第001話 異世界転移の特典は水虫でした。ふざんけんな。
真夏の陽光が身体を突き刺す猛暑日、俺はアイスを片手に熱いアスファルトの上を歩いていた。
今は高校が夏休みで、こんな地球灼熱化が進む外を誰が出歩くもんかと心に決めていたのに、アイスが食いたくなった……。
コンビニはすぐ近くだからと出たのが早計だったかもしれん。
せめて玄関から出たときに引き返していればよかったか。
しかし目的のアイスはこの通り手に入れたのだ!
もう夏休み中外出しなくていいように、たんまりとアイスの入ったコンビニ袋を見て俺はほくそ笑む。
我が夏休み引きこもりライフ計画に狂いはないのだ。
帰ったら早速アイス食いながら読みかけの漫画でも読むかなぁと、そんな幸せな計画を立てていた。
このときまでは………
「危ないっ!」
「え?」
突如危険を叫ぶ男の声に何事かと振り返れば……バイクが猛スピードで突っ込んできていた。
は?
え?
なんで?
突然の非日常に頭はそんな意味のないことばかり考える。
だってここは通っても自転車に乗ったおばちゃんが一番危険な程度の道なのに……そんなことを思うばかりで微動だにしない身体は猛スピードのバイクと接触し、そのまま宙を舞う。
あー……まだ読めてない漫画、一杯あるのに……。
今月発売予定のゲームだって、俺あんまりゲームしないけど買おうと思ってたんだぞ。
広い海が舞台の新作ゲーム、やりたかったなー……。
身体が宙に舞う間は酷く時間が緩慢で、この夏の計画がボロボロと崩れていくのが幻視されるようだった。
いや実際、生き延びても死んじゃっても、夏の計画なんてもうおじゃんだった。
近づく陽炎の立ち昇るアスファルトを前に、最後に袋から散らばり出たアイスの群れが見える。
こんな猛暑でアイスも溶けちゃってらー………。
それを認めて勿体ないなと感じたところで、俺の身体は地面に叩きつけられた。
ザバァァァッ!!
(ん!? なに……水の中!?)
硬いアスファルトに叩きつけられて終わったかに思えた俺の人生だが、何故だか水の中で活動している件について。
いや、読んでた漫画の題名みたいなこと言ってないで、この状況を誰か説明してくれ!
俺は意味不明のバイクに撥ねられて死んだんじゃなかったのか……?
理解不能が続く中、とりあえず水面を目指して必死に泳いだ。
「ぷはぁっ……なんなんだいった、い……?」
水面から顔を出し、そこで俺が見た光景とは、辺り一面に広がる森、森、森。
どうやら俺がいるのはその中にある池のようだな……ってなんでやねんっ!?
「百歩譲ってあの事故で死ななかったにしても、目覚める場所絶対違うやろ……」
思わずまったく関係ない関西弁で突っ込むくらいにはびっくりした。
とりあえずこのまま池の中にいると寒いから地面に這い上がる。
這い上がってもこれからどうするか当てがあるわけないんだけど、一旦落ち着いて状況を整理しよう。
大丈夫、まだ焦る時間じゃないよ。
「いや焦るわ!? 意味不明すぎて焦って当然だわ!? 誰か説明してくれー……」
『異世界ナイアナイアにようこそ』
「ちょっと説明省きすぎちゃうん?」
藁にも縋る想いで説明求めたら頭に響く謎の声。
謎の声が謎の方法で謎の説明始めたからまたまったく関係ない関西弁がでてしまった。
あーびっくりした。
でもこれは理解した。
死んだと思ったら知らない場所、頭に響く謎の声、そして今気付いた怪我一つない健康な身体……ここまできたらわからない男子高校生じゃないよ、俺は。
これは、つまり……!!
『異世界ナイアナイアにようこそ』
「異世界転生ってことか……!!」
ちょっと頭に響く謎の声が大発見のありがたみ奪ってくるけど、つまりはそういうことだろ!
転生か転移か知らんが、俺も遂に異世界デビューかぁ~。
地球に残したマミー、パピー、妹……俺、異世界で元気にやっていきます。
探しても無駄なので探さないでください……ベッドの下も探さないでください……机の奥も探さないでください……絶対に探さないでください……。
「……くっ、遺言を残せなかったのが悔やまれる……!」
思い残すことはあれど、俺にはもうどうすることもできない。
俺は俺の人生を始めよう。
ならばまず異世界に来てやることはっ。
「ステータスオープン!」
『カイ・ミズキの生命図形を表示します』
『生命図形を未所持、作成します……』
『作成完了。生命図形に則った能力を神■■■■■より獲得しました』
『生命図形を表示します』
名前:カイ・ミズキ
性別:オス
年齢:16
種族:水
位階:1
能力:【水虫】
「おぉぉ、おおぉぉぉぉ……!」
なにやら俺のステータス呼びを謎の声にしれっと訂正された感じだが、それはいい。
この世界ではステータスじゃなくて生命図形っていうんだな……ってそれもいい。
ただ、表示された生命図形を見て一言言いたいことがある。
「能力【水虫】ってふざけんなぁぁぁっ!?」