表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/161

三.安らぎと決意 ―7


車を駐めて屋敷の玄関に戻ると、先ほどの使用人がすでに待っていた。


案内されて屋敷へと入る。


外装から予想していたとおり、屋敷の中に踏み入った途端、目の前に広がったのは壮麗な風景だった。


卓や椅子、花瓶など、目につく調度類はどれも舶来品(はくらいひん)とわかる高価なものばかりだ。


華やかなシャンデリアが目立つ大広間を通り、赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれた階段へ。


玻璃窓から夏日が注ぐ廊下を進み、応接間に通されると、そこには見覚えのある男が待ち受けていた。


洋装をまとった男――静貴は、梔子の姿を見るなりソファから立ち上がった。

はっと目を見開いたのもつかの間、彼はすぐに気まずそうな表情をして口を開く。


「まさかとは思っていたが、本当に……。だが、いったいどうして」


いよいよだ。

心臓が重く鼓動をくり返す。


(恐がっていては、だめ)


そんな時、思い出したのは紅月のくれた言葉だった。


――大丈夫だよ。貴女は身も心も美しい人だ。

――私を信じて。梔子。


もう、梔子は一人ではなかった。

隣には紅月もいてくれる。


だから、きっと。


「ご無沙汰しております。本日は静貴さまにお()び申し上げたく、伺わせていただきました」

「お詫び……?」

「先日、私は静貴さまに名乗りもせず、大変失礼な振る舞いをしてしまいました。ご不快な思いをさせてしまったと思います。あれからずっと、お詫びをしたくて……。誠に申し訳ございませんでした」


深々と腰を折り、許しを請う。

頭上で静貴が息を呑む音がする。

伝わってきたのは、狼狽の空気だった。


「な、何を言っているのだね、きみは。とにかく、早く頭を上げてくれないか」


こわごわと顔を上げれば、静貴はひどく動揺した様子で梔子を見つめていた。

しばらく何かを言いたげに口を動かすが、やがて梔子のそばに立っていた紅月に目を向ける。


「紅月。まったく理解できないのだが、なぜ僕は彼女から謝罪を受けているんだ? きみが彼女に何か言ったのか?」

「まさか。そんなはずないだろう。そもそも私は彼女をお前と会わせることすら反対だったし、お前に謝る必要など微塵(みじん)もないと言ったんだ。それでも彼女はお前に謝りたいと言って、わざわざここまで出向いてくれたんだよ」

「その……梔子さん。紅月の言っていることは本当なのか?」

「……はい」


梔子が頷くと、静貴はつかの間、虚をつかれたような顔をした。

けれどまもなく、苦しげに顔を歪めて彼は言う。


「……梔子さん。ひと月前、きみにした振る舞いがどれだけ最低なものだったかは、僕自身が一番よくわかっている。紅月の言うとおりだ。謝罪するべきだったのはきみではなく、どう考えても僕の方だ。僕はきみをひどく侮辱し傷つける、許しがたい発言をしたのだから。どうか、僕にも謝らせてくれ。本当に申し訳なかった」

「い、いえっ……、そんな……!」


深く頭を下げてくる静貴に、梔子は慌てて声を張り上げた。


「静貴さま……、どうか……どうか頭を上げてください……!」


よく思い返してみれば、静貴が口にした言葉など、まるで大したことはないものだ。


(化け物と言われたことなんて、数え切れないくらいだもの)


八條家にいた頃の方が、よほどひどい言葉を日常的に浴びせられ続けてきた。


梔子は嘲られるのに慣れているし、静貴にほんの一言、二言侮辱されたところで、今さらひどく傷つくようなこともない。


やっと頭を上げてもなお、すまなそうに眉をしかめている静貴に、梔子は必死に言葉を重ねた。


「よいのです。私は、こんな髪色をしていますから……いろいろなことを言われるのは、仕方のないことだと思っています。静貴さまに侮辱されたなんて、思っていません。ですから、どうか……もうこれ以上は、お気になさらないでください」

「梔子さん、それは……」


静貴は何かを言いかけたが、途中で思い直したらしい。

小さく息をついてから、彼はソファを一瞥(いちべつ)して言った。


「……いや、いつまでも立ち話を続けていてはいけないな。茶を持ってこさせよう。せっかく二人で来てくれたのだから、時間があるのならゆっくりしていってくれたまえよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ