第006話 流れつく川。あれは集落ですなぁ。
「………なんだかなぁ」
未だ降り続ける豪雨の中、俺のもやもやもまだ晴れねぇ。
そんな早く人の死に晴れた気分になられても困るが。
「あぁもう! いつまでもウジウジしてっと自分の偽善臭さに気が滅入りそうだぜ! やめやめ!」
かといって俺はあのエルフにとって赤の他人なんだよな。
赤の他人に「死んじゃったんだね、可哀そうだね」なんてずっと思われてたら俺ならキレるね。
そう思うと今は前を向いてただ自分が生きるため進むんだって気になってくる。
善し悪しとか議論するつもりもねぇ。
俺だって地球できっと死んだ扱いになってんだ、生きてりゃそういうこともあんだろって話だ。
「はーやめやめ。所詮水でしかない俺がなに一丁前に悩んでんだか。それよりも今はこの水の先だろ! 水幅も増してとうとう小川って感じだな……!」
暗い話はここまでにして、現在の状況を整理すっぞ。
今俺が進む小川は恐らく土砂崩れでできた流れ道に過ぎねぇと思う。
だから見つけれたのはただの運だし、しっかりした通り道じゃないならまた土砂で塞がることも全然あり得るってわけだ。
しかし!
既にこの水の大本には魚が生息するだけの大きな水場があることは確定してんだ。
少し地上を歩くことになっても、目指す価値は十分ある。
つらつらそんな考えを纏めながらも小川という線で繋がる水の通り道は俺の進行を止めるものなんて一切なく、どんどん進む。
多少岩や倒木で道が塞がれてても、水が通ってる限りは俺も通れる。
【水虫】の力があればな!
ほんと、最初はよく知りもせずがっかりしてごめんね?
小川は俺が向かう先とは真逆の方向に流れてるが、それも種族:水なら関係ない、どんどん行くぜ。
そうやってしばらく進むと次第に景色は変わっていき、森の樹高が段々と高くなっていった。
泉のあった場所と比べると、もう三倍はあるデカさだぞ……?
いったいどんな生態してんだか。
それに場所が変わったからか、この辺はもう豪雨というほどの雨量じゃねぇ。
木々の間隔も広くなってあれだな、あれ。
ファンタジーな世界に迷い込んだみたいだな。
いや実際迷い込んでるんだけどさ。
このまま行くともしやさっきのエルフの集落でもあるんじゃないか?
人が生きるには水がいる、つまり住処は必然水場の側だ。
俺がまだ見た人間がエルフしかいないからそう思うのかもしれねぇが、なにかいんだろ、こんな水場あったら。
「俺が受け入れられるかは別の問題だけどなぁ〜」
見た目は人間、中身は水、ちなみに今全裸です。
いや、水形態になるたび服脱いだり着たりするわけにもいかんでしょ……?
必要に駆られてってやつよ、俺だってナニ隠したいわ。
まぁ、基本は水に同化して進むのが無難かなぁ〜。
とかなんとかやってたら急にデカい水の中に入った。
これは大元に辿り着いたか?
あんま周囲見てなかったからちょっと顔出してみますかね……。
「失礼しまーす……」
なにがいるかわからないから慎重に慎重に。
どうやらここは流れる川の中のようだな。
小さな小川から大本に合流したと見てよさそうだ。
よく見りゃ周りには魚なんかがたくさんいるな、俺を喰うなら殺すぞ。
さて川に入ったということは俺には二つの選択肢がある。
上流に行くか、下流に行くかだ。
きっと下流に進めば海に出ることができるだろう。
そこまで行けば念願の異世界ライフ本格始動って感じか?
いいねぇそそるねぇ。
「よし、上流に行こう」
え、話が繋がらない?
いや俺は思ったんだよな、海って海じゃんって。
なにを当たり前のことをって思うかもしれねぇが、ここで俺が考えるのは【水性同化】の能力だ。
改めて【水性同化】の効果を確認しよう。
謎の声~。
『【水性同化】:今いる水の持つ特性などをそのまま自身の身体を構成する水に反映する』
はいありがとう。
これって同化とかいう名前ついてるわりにその効果は反映なんだよな。
つまり上書きじゃなくてインストール、って言えばいいのか。
一度反映した水の特性はその後【水性同化】使っても消えないんじゃないか?というのが俺の主張だ。
その辺どうなの、謎の声?
『是。反映した特性同士で影響を与え合うことはあっても、一度同化した事実が消えることはない』
やっぱりなっ!
影響を与え合うってとこも読み通りだ。
つまり今の俺の生命の水に新たに即死の水とかそういう特性のを取り込んだら、打ち消し合ったりしてただの水になるかもよとかそういうことだろ?
それを踏まえてだ。
海に行くのと池とか泉とか湖とかそういうとこに行くの、どっちが特殊な水性持ってそうだろうか?
海は一つの水として存在してるから、得られる水性もそう多くねぇと思うんだ。
けど池とか泉なら?
存在する全部がってことはねぇだろうが、たまには俺がいた生命の泉みたいな特殊極まる場所もあるんじゃねぇかと思う。
問題はそこにどうやって向かうかだが、無理なら無理で別にいいんだ。
今はただ下流に進むより、上流でなにかないか調べたい。
下流に進むのはその後からでも遅くはねぇだろ。
というわけで上流に向かって出発だー!
まぁもうとっくに進みだしてるんだけどね?
あのエルフがあそこにいた理由はわからねぇけど、水源があるなら人里もすぐ見つかるはず。
その考えに間違いはなく、樹高が30メートルは超えるんじゃないかという馬鹿でかい木々と共存するように並ぶ家屋を発見した。
木と一体になるように造られたその家屋には亡くなった彼女と同じエルフたちの姿も確認できる。
「俺は本当に異世界に来たんだな……」
今更だが、本当に今更だがこの光景を見てるとそれを強く実感するぜ。
強暴な魔物でもない、死したエルフでもない、確かな命の鼓動を感じるこの温かさ。
温もりがこれまでの冷たさを取り払って妙にじんと来た。
「さて、それじゃ異世界初の異文化交流を始めよっかな~………あ?」
目の前にエルフがいるのにただ見てるだけってのも虚しい。
そう思ってどう動くか考えてたのに……。
それを邪魔するように川の上流から近づいてくる魔物の気配を感じ取った。
「やだねぇ。異世界の川は呑気に水浴びもできそうにないってか……」
エルフの水浴びシーン、見たいのになぁ。
あの魔物、邪魔だなぁ。
初の水中戦、開幕ですなぁ。