第88話:男装用コルセットを試着してみる
ウチらの住んでいる地域から電車で小一時間。
大きな街の、大きな駅の近くにある、コスプレショップ。
何故かエリ先生がよく知っているらしく。
エリ先生の案内で。
まぁ、おおよそ、エリ先生がコスプレしてるか、コスプレ衣装を作ってるとか、そういうオチなのは、明白だけど?
どちらかと言うと、制作の方かなぁ?
エプロン作った時も、布の仕入れ先とか詳しかったし、裁縫もお手の物だったし。
自分で作って、自分で着ている可能性も、無きにしも非ず。
聞いてみたいような、やめといた方がいいような……。
そのエリ先生。
試着室のカーテンの隙間から顔だけ突っ込んで。
「仮止めした状態で、少し上の方にお肉を寄せて、余った分は下と左右に満遍なく寄せる感じで」
「こんな感じですか?」
試着室の中からは、ぱっつん子先輩の、声。
「Tシャツの上からだと、ちょっとやりにくいけど、そうそう、そんな感じで、形が整ったら左脇にあるジッパーを止めてみて」
「ぐぬぬ……きつぃですわ、ね……」
さすがに、外からは見えず。
見る訳にも、いかず。
「Tシャツなしなら少しはマシになるよ」
「できました、わ」
「うんうん。良い感じ。あとは肩当てのストラップを腕に巻いて固定ね」
「この紐ですわね……ぐぬぬぅ……片手だと止め辛いですわね……」
肩当? ストラップ?
どんな構造なんだろう。
順番待ちのおさげ子先輩と金髪子先輩が手にしているモノを、ちらりと見てみると。
コルセットみたいな胴当ては、肩から胸、それに胴体をくるむような大きさ。
肩の部分に張り出してるのが、肩パットかな。
肩パットと言うか、腕の方まで少し長いめにあるから、肩幅も含めて、よりがっちりとした『男らしさ』を演出できるってところか。
「上からもう一枚のTシャツとカーディガンを着てみて」
「はい」
ごそごそ、と、ぱっつん子先輩のお着換えが続いて。
「うんうん。おっけーおっけー、じゃ、みんなにも見てもらおうっか」
試着室のカーテンが開かれ、ぱっつん子先輩がその出入り口へ。
「いかがでしょう?」
「おぉおお」
「すごいね……」
「でしょ?」
「ウチらも見ていいのかしら?」
言っても、女の子の、お着換え。
一応、見ないように配慮はしているものの。
見てみたいのは、山々。
「別に問題ありませんわ」
だ、そうですので、お言葉に甘えて。
ぱっつん子先輩のお姿。
男装用コルセットを装着した上から、Tシャツとカーディガン。
ボトムスは、とりあえず学校のジャージ……。
長い髪は後ろでくくって、服の中へ入れてるかな?
身体の凹凸がうまく軽減されて、全体的にボリュームアップして、肩幅も広がって見える。
「いいんじゃないですか?」
「うんうん、逞しくてイイ感じだと思いますよ?」
若林くんも、同じ意見。
「サイズもそれで行けそうね。大里さんでコレなら、小坂さんと中里さんも大丈夫でしょう」
エリ先生の見立てとしても、問題なさそう。
「では、交代ですわね……脱ぐのも大変そうですけど……」
ぱっつん子先輩がそう言いながら試着室の中へ戻ってカーテンを閉める。
しばらくして、着替え終えて『しの女』の制服に戻って出て来て。
「どうぞ、お次の方」
「じゃ、次、わたしね」
入れ替わりに、おさげ子先輩が試着室の中へ。
エリ先生が首を突っ込んで、また装着のレクチャー。
着替えを終えて出て来るおさげ子先輩も、また。
ひと回り大きくなった感じはあるけど、特に、問題はなさそう。
確認を終えて、金髪子先輩と入れ替わり、同じようにお着換え。
「どやー」
何と言うか……。
「なんか、モコモコしてません?」
「ちょっと膨れ上がり過ぎてない?」
「マッチョ感が強いんじゃないんですかしら?」
身長に比べて上半身が、がっちりしすぎて、ちょっと違和感?
「むぅ……これより小さいサイズ、無いんだよねー」
「ふむ……」
エリ先生が、思案顔。
おそらく、何か対応策を考えてらっしゃる?
と、思ったら店員さんになにやら話しかけて、他のアイテムを受け取って。
「よし、じゃあ、コレでどうかな」
それを金髪子先輩に手渡し。
「ん? 肩パットだけ?」
「とりあえず、肩幅だけ調整してみましょう」
「ん、やってみる」
再度、試着室に戻った金髪子先輩。
エリ先生が首を突っ込んでの指導も続けて。
再登場の、金髪子先輩は。
「あ、これならいいんじゃない?」
「うんうん、いい感じ」
「男と言うよりは男の子な感じですけどね」
「……」
金髪子先輩。
なにやら、思うところもあるようで、ちょっと不満げではあるも。
「ま、いっかー」
とりあえずは。
下ごしらえ、完了?