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第17話 勧誘

ザコッパに連れられ、ゲヘンのボス――デブラー・ゲヘンのデカい屋敷へと到着する。

内装や警備の配置はゲームと全く同じで、特に見どころはない。


「おつれしやした」


「入れ」


――デブラーの、会議室レベルに広い執務室。


その最奥。

規格外のサイズをした木製の執務机に、でっぷりとした肥え太った体の大男が座っている。

このデブこそ、ゲヘンのボスであるデブラーだ。


「よく来てくれた、エヴァン・ゲリュオン。歓迎するぞ」


奴は豚みたいなイボだらけの顔を歪ませ、笑顔で俺に語りかけて来た。

許されるなら、この場でぶん殴りたい嫌悪感を抱かせる顔である。


「俺に用があるそうだな?」


「貴様!デブラー様に向かって何だその口の利き方は!!」


俺の言葉遣いに、執務机の横に立つ、厳つい顔をした筋肉まみれの男が激高する。


こいつの名はノーキン・ゴーリ。

この組織のナンバー2で、名前の通り腕っぷしだけが売りの脳筋である。

レベルは20なので、まあそこそこ強い。


因みに、デブラーは見た目こそあれだがレベルは25と高めで、組織一番の戦闘力を誇っていたりする。


「構わん。ゲリュオンは私が招待した、大事な客だからな」


「は、はい……」


デブラーに言われて素直に引き下がるが、明らかに不服そうだ。

俺の事を、親の仇の様に睨みつけて来る。


「部下が騒がしくて済まんな」


「問題ない」


デブラーは見た目からムカつく不快感を感じる以外は、終始穏やかな感じで接して来る。

まあこっちの弱みを握っているからこその余裕なのだろう。


「さて、話なんだが……聞いたよ、なんでもゲリュオン山賊団は壊滅したらしいな。一体誰にやられたんだ?」


殺した手下たちの遺体は、あのまま村に放置してきている。

俺以外の団員が死んだ事で、奴は山賊団が何者かによって壊滅させられたのだと思った様だ。

実際は俺が全員始末した訳だが、普通はそうは考えないだろう


ふむ……


俺は頭の中で、適当な話を構築する。

ゲリュオン山賊団の壊滅と、何故この街の浮浪児達に良くしてやっているのかを繋げる感じに。


その作り話で、俺にとってあの子達がそれ程重要でないと思わせるのだ。

人質としての価値は低い、と。


「俺が始末した」


「ほう……自らの手でか?」


「そうだ。命令に逆らって余計な事をしたからな。黙って従わない手足など、俺には必要ない」


邪魔だから部下達を自分の手で始末した。

普通なら顏を顰めそうな酷い話だが、デブラーは顔色一つ変えない。

まあ仮にも悪の組織のトップに立つ様な奴だからな、この程度では動揺しないだろう。


「成程、成程……浮浪児達に施しを行ってると聞いて不思議に思っていたのだが、これで納得いった。彼らを教育するつもりという訳か」


デブラーは見た目の割に、お頭のめぐりは悪くない。

まあそうでなければ、大きな組織のトップなんて務まらないだろうが。


奴は俺の言葉。

その中のに含めた『黙って従わない』という単語から、俺の用意した意図をちゃんとくみ取ってくれた様だ。


「ああ。恩を売り……幼い時点から俺が教育すれば、良い部下になるからな」


恩を売った浮浪児達を、自分に都合のいい部下に育て上げるという筋書き。

光源氏の、犯罪者バージョンだとでも思って貰えればいいだろう。


名付けて闇源氏計画!

俺はゲリュオン山賊団を新生させる!


と、相手に思わせるのが目的だ。


「まあ気持ちは分からんでもない。しかしそれだと、随分と時間がかかるんじゃないか?」


「まあそれは仕方がない。後々を考えての、投資の様な物だ。じっくり時間をかけて育て上げる」


「じっくり?そんな事は、我々悪党のする事じゃないだろう。そんな面倒な真似をするより、うちで働いた方が得だぞ。お前になら、それ相応のポストを用意してやってもいい」


デブラーがチラリと、横に立っているノーキンの方を見る。

どうやら組織に入れば、ナンバー2の座を俺にプレゼントしてくれる様だ。

とうのノーキンは、自分の降格を目の前で話されている事に気付いていない様だが。


「気持ちだけ貰っておく。生涯、誰かの下で頭を下げ続ける気はないからな」


もちろん、勧誘の答えはノーだ。


ゲーム世界に来てまで、悪党の下っ端なんかしたくないしな。

なにより、もうじきこの組織は主人公であるレイヤとその仲間達によって壊滅させられるのだ。


将来性0も良い所である。


「まあだが、団員を育てるのには何年かかかるからな。その間だけでいいのなら、ゲヘンの一員として働いても構わない」


「ふむ……正式な所属はしないが、此方の顔を立ててくれるという訳か」


「ああ。ゲヘンのお陰で、お尋ね者の俺もこの街で安心して暮らせる訳だからな。借りは返すさ」


もちろん、そんな事に一々恩義など微塵も感じてはいない。

こいつらは自分達のいいように環境をコントロールしるだけだからな。

そんな奴らに、感謝の念など不要である。


「うーむ……」


デブラーは右手をたるんだ顎にやり、左手で、今にもはち切れそうなお腹を撫でだした。

まあ多分考え事をしてるんだろうと思うが、動きによるビジュアルがひたすら気持ち悪い。


「出来れば本格的にうちに所属して欲しい所なのだが、まあ無理強いは出来んか。今はそれで満足するとしよう」


今はと言っている辺り、時間をかけて俺を取り込もうという腹づもりの様だ。

もっとも、そんな時間は彼らに残されてはいない。

主人公と言う名の破滅の足音は、直ぐ傍まで忍び寄っているからな。


まあそれは俺もな訳だが。


「昼食は済ませて来たかね」


「邪魔をされたが、一応な」


俺はチラリとザコッパの方を見た。

こいつが乱入してきたせいで、昼飯は殆ど口に出来ずに終わっている。


「ほうほう、そうか。なら、お昼のおやつをご馳走しよう。一緒に食べようじゃないか」


いい年して、何がお昼のおやつだ。

そんなんだからぶくぶく太るんだよ、デブが。


などとは思っても、もちろん態度には出さない。

とにかく今は、油断して貰った方が何かと都合がいいからな。


「頂こう」


「うむ、では準備を」


デブラーが命じると、周囲に控えていた手下達が俺用の大きなテーブルとソファを用意する。


「ゆっくりくつろいでくれ」


「ああ」


横のドアから、外で待機していたであろう給仕達が入って来る。

そして奴のデカい机と俺の座ったテーブルは、彼らの手によって見る間におやつで埋め尽くされていく。


多種多様なケーキや果物にゼリー類。

油で揚げたドーナツに、いかにも健康に悪そうなカラフルな色のドリンクがテーブルに並ぶ。


子供なら喜びそうな光景だが。

馬鹿みたいに大量に用意されたそれらを見て、俺は胸焼けに顔を顰めそうになる。


どう考えても、おやつの次元を超えてるんだが?

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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