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第11話 アフタヌーンティー

 ずらりと並んだ使用人たちに出迎えられ、その人数の多さにウルスラは馬車から降りたあとの最初の一歩を躊躇した。

 なぜならみんな、輝くような笑顔だったからだ。


 馬車の中で考えた「カタリナ嬢の恋敵だから、もしかしたら歓迎されないかもしれない」というのは全くの杞憂だったと、並んだ使用人たちの顔を見て思った。


 ほっこりと笑みを浮かべる彼らの背後に、舞い散る小花の幻が見える。

 ウルスラを歓迎していないことを隠して笑顔の仮面をかぶっているというわけではなく、どうやら本当に、心からウルスラの嫁入りを喜んでいるようだ。


 なんだか、覚悟していたことと全く展開が違うわ……?


 ウルスラは彼らの様子を見て本気で悩み始めた。


 彼らはレナードを慕ってバウアー伯爵家からついてきたという。

 古巣バウアー家のお嬢様であるカタリナと主人レナードの恋路を妨げたリヒャルトとウルスラのことは、そんな彼らにとって最も忌むべき存在なのではないのか。


 だからたとえば迎えがないとか、声をかけても一度目は無視されてしまうだとか……そういう小さな拒否はあるだろうと覚悟していたのだ。


 だけど実際は「ようこそいらっしゃいました」とか、「長旅でお疲れでしょう」とか「こんなハレの日になぜ旦那様はいらっしゃらないのか」「ほら旦那様だし」というウルスラへの歓迎と、なぜか主人であるレナードへの若干冷たさを感じる言葉しか聞こえてこない。


 案内された部屋は落ち着いた色の家具と壁紙で整えられた日当たりの良い部屋で、もちろん掃除も完璧だった。

 窓ガラスは鳥が素通しだと思って突撃しかねないほど磨き上げられていたし、部屋のなかはウルスラが到着する前から暖炉に火がくべられ温かい。


 そのぬくもりはウルスラを歓迎してくれた使用人たちの声によく似ていて、またしても部屋の中にほわほわと花が浮いている幻を見てしまう。

 幻覚が見えたことに目をぱちぱちさせたウルスラは、ハンナに促されるまま旅装を解き、用意されていた服に着替えた。


 そして到着を優先させたせいで昼食を食べられなかったウルスラは、美しいガーデンを見ながらアフタヌーンティーを楽しむことになる。


 サンドイッチの具はキュウリではなく、レタスとチーズとハムだった。

 ほろほろと崩れてくちどけが良いスコーンにはたっぷりのクロテッドクリーム。ジャムは丸ごと果実が入ったブルーベリー。


 レモンピールの入ったパウンドケーキはしっとりとした素朴な味で、レモンの爽やかな香りを頼りに甘さを探して食べていたらあっという間になくなってしまった。

 花の香りが穏やかな紅茶はゆったりと湯気がたっていて、ガーデンからの日差しのなかへキラキラしながら溶けていく。


 ガーデンには葉が落ちた木の枝の赤褐色が空の青さを引き立たせて、その足元には白いスカートをはいた妖精のような可憐さのスノードロップが咲き誇っている。

 白桃のような色合いの無害な鳥の魔物が木に設えた木箱を揺らし、時折植物の種をつまんでぽいっと地面に落とす。好みがあるらしい。


 その鳥の冠羽越し、遠くの方の空に見えるのはダンジョンから天へと漏れ出る魔力の揺らぎで、上空で風が吹くたび虹ができては消えていく。


 王都にいてはなかなか見られない風景とおいしいアフタヌーンティーの威力は絶大で、ウルスラの肩に入っていた力は自然と抜けた。

 そしてアフタヌーンティーの余韻をたっぷり楽しんだあと、屋敷の主な部屋を案内するというハンナに従ってウルスラは立ち上がった。


 物語の中の意地悪な使用人のように、彼女たちがウルスラを犬小屋に追い払いたいと思っているなどとはもう思っていない。

 己の不明を恥じつつ親切な彼女たちの眼差しから温かさだけを受け取りながら、ハンナの後をついていった。


 「こちらが奥様のお部屋になります」


 そう恭しいお辞儀とともに案内された部屋は、家具どころかカーテンも壁紙すらない、がらんどうの部屋だった。


 安心させておいてからの大衆恋愛小説王道パターンきた⁈ と、ウルスラは胸がギュンッと締め付けられるのを感じた。

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