子のフェルディナンド。年齢は十八歳だ。


 そしてエドワード国王に似た灰色の髪色の、ボブショートの長身細身の美しい女性がジルベルタ。ゼファーよりひとつ年上の十七歳だ。

 二人はエレオノーラ王妃の御子である。


 フェルディナンドとジルベルタ以外はよく見知った顔で、アヴェルやルナリア、シャルロッテは少し離れて挨拶を見守っている。


 王族の証である紫色の瞳・六人分の眼差しがマーガレットとイグナシオに注がれ、その稀有な重圧に二人は息を呑む。

 圧巻されながらも何とか気を取り直したイグナシオは胸に手を置き、フェルディナンドとジルベルタに向かって侯爵令息らしい丁寧な儀礼をした。


「フェルディナンド第一王子殿下、ジルベルタ第二王女殿下。改めて、敬意を込めてご挨拶を申し上げます。私はフランツィスカ侯爵家長男、イグナシオオラシオ・フランツィスカと申します。お二人とお会いできて誠に光栄です」


 イグナシオに続き、マーガレットも美しい儀礼(カーテシー)を披露する。


「私はフランツィスカ侯爵家長女のマーガレット・フランツィスカと申します。このような素敵な歓迎パーティにお招きいただいて、王族の皆様方に感謝致します」


 自分たちより年下の二人の完璧な挨拶に、フェルディナンドとジルベルタは目を丸くして顔を見合わせた。

 それからフェルディナンドは淡いオレンジ色の髪をなびかせて、優しく語りかける。


「そうかしこまらないでくれ。えっと、イグナシオ君とマーガレット嬢と呼んでもいいかな。二人のことはいつもルナリアから聞いていたから、僕からすると、もう知り合いみたいなものなんだ。

だから今みたいに他人行儀にされると、正直淋しい。

ここは兄弟しかいない身内の場だし、弟妹(ていまい)の婚約者になったイグナシオ君とマーガレット嬢はもう身内も同然。もっと気楽に話して親睦を深めていかないかい?」

「は、はいっ」


 わかりやすく安堵の返事をしたイグナシオは、肩を撫で下ろした。

 この日のために、家宰のジョージから一週間かけて礼儀作法をきっちりと叩き込まれたのだが、それでも今日一日、恭しい令息でいるのはイグナシオには荷が重かったようだ。


 そのやり取りを見ていたジルベルタは、にやりと口角を上げて悪戯な笑みを浮かべる。


「ふふ。寛大な王子みたいに言ってるけど、フェルお兄様はただ楽に話したいだけでしょ」

「あはは、バレたか。ジルベルタの言うとおり、僕は堅苦しいのが苦手でね。

そういうことだから、イグナシオ君とマーガレット嬢ももっと気楽に話してくれ。

あ、それと……隣国に嫁いだ僕たちの一番上の姉のロアナからも、よろしくと伝えてほしいって頼まれていたんだ」


 フェルディナンドの言葉に、マーガレットは可憐な微笑みとともに一礼し、澄んだ声で返す。


「まあ、こちらから挨拶申し上げなければならないのに、お気遣いに感謝します。えっと、こちらからの挨拶は手紙をお送りすればよろしいでしょうか?」


 確かロアナ第一王女殿下が嫁いだのは、サウス・ユリオプスというローゼンブルクの北に位置する隣国だったはず。

 外国との親交に厳しい国だと聞いたけど、手紙を送っても大丈夫かしら。


 マーガレットが首を傾げていると、フェルディナンドが穏やかな声でそっと返答する。


「それなら僕も手紙を書く予定があるし、国からの便で一緒に送ってしまおうか。今度持って来てくれるかい?」

「はい、そうさせていただきます」

「よし。じゃあ、堅苦しいのはここまでにして、そろそろ楽しい歓迎パーティといこう。さあ皆、席に着いて」


 団欒室には沢山のお菓子が置かれた大きなテーブルを中心に、三人くらいなら余裕で座れそうなソファが三つ並んでいる。


 一つ目のソファはマーガレットを中心にして、マーガレットしか眼中にないゼファーと、眉間にシワを寄せたままマーガレットの隣を陣取ったアヴェルの一組。


 二つ目はイグナシオを真ん中にして、イグナシオの腕にぴったりとくっついているルナリアと、何か企んでいそうなジルベルタの一組。


 そして三つ目のソファには、もうすでに疲れ気味のフェルディナンドと、テーブルのお菓子に釘付けのシャルロッテの一組がそれぞれ座った。


 皆が座ると同時に、すぐにメイドたちがテキパキとお茶の支度を始める。

 ティーカップが皆に行き渡ると、フェルディナンドがティーカップを持ち上げた。


「それじゃあ、僭越ながら僕が乾杯の音頭をとらせてもらうよ。

みんな、ティーカップを持ってね。知った顔も多いだろうけど、僕たちは二人を迎えることができてとても嬉しい……たぶんこれから色々とあるだろうけど、味方でも敵だったとしてもよろしくね」

「ちょっと! それだと幸先が不安だわ。フェルお兄様、余計なこと言わないで早く進めて」

「ハハハ。それじゃあ、イグナシオ君とマーガレット嬢との末長い親交を願って、乾杯!」

「「かんぱーい」」


 歓迎パーティは和やかなムードで始まった。


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