八.ずっと貴女を愛していた ―5
……それから、どれほどの時間、互いに抱きしめ合い、夢中になって口づけていただろうか。
「……はぁっ……、は……」
毎度のことながら、梔子は息が上がっていた。
泣きながらキスをし続けていたから、余計かもしれない。
けれど、それだけではなく――
「ん、……っ!」
再びちゅっと舌を吸われる。
喉の奥から甘やかな声が漏れ出るのを、どうしても堪えることができなかった。
ゆっくりと優しく、紅月は梔子の舌に自分の舌を絡めてくる。
どうやらもう、どんなふうに舌を絡め、どこを触れれば梔子がより強く反応するのか、彼にはすでに見破られてしまっているらしい。
舌の裏、特に柔らかく弱いところを立て続けに刺激されると、一瞬、梔子の目の前は真っ白に染まった。
「……っ、ん……んっ、あぁ……っ」
「……貴女は本当に……、いつもそうやって、可愛い声を聞かせてくれるね。苦しくはないかい、梔子」
答えることなんてできない。
そんな余裕は、梔子にはなかった。
……あまりにも、気持ちがよすぎて。
その代わりに梔子は、まだ慣れないながらも紅月を真似て、懸命に舌を動かすことで、彼に答えようとした。
もっとも、そんな頑張りはすぐに優しく窘められてしまうのだけれど。
「梔子。無理はしなくていいんだ。私に任せて。貴女はただ、苦しくなったら伝えてくれるだけでいいから」
そう言って、紅月は角度を変えて、再び梔子に口づけてくれた。
彼の口づけは甘く、深く、時に意識が飛びかけるほどの激しさを帯びる。
それなのに、時おり梔子の髪やうなじを撫でる手は、驚くほどに優しかった。
これ以上、彼に愛されてしまったら。
「梔子……」
「……っ、ん、んん……は、ぁ……っ!」
もう、身体の芯から蕩かされてしまう――
……やがて、どちらからともなく、唇を離す時がきた。
(こんな顔では……人前に出られないわ)
診察がもう終わっている以上、いつまでも病院に居続けるのはよくないだろう。
けれど、乱れきった呼吸が落ち着き、肌のほてりが収まるまでは、しばらく待たなければならなかった。
そのうちに、ふと、梔子の胸にはある思いがよぎる。
(……紅月さまは、どうしてこんなにも、お上手なのかしら)
紅月は口づけで梔子を愛するのが本当に上手だった。
彼にひとたび口づけられると、梔子は熱に溺れるようにうっとりとなってしまい、自力で立てなくなる寸前まで身も心も蕩かされてしまうのだ。
……もしかしたら。
(紅月さまは、巴里で、他の女の人ともキスを……)
考えれば考えるほど、そうとしか思えなくなってきた。
そうでなければ、彼がこんなにキスが上手な理由が、他には思いつかないのだ。
ちく、と針先で突かれたように胸が痛む。
馬鹿なことだとわかっているのに、彼が他の娘に口づけるさまを想像せずにいられなかった。
「……梔子?」
「な、何でもございません」
紅月はやはり、細かいことにも気がついてしまう人だった。
気づかれませんようにと願っていたのに、彼は梔子が暗い顔をしたことにたちまち気づいてしまう。
梔子の頬に手を添えて、彼は俯きがちの梔子の顔をまっすぐに覗き込んできた。
「何もないなら、そんな顔はしないはずだよ。なぜそんなに悲しそうな顔をしているのかな」
「…………」
「……梔子」
ちゅ、と小さく音を立てて、紅月はまた優しく甘いキスをくれた。
けれど今はその甘さが、梔子を余計に苦しくさせた。
梔子がますます顔を曇らせたのを見て、なぜか紅月もつらそうな表情を浮かべる。
「もしや……私とキスするのが嫌だったのかい?」
「……!? いいえ! それは、絶対に違います……!」
打ち明けるのは、とても恥ずかしかった。
それに、素直に言えば、嫉妬深い女だと紅月に呆れられてしまうかもしれない。
それでも、彼が口にしたありえない誤解を、そのままにしておくのは絶対に嫌だった。
だから梔子は、なけなしの勇気を振り絞って口を開く。
「……ないかと、思ったのです」
「え……?」
「きっと、紅月さまは、私ではない……他の女性の方とも、キスをされてきたのではないかと……。だって、あなたは、いつもとても……お上手だから」
「…………」
その瞬間、二人の間に横たわったのは沈黙だった。
紅月は相当に呆気に取られたのか、目を見開き、言葉もなく梔子を見つめたままだった。
けれどやがて、彼の頬がゆっくりと赤く染まっていく。
まもなく、紅月は少し顔を背けながら、照れくさそうに尋ねてきた。




