第004話 泉の外へ。世界の中へ。
魔物狩りを始めてから更に数日。
俺の位階が10を超えた辺りから、上昇スピードが目に見えて遅くなっちまった。
これは獲得してる経験値的なのがこの辺の魔物じゃ釣り合わなくなったってことなのか?
このままここに留まるだけじゃこれ以上の成長は厳しいかもな……というのも。
名前:カイ・ミズキ
性別:オス
年齢:16
種族:水
位階:11
能力:【☆水虫】【生命転化】【命の雫】
【水性同化】
お気付きになられただろうか?
そう新たな能力【水性同化】……は、今はいいとして、【水虫】の横に☆マークがついたんだ。
これがなにか謎の声に聞いたところ。
『能力昇華条件一部達成済み。条件をすべて満たすと★マークとなり能力の昇華が可能となる』
ということだった。
え?
能力の昇華ってもう?
と、俺も思ったよ。
けどこの☆マークついたの位階が10になったときだったし、きっと条件の一部ってのは位階も含まれるんだろう。
そして位階による条件はもう達成してて、このまま地道に位階上げに精を出しても昇華する別の条件を達成できるかはわからない。
正直泉で待ち受ける狩り方もマンネリ化してて、位階上がっても大して能力増えなかったんだよな。
唯一増えた能力が【水性同化】で、これは【生命転化】を試しに泉の水にやろうと包み込んでたら獲得したらしい。
その内容がこちら。
『【水性同化】:今いる水の持つ特性などをそのまま自身の身体を構成する水に反映する』
これが手に入ってから早速使ったら、俺の身体の水はこの生命の泉の生命力溢れるものへと変化……いや同化した。
だからどうしたって話なんだがな。
俺自身が生命力溢れる水になったって、特に恩恵ないんよ。
他に生き物がいて初めて「ぼくの身体をお食べよ」ってアンパン千切る感じで役立つのであって、それだってやり過ぎると身体削れて「力がでない~」ってジャムなおじさんが来るが如く水を補給しないと俺の命に関わるわけで。
結論、使えねぇ……っていうか使いたくねぇ。
まぁ?
この先かわいい美少女エルフやケモミミ娘が出てきたらその限りでもないかもだけど?
少なくとも髭もじゃのおっさんに命張る気にはなれねぇなぁ。
話が逸れたが、要するに俺の行動も次のステップに進むべきなんじゃないかということだ。
次のステップ……泉の外に出る。
これをやるときが来たのかもしれねぇ。
地上では脆弱状態になって能力も使えないという話だが、我に秘策ありよ!
その秘策の答えとは、泉の底にあるっ!
「俺は水なんだから水脈にだって潜れるって寸法だ! くぅ~っ!」
そう、ここは池じゃなかった、泉であったのだ。
なら地面を流れる水脈が必ずあるはずなんだ。
そこを俺なら通ることができるんじゃないかってのが、俺の秘策よ!
俺は泉の地面目指して意気揚々と潜り進め、そして水脈に手を、水脈に手……手を……手を………。
『生命の泉:元は水溜まりであったものが星の力の結晶である星核珠を獲得したことでそこから生命力溢れる水が流れるようになった。元はただの水溜まりなので水脈など存在しない』
「それ早く言えってな?」
ぶーちーこーろーすーぞー。
思わずにっこり笑顔で謎の声に殺害予告してしまった。
そういう大事なことはもっと早く言えるようになってくれてもええんよ?
まぁ聞かれてないことあれこれ喋られても情報過多か。
しかしどうすっべこれ……。
俺の秘策初手で潰されたんだが?
ふて寝しよ……。
「ピチャピチャうるせぇ……」
池改め泉改め実は水溜まりだった水の底で不貞腐れてたら、頭上からピチャピチャと水面を叩く音が。
最近はやってきた魔物も攻撃性高そうじゃなければ見逃してやってるんだが、まさか味を占めやがったお調子者でも現れたか?
水を飲むとき音立てちゃいけませんってお母さんに習わなかったの!?
必殺水鉄砲で叱ってやろうかと水面に向け浮上する。
が、上まで来ても水を飲む影なんてものは見えず。
ていうか水面に広がるあの波紋、これってもしや、雨か?
「結構土砂降りだな……」
そりゃこの世界だって雨くらい降るか。
でもこの雨量、こんな森の中じゃどっかで土砂崩れでも起きてんじゃないのか?
やーねこわいこわい……俺は水の中で不貞腐れてよ……。
「…………」
雨、か……。
雨だって水だよな?
俺の能力制限って水の外じゃダメなんだよな?
じゃあ雨の中は?
小雨ならともかくこれだけ土砂降りなら……。
『種族:水が脆弱状態を脱し活動するには雨のような分離した水では不可能』
……そうか。
ま、そう上手くいくこともないってわけね。
あーあ、やっぱりふて寝してよっかな――
『――しかし、多量の雨水によって現在森には多数の水溜まりが出来ていると推測。ある程度の大きさのものならば種族:水の特性を発揮することも可能と思われる』
「………え?」
今謎の声、なんて言ったの?
まさかそんな、地面にできた水溜まりで種族としての力が使えるって?
いやでもそんな都合よく水溜まり同士がくっついてることもないだろうし……
「……いや。重要なのは今なら所々に俺が水になれるポイントが散らばってるってことだ。例え脆弱状態で地上を歩くことになっても、逃げ込む場所が確保できるのなら……」
あり、か?
もちろん危険は伴うが、本気で能力の昇華ないしこの世界の冒険を求めるならそれは避けて通れないことだ。
今振ってる雨は相当の豪雨で、恐らくしばらく止むことはないだろう。
加えて既にできた水溜まりは雨がやんでもすぐには消えない。
行くなら今だ。
この泉でできることはやった。
生命の泉特有の水も俺は獲得している。
また戻ってくるにしても来ないにしても、未練はない。
「行こう」
泉の外へ。
世界の中へ!