十四.ここにいて ―1
いつも帝都を歩く時は、紅月は車を静貴のいる藤川邸に停めさせてもらっていた。
傷の痛みを堪えながらようやく屋敷にたどり着くと、現れた静貴は血相を変えて走り寄ってきた。
「紅月、きみはいったい、どうしたというのだね! 腹から、血が……」
「見ての通りだよ。さっき、往来で刺された」
「刺された……!? な、何が何だかわからんが、とにかく医者だ! きみ、今すぐに医者を呼んでくれたまえ!」
静貴は近くにいた使用人に命じ、すぐさま医者と連絡を取ってくれた。
ひとまずできる限り出血を防ぐようにと指示され、渡された布を使って、外套の上から強く傷口を押さえる。
脈打つような痛みは強まるばかりだ。
だが紅月は、自分の傷の痛みなどより梔子のことが心配でならなかった。
「紅月さま……!」
梔子は今にも倒れそうなほど蒼白な顔をしていた。
当たり前だ。
彼女は、紅月が刺されるところを目の当たりにしてしまったのだ。
……一刻も早く、彼女を安心させなければ。
ただ、それだけしか考えられなかった。
「……梔子。大丈夫だよ。見た目ほど大した傷ではないから、安心して」
「でも……でも、そんなに血が……!」
「梔子」
傷口を押さえていない方の手で、そっと梔子の頬を撫でる。
それから、彼女の手に触れた。
冷え切った手は、恐怖のためか小刻みに震えている。
「……大丈夫。何も、心配する必要はない」
「…………っ」
梔子はもう、何も言わなかった。
ただ、彼女は医者が到着するまで、ずっと紅月のそばに寄り添っていてくれた。
それからすぐに医者が来て、紅月は別室で治療を受けることになった。
「静貴。治療が終わるまでの間……彼女のことを頼む」
「むろんわかっている。何も案じることはない。きみは治療を受けることだけに専念していたまえ」
静貴に梔子を任せ、医者に促されて別室に入る。
幸いなことに、思った通り傷は浅かったようだ。
刺された時より、むしろ傷を縫われる時の方が痛みが強かったほどだった。
「失礼する。紅月の怪我は……」
静貴が部屋を訪れてきたのは、ひととおり傷口を縫い終わり、包帯を巻いてもらっている最中のことだった。
「心配は要りませんよ。三、四日もすればだいたい傷は塞がるでしょう。一週間後に抜糸をしますから、病院に来てください」
そう言って、医者は頓服薬や代えの包帯を置いて帰っていった。
医者が去っていくやいなや、静貴は待ちかねていたように紅月に尋ねてきた。