第82話:森本くんの思い出そして提案
「小学校に上がる前くらいまで、離島に住んでたんですよ」
語るは、森本くん。
ふむふむ、と、他の面々。
「本土に渡るにはどうしても船に乗る必要がありましてね」
そりゃそうか。
「たまに親に連れられて船に乗ってたんですけど、こっちに引っ越して来てからは乗る機会もなくなって……」
ふむふむ。
「船に乗るのが楽しみだったこともあって、なんか、また乗ってみたいなー、って」
幼少の記憶が、憧れのようなものに変わって、って感じかな。
「そっか。やっぱり、ちっちゃい頃の記憶って、後に影響してるものなのね……」
最初に問いかけたおさげ子先輩が、さらりとまとめてくれるけど。
「ちっちゃい、じゃなくて、幼い、ね」
金髪子先輩がツッコミ。エリ先生も、うんうん、と、頷いていらっしゃいます。
「わたしたちも、そうだもんねぇ……」
今度は、おさげ子先輩の、語り。
例の、三人で迷子になって、お巡りさんに追いかけられた、お話。
「それはまた……よっぽど怖かったんですね……それで……」
「でも、園田さんのおかげで、ずいぶんと慣れて来たかしら?」
先生の見立て。
先生自身も、かな。
「まぁ、園っちは、ねぇ……」
「半分女子みたいなものですしねぇ……」
「時々、完全に女子だと勘違いしてしまいそうになることもあるよね」
クスクス、と、笑みを浮かべて、先輩方。
「それに、お陰でこんな風に、普通の男子とも会話できるようになったし?」
「まだ、距離感が微妙ですけどね」
テーブルを挟んで、あと、先生は、ウチを挟んでの、距離感。
「だね、近寄ったり触れられたりはまだ怖いかも……」
ウチとはたまに手をつないだりとか、してましたけど?
「握手でもしてみますか?」
ウチが提案すると。
「よ、よろしくお願いします」
森本くんが前のめりで、手を伸ばすけど。
三先輩方は。
自分の身体を抱くように、身を縮めて、ドン引き……。
森本くんが、所在無げに、差し出した手を、にぎ、にぎ、と。
「あはは……無理、ですか」
まぁ、仕方ない、かな?
「じゃあ、こんなのは、どうでしょうか?」
森本くんは、差し出した手を引っ込めた後、何やら?
「女装した園田くんに慣れたんなら、今度は皆さんが男装して、男らしさを学んでみる、ってのは、どうでしょう?」
え?
「え?」
「え?」
「はぁ?」
きょとん、と、する先輩方。
「……それ、いいアイディアかも? 男装、いいんじゃない?」
一瞬、思案した後に肯定するエリ先生。
「言われてみれば、逆もまた真なり?」
「男装、かぁ……」
「男装……男になるんですのね……」
思案中の先輩方。
ウチ的には、うーーん。男装した先輩方、先生の姿が。
全く思い浮かばないですけど?
「ものは試しですよ。男物の服、買いに行きませんか?」
ぐいぐい行くねぇ、森本くん……。
でも、このままお喋りばかりだと、間が持たないだろうし。
そういう意味でも、いい案、かも!?