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第28話 ピンチ

天空城のエアインのリポップは10分未満。

倒してから、最大10分以内に再度出現する仕様だ。


そしてその際のわき範囲は、このクッソ広い広場の何処かな訳だが……


「まさか真後ろにリポップ……嘘だろ!?」


ほぼ即わき。

しかも真後ろ。

普通に考えれば、それを引き当てるのは超が付くレベルの低確率である。

だが現実問題、エアインは俺の真後ろに沸いてしまった。


「きゅおうん!」


「くっ!?」


俺は咄嗟に腕を頭上に掲げ、上から降って来たエアインの拳を辛うじてガードした。


レベルが上がったお陰か、先ほどまでの戦いに比べれば受けるのは楽だ。

だがさっきの戦いで、俺は100%近くHPが奪われしまっている――指輪の回復は3割の時点で使用。

残りのHPは約7割程。

指輪の全快復効果が次に使えるのは、1時間ほど先である。

つまりこいつ相手には使えない。


レベルが上がった事を考慮しても、この状態で戦うのは少々無謀だ。

此処は瓶で戦意を消してから――


「――っ!?ついてなさすぎだろ!!」


防いだエアインの腕から、急に圧が消える。

不自然なまでの脱力。


――デバフの発動だ。


泉の水で戦意を消せるのは、此方から攻撃していない場合に限られている。

言うまでもないだろうが、デバフは攻撃に相当する。

例えそれが意図していなかろうが、発生したならそれは攻撃なのだ。

つまり、もうこいつの攻撃欲求を消す事は出来ない。


ちっ、やるしかねぇか……


逃げるという選択肢はない

デバフの効果による行動の空白など、所詮は極短時間。

その程度の隙で、速度で勝るエアインから逃げ切など不可能だ。

それどころか下手に引っ張り回せば、他の魔物まで釣ってしまうかもしれない。


そう考えると、戦う以外の選択肢はなかった。


「くそっ!デビルクラッシュ!!」


俺は相手が元に戻る前にスキルを叩き込む。

そして素早く防御の姿勢を取った。


……まったくついてねぇぜ。


「きゅうあう!」


エアインがお返しとばかりに、拳を叩き込んで来た。

俺はそれを盾で受け止める。


回復魔法さえ使えりゃ楽なんだが……


魔法を使わないのには、理由があった。


まず第一に、魔法の詠唱中は、そこに大きく意識を裂かなければならないからだ。

当然その間は、動きが鈍く雑になる。

格下相手なら回避しながらでも問題ないが、一撃喰らったらあの世行きの状況下でそれをするのは余りにもリスクが高い。


次に貫通ダメージだ。

ジャスティスヒーローと言うゲームは、敵からダメージを喰らうと魔法が中断される仕様となっている。

それはこの世界でも同じ。

盾を貫いて受ける貫通ダメージのせいで、俺の魔法は攻撃される度中断されてしまうのだ。


「スタン時間がもう少し長けりゃな……」


スタン時間は2秒程。

そんな短時間で詠唱は完了できないので、攻撃チャンスを潰して回復するという選択もない。


回復も見込めるデビルハンドで、攻撃しながら回復してはどうか?


それも選択肢としては無しだ。

エアインは見た目に反して防御力が糞高い。

新しく手に入れた武器だからこそ、レベル差があっても真面にダメージが通っているのだ。


なので、デビルハンドを使っても全くダメージが出ず。

そうなれば当然その回復も、限りなく0に近い物となってしまう。


なのでやるだけ無駄所か、リスクが増えるだけとなる。

貴重な攻撃チャンスを棒に振る訳だからな。

後、言うまでもないといは思うが、エアインに付属効果の毒や麻痺は効かない。


結局、俺はさっきと同じ方法で地道に戦うしかないのだが――


「くっ……」


先程の戦いもそうだったが、今回も盾防御によるスタンの発動が宜しくない。

貫通ダメージでHPがじりじり削られていっているのに、中々攻撃チャンスが巡って来ず焦る。


やばいぞ……


今のペースだと、こっちのHPが削り切られてしまう。

確率は収束するなんて言われているが、しなかったらこのままあの世行だ。

良く分からない文言を信じて、のん気に命を賭ける気にはなれない。


攻撃を盾で受けながら、まず俺はステータスを確認する。

レベルアップした事で、何か有用な魔法やスキルが増えているかもしれないと考えたからだ。

まあ魔法は詠唱妨害の都合で、初めから期待はしていないが。


「ちっ……」


確認して俺は舌打ちする。

残念ながら、期待している様な物は増えていなかった。


なので諦め、天に祈りつつ――


なんて選択肢はない。

命がかかっているのに、何の対策もしないなどありえない。


――この状況で選べる手は2つ。


一つは、ハイパージャンプからのコンボだ。

これならダメージを伸ばす事が出来るので、倒すまでに必要となる手数を大きく圧縮する事が出来る。


だが、このコンボには大きな欠点があった。

大きくジャンプしてから落下しつつ攻撃するため、当然、普通に攻撃するよりも時間がかかってしまうのだ。

スタンの持続時間はかなり短い。

そのため、この攻撃が入るかどうかは結構ギリギリのタイミングになってしまう。


もし躱されたら。

いや、躱されるだけならいい。

最悪、カウンターが飛んでくる可能性すらもある。


そう考えると、危険な賭けと言わざる得ないだろう。


そしてもう一つが――剣を使う事だ。


守護者の剣の方にも、斧と同じ様に専用の攻撃スキルが搭載されている。

かなり高威力で、それを使えば相当ダメージを稼げるだろう。


更に付け加えるなら、エヴァン・ゲリュオンは斧より剣を扱う方が得意だ。

超が付く程器用な男なので、剣は左手でも問題なく扱え、スキルで与えるダメージは此方の方が確実に上になる。


当然こっちにもリスクはある。

無いなら、最初っから使ってるしな。


リスクは、使うと気分が悪くなる点だ。

戦闘中に気分が悪くなれば、当然その動きは鈍る。

それにそんな状態で戦えば、精神的負荷も大きくなるだろう。


その2択。


選ぶのは――


天空破斬(スカイバスター)!」


――当然剣だ。


コンボが上手く行くかどうかは5分5分。

それに対して剣の方は、自分が根性さえ見せればどうにでもなる範囲だ。

なら迷う必要すらないだろう。


「きゅううぅぅ」


俺が左手で――剣で放った一撃がエアインを切り裂く。

同時に俺に襲い掛かる、不快感。

吐きそうになるが、俺はその感覚を歯を食い縛って抑え込む。


死んでたまるか!

ボケ!


幸い、防御中は不快感の追加はない。

あくまでも攻撃時のみに発生する物だ。

俺は敵の攻撃を受け止めながら、少ないチャンスで可能な限り効率よくエアインにダメージを通していく。


「くっ……」


天空城に来た時には考えもしなかった、厳しい戦い。


疲労。

ダメージ蓄積による体の痛み。

剣を振るう度に襲う不快感。

それらに耐え、歯を食い縛って俺は戦う。


――そしてやって来た終わりの時。


「これで……終わりだ!!天空破斬(スカイバスター)


俺の左手にある盾から延びる、守護者の剣の刃がエアインを切り裂く。


「やったぞ……この不細工化け物が、ざまぁみろ」


消滅するエアインに、俺は口汚い言葉を吐きかける。

元々品の有るタイプではないというのもあったが、この時ばかりはそう罵らずにはいられなかった。

それぐらい苦労させられたのだ。


自身の不運に。


「はぁ……やばかった……」


HPを確認すると、1割を切っていた。

冗談抜きで死ぬ寸前である。


普通に考えて、生命力残り1割の状態じゃ人間は真面に動く事さえも出来ないだろう。

痛いどころではない筈。

それでも俺が戦えたのは、HPがゲーム仕様だからだと思われる。

正にゲーム世界万歳だ。


いやまあ、ゲーム仕様のリポップでえらい目にあったから万歳って事はない気もするが。


「流石に……また直ぐ傍でリポップはもうないだろう。体中痛いし……回復を……」


回復。

そう思い魔法を唱えようとした瞬間、視界がぐにゃりと歪む。


次の瞬間、自分の居場所が――


「え……」


明るい天空城の広場から、暗くじめじめした洞窟の様な場所へと変わってしまう。


「なんだ?何が起こった?どうしてこんな場所に俺はいるんだ」


突然起こった意味不明の現象。

俺は戸惑いつつも、周囲を見回す。


そこは洞窟の広い空間。

壁際には、何か色々と荷物や木箱が置かれていた。


何処かで見た事がある様な……


この場所を、俺は知っている気がした。

だが、それが咄嗟に出て来ない。


「ん?」


その時、足音――いや、どちらかと言えば走る音か――が聞こえて来る。

音はこの広い空間に繋がる、薄暗い通路から響いていた。


やがてそこから人影が飛び出してくる。


整った顔立ちをした、金髪に赤い目をした青年。

俺は急に現れたそいつの事を知っていた。


そう、なぜならその男は――


「ついに、ついに見つけたぞ……エヴァン・ゲリュオン!!」


――『ジャスティスヒーロー』の主人公だからだ。


主人公であるレイヤが、怒りと憎しみを込めた眼差しを俺へと向ける。

そして彼に続き、9人の人間が通路から姿を現した。


9人とも見た事のある顔だ。

それもそのはず。

彼らは全員、レイヤの仲間であり『ジャスティスヒーロー』の主要登場人物達なのだから。


ああ、どこかで見た場所だと思ったらここは……


思い出す。

そう、今いる場所は。

ここは、エヴァン・ゲリュオンがゲーム内でレイヤと戦う場所だった。


「姉さんの仇を……ここで取らせて貰う!!」


レイヤが剣を抜き、俺へと向ける。

その光景を呆然と眺めながら、俺の頭にはこんな言葉が浮かんだ。


【強制イベント】


と。

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