八.ずっと貴女を愛していた ―1
翌日、朝食を終えた後。
梔子の病室を訪ねてきたのは、この病院で働いているらしい看護師だった。
「おはようございます、梔子さん。今日はこれから検査を受けてもらうことになるのだけど、聞いていたかしら?」
「はい。準備はできています。どうぞよろしくお願いします」
事前に渡されていた検査着に着替え、もうすでに支度はできていた。
梔子が検査を終える間、紅月は別室で待つことになっているらしく、しばらく彼とは離れることになる。
「それでは、行ってまいります。紅月さま」
「ああ。また後で落ち合おう」
それから梔子は、大きな機械がいくつも置いてある部屋へと通された。
そこで待っていた人物に気づき、はっとして頭を下げた。
「先生。昨日はありがとうございました。私を助けていただいて」
「いや、礼には及ばないよ、梔子さん。偶然通りかかることができてよかった」
顔を上げると、梔子の恩人――倉岡尚史という名のその医者は、穏やかに微笑んで梔子を見ていた。
(この方がいらっしゃったおかげで、私はすぐに病院で診てもらうことができた……)
白衣に身を包んだその医者は、年の頃は五十代の半ばほどだろうか。
紅月が昨晩、尚史を指折りの名医だと言っていたのを思い出す。
改めて会って話してみただけで、紅月の話が事実に違いないことはよくわかった。
……雰囲気が、違う。
尚史にはなぜだか、周囲の人間を安心させる、まるで地にどっしりと根を下ろした大樹のような存在感があったのだ。
「さて。検査をする前に、いくつか確かめさせてもらいたい。まず、今朝の体調について聞こう。昨日と比べてどうだろう?」
それから梔子は、いくつかの質問を受けた。
今日の体調から始まって、持病があるかどうかや、倒れる直前の詳しい症状について。
船を見た直後に突然激しい頭痛に見舞われたことを話すと、尚史はそこで少し考え込むような顔をしてから尋ねてきた。
「ふむ、そうか。ならば、本当に前触れもなく、突然だったということかな。それまでは特に何の症状もなかったと」
「はい。突然でした。その前に頭を打っていたわけでもなく……」
「ふむ……」
梔子の話を手元の診療録に記しながら、尚史は思案を続けているようだった。
やがて、ひと通り記録が終わったのか、尚史は万年筆を置いて梔子に向き直る。




