前世女神だった私は一方的な約束をした男神にザマァする
タイトルで言う程のザマァ描写はありません。すみません。
『愛しい君。何度産まれ変わり、何度息絶えようと私は君を愛しているよ』
馬鹿馬鹿しい。何度産まれ変わうと、もう二度と私とお前は出逢える事は無いと言うのに。
『私を待たないで。どうか願わくば君も、人になり、同じ様にこの世界を生きて欲しい』
なんて我儘な男だ。愛と慈しみの神がこの様な体たらくなど、溜め息が止まらないわ。
『どうか此処から見る世界だけで満足しないで。この世界は君と同じくらい、美しいんだよ』
そんな甘言に騙されるものですか。私は夜と安らぎを司る女神。私が居なくなっては私を信仰するあの国に良くない事が起こる。そんな事させるものですか。
私にとってあの国は我が子同然。お前にとってあの国が自分の半身と思うのと同じ様に。
『忘れないで。君は私を待たなくていい。けれど、私はクラシール、君を待っているよ、ずっと、ずっとね』
そう言い残してあの男神は人になった。その姿をしばらく見守ってやった。人になっても神だった力が全て無くなる訳じゃなく、あの男はいつも短命だった。それを見続けて、多分、魔が差したと言うやつだろう。あの男を助けてやりたいと思ってしまった。
あの男から力の半分でも奪えれば、人の子として寿命を全う出来るくらい生きられる。
だから私は、あの男に会いに行ってしまった。
『待っていたよ、君』
『身勝手な私をどうか許さず、覚えていて欲しい』
神としての力はあれの方がずっと上だった。何しろ信仰の数が違う。
でもまさか人の子になって尚、これ程、私を無理矢理人にする程の力を残しているなんて。
『ごめんね、クラシール。この世界を保つ為にはこうするしか無かったんだ』
私は消え逝く意識の中、溢れるように呟いた。
「二度と、お前だけは、愛さない」
目を覚ます。
あぁ、なんか色々すっきりとした。
私、この国の女神、クラシールの産まれ変わりなのね。
ディアーナ=クラシトラ。それが今の私の名前。そしてこの国唯一の王女。
「…目覚めるなり失恋かぁ」
私は昨日まで、隣国の王子に淡い恋心を抱いていた。それもその筈。
隣国の王子はあの男神の産まれ変わりだ。
幼い頃からしつこいと思う程に手紙が来たし、贈り物も沢山来た。
会いたいと何度も打診されていたし、私の両親も、つまり両陛下も乗り気だった。
でも私は、淡い恋心を抱いているのに何故か、会う気だけは起きなかった。
あれの産まれ変わりなら、それを無意識にでも察知していたなら当然だろう。
「リヴァイ」
「はい、此処に。女王様」
「私はまだ王女…まぁ良いわ。ちょっと殺さなくても良いけど、とりあえず私への好意が無くなる程には痛めつけてきてくれる?」
この男は凄腕の暗殺者のくせに、最近は私の公認ストーカーみたいなものだから全部言わなくても大体伝わる。
「ご褒美くれます?」
明らかに私に命令されてわくわくしてるわね。私限定ドMなんだから。
「そこそこ強いと思うからまぁ、頑張ってくれたらそうね…うん、女王になってあげても良いわ」
「そんなに強いんですか?あの王子。分かりました。張り切ってきます。もう浮気しないで下さいね?」
「もうって…」
「僕の事、旦那さんにしてくれるんでしょう?」
「………やぶさかではない」
「それ、本来の意味を分かって使ってくれてます?」
グイグイ来る。暗殺者に笑顔でグイグイ来られてちょっとときめいた自分を殴りたい。
「とりあえず!王女の私を女王にして暗殺者の貴方が王配になるのは相当大変だと分かっている!?」
「そうですか?文句ある奴らは端から殺しちゃえば好意的な人間しか残らないので意外と簡単じゃないですか?」
暗殺者の感覚は分からないが、私は一応、元、夜と安らぎを司る女神なのでその方法は頷き難い。
「殺さなくても方法はあるでしょ。良い夢を見続けてもらうとか」
「僕、貴女のそう言う自分は普通の人間だと思っているのに実は僕よりな所、凄く好きです」
あまりもうっとりとリヴァイがそう言うので、私は反論を忘れた。
「そ、そう…良かったわね…?」
「大丈夫ですよ、二度と手紙も書けない様にしてきますね」
「ちょっと待ちなさい」
「はい?」
私はリヴァイを手招く。リヴァイが嬉しそうに私に近付く。私はその頬に唇を寄せて口付けた。リヴァイはポカンとしている。万が一に備えて祝福をしたのだ。
「お、おまじないよ。いい?危なくなったら逃げ…きゃあ!」
私は先程まで寝ていたベッドに押し倒されていた。リヴァイがぺろりと自分の唇を舐める。
ヤバいわ、なんて色気。女としてなんか敗北感。
「ディアーナ」
「な、なによ…」
「僕頑張って来ます」
「えぇ、そうして」
「だからちょっとだけ、味見させて下さいね」
「え?や、ちょ、きゃっ…!」
最後までされなかったものの、ものすごく濃厚に貪られた。
ちょっと怒りながらも心配していたのに、帰って来たリヴァイは逆に、なんか、艶々していた。
「いやぁ、ストレス溜まってたんですよね、あの男。最後まで私の対だとか言うのでちょっと張り切り過ぎちゃったかもしれません」
「…戦争になったらどうするのよ」
「顔変えてましたし?リヴァイは死んだ事にすれば大丈夫でしょう」
「そんなあっさり…」
「名前に執着なんか無いので。あるのは貴女だけだ」
なんか、ものすごい殺し文句を言われた気がする。え、なんだか私ときめいてない?かっこいいとも思うし、褒めて下さいと言ってすり寄って来るリヴァイが可愛過ぎる。
「ありがとう、頑張ってくれて。偉いわね」
「そうでしょう?もっと褒めて下さい」
「ふふ、なぁに、随分甘えたね?ちょっとしか離れてないのに寂しかった?」
「はい、とっても。貴女は、僕が居なくて寂しくなかったですか?」
上目遣いがあざとい。私はリヴァイの頭を撫でながら、寂しかったわよ、と小さく囁いた。
リヴァイは嬉しそうに目を細める。
もうあんたのことなんか二度と待たないわ。
私には、可愛い夫が出来たんだから。
もう夢にも来させない。リヴァイが力を削ってくれたおかげでそれが叶う。
拝啓、大昔に縁のあった王子様。
御生憎様でした!
描写はありませんが、男神(王子)はリヴァイに手紙が書けない程の怪我を負わされ、公務が出来ないと判断され廃嫡。せめて心安らかにと自然の綺麗な領地に送られました。
読んで下さってありがとうございます。
いいね、評価などいただけると励みになります。