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第13話 警戒

「あそこだよ」


ゴンザの案内で俺が連れて来られたのは、町はずれにあるかなり広めの空き地だ。

彼が指さす場所には、ボロボロの掘っ立て小屋がいくつか立っていた。

どうやらそこが、浮浪児達の寝泊まりするホームの様だ。


遠くから見た子供達の数は、ぱっと見十数人程と言ったところである。


「先にゴンザ達だけで行って貰った方が良かったか」


大人の俺が近づいて来る事に気付いた子供達が、蜘蛛の子を散らす様に掘っ立て小屋の中や影へと逃げ込んでしまう。

配慮が足りなかったせいで、驚かせてしまったみたいだ。


まあ見知らぬ大人が、自分達の塒に急に近づいてきたらそら怖いよな。

治安の悪い街だし。


ただ、全員が逃げ隠れした訳ではない。

子供達の中で一番体の大きな少年――13・4歳ぐらいだろう――が、逃げずに俺達の方へと向かって来る。

恐らく、彼がリーダーなのだろう。


「チャゴ」


「ゴンザ……それにカニカ。ひょっとして、病気が治ったのか?」


カニカは病み上がりだったが、もう大丈夫とここまで付いて来ている。


「うん。この人が治してくれたんだ」


「癒術師……なのか?そんな風には見えないけど」


チャゴと呼ばれた少年が、俺を胡散臭げに見つめる。

まあその気持ちは分からなくもない。


何せ長い牢獄生活と山賊家業で、見るからにいかつい荒くれ物って風体になってしまってるからな。

エヴァン・ゲリュオンは。

そんな奴に病気を治して貰ったと聞かされても、普通は『そうなんだ!』とはならんわな。


「俺の名はタロウ・ヤマダ。訳あって、人助けしてる暇人さ」


俺は笑顔で、陽気な感じに自己紹介した。


これで少しでも警戒が緩まってくれると有難いんだが……


飯を振る舞いに着たってのに、怖がらせて逃げられてしまっては台無しも良い所である。


「ほんとだよ!ヤマダさんのお陰で、アタシ病気が無くなったんだよ!」


渋い顔を続けるチャゴに、カニカが両手を広げてその場でくるっと回って元気アピールをしてみせた。


少し前まで死にかけていたとは思えない程の回復ぶりである。

道中の元気なカニカの様子を見て思っていた事だが、この世界の子供はタフだ。

厳しい環境で生きているだけあって、ひ弱な現代人とは訳が違う。


「誰に治して貰ったか、それを嘘つく理由もないだろうし……まあ本当なんだろうな。それで?どうしてそのヤマダって奴を、此処に連れて来たんだ?」


俺が病気を治したって話を信じても、チャゴの警戒は全く解けない。

むしろ何か裏があると思ってか、余計に強まった様にすら感じる。


……警戒心が強いな。


まあそれぐらいじゃないと、この街じゃ生きていけないって事なんだろう。


「実は君達に、食料を持って来た。食事状況が良くないってゴンザから聞いてね」


「俺達に食事……あんた、何が狙いだ?」


威嚇する様な問いに対して、俺は少し考える。

「俺は君達を救いたいんだ!」なんて嘘くさい言葉を吐いても、きっと警戒しているチャゴを納得させる事は出来ないだろう。

そして彼を納得させられなければ、他の子共達も俺の持って来た食料を口に入れない可能性は高い。


……一筋縄ではいかなさそうだ。


最初はゴンザ達と一緒なら、結構楽に気を許して貰えると考えていたのだが、少し考えが甘かった様である。

この様子では、正攻法で頑張っても食事を摂らせるのは難しいかもしれない。


しょうがないな。

こうなったら、ちょっと強引に行くか。


あんまり褒められた方法ではないが……


「やれやれ……チャゴ、俺の事をよく見ててくれ。今から俺の力を見せるから」


「は?」


返事を待たず、俺は素早く動いて一瞬でチャゴの背後を取ってみせる。


「え!?」


余りに速すぎる動きに此方の姿を見失ったのか、チャゴが慌てた様におろおろする。

そんな彼の肩に手を置いて、俺は自分が背後にいる事を知らせてやった。


「後ろだよ」


「――っ!?」


振り返ったチャゴは驚きに目を大きく見開き、口をパクパクさせる。

その様は、まるで陸に打ち上げられた魚だ。


「今見て貰った通り、俺が君達に危害を与えるつもりなら……」


『簡単に皆殺しに出来る』


そう言おうとして、止める。

流石に殺すという言葉を入れるのは、刺激が強すぎると思ったからだ。


「30秒とかからず、此処の子供達を全員捕まえる事だって出来る。それをしない事が、君達に対して敵意がない事の証明と思って貰えれば助かるんだけど……」


「……」


チャゴは何かを考える様に、少し黙り込んだ。


治安の悪いこの街で生きていくには、警戒心は絶対に必要な物である。

だが、それよりももっと重要な事があった。


それは――


「分かった……いえ、分かりました」


――どうしようもない相手を敵に回さない事だ。


この街を取り仕切ってるゲヘンって組織や、貴族の都市長なんかを敵に回せば、ここの子供達ではどうしようもない事態になる。

彼らは生き延びるため、そういう相手に上手く立ち回らなければならない。


そしてさっきやったデモンストレーションによって、きっとその(ジャンル)に俺もランクインした事だろう。

つまり此方の希望を、チャゴは受け入れるしかないという訳だ。


「お気持ち、有難く頂きます」


チャゴの言葉遣いが敬語に変わり、彼は俺に向かって深く頭を下げる。


正直、子供に脅しを入れるのはどうかと思わなくもない。

だが彼らには、何の損もないどころか、寧ろ得しかないのだ。

腹いっぱい飯を食ったら、きっと許してくれるだろう。


気がかりなのはカルマ値だが……


確認した所、特にマイナスは増えていなかった。

つまりシステムも、これが悪事じゃないと認めてくれているという事だ。


「よし、じゃあ豪勢な夕食と行こうか」


俺は笑顔でマジックアイテム――腰の袋から、食べ物を取り出す。


さあ、カルマ値を稼がせて貰うとしよう。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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