第346話:みんなの想い、牧乃緑ちゃんの想い
放課後、上谷牧乃緑ちゃんに呼び出され。
夕暮れ迫る、公園で。
『子作りを前提にお付き合いしてまみせんか?』
なんて。
ぅおおおおい。
まさかの『六人目』!?
まさかまさか、例の件まで知られてる?
「あ、すみません、言い間違えました。結婚を前提にお付き合い、でした」
あー。
「な、なるほど、って言うか、それでも結婚は前提なんだ……」
最近の若い娘は、って。
一年しか離れて無いって言うの!
「いやー、結婚したらやっぱり子供は欲しいですよねー、って感じで考えてたら、思わず」
妄想が豊か過ぎる!?
「あたしって、男性が苦手で、この先、男のヒトと結婚とかできそうにないなーって思ってたんですよね」
さらに、語り出した?
「かといって女性とってのもなんか違うなーって思って」
女性の選択肢もあるけれど、選ばない、と。
うちの母さんは、女性を選んだっぽいですが。
ややこしくなりそうだし、先生の事もあるので黙っておこう。
「そうすると結婚そのものが出来ないなーって思ってたところにですよ!」
あ。
また前のめりに、さらにベンチから立ち上がって。
「目の前に、現れたじゃないですか、理想のヒトが!」
あぁ、そういう事、か。
「男性なのに容姿は女性で、女性的な優しさと柔らかさを持たれてて、あ、柔らかいって言うのは性格的に、ですよ。身体にはまだがっつり触れてませんからわかりませんけどまた今度じっくり触らせてもらうとして」
おい、こら。
「園田先輩は最初から全然怖くなかったし、逆にすごくいいヒトだなーって、もう、園田先輩しか無い! ってなっちゃったんですよ」
これ、暴走してません?
ここは、ちょっとけん制が必要かな。
「えっと、あたしみたいな、ってことなら、七種さんとか九重さんも良いんじゃない?」
レイちゃんとか、なんなら、川村ちゃんも紹介してあげようかな?
でも、上谷さんは、ぷるぷる、と、首を横に。
「あの娘たちは女の子ですよ。聞いてみたら、女の子には興味なくて、将来は男のヒトと結婚したいそうです」
す、すでにそんな話までしてたのね、一年生。
最近の若い娘は……。
それはもういいとして。
「さっきも言いましたけど、先輩ってすごくモテるから、もうダメかと思ったんで、一か八かのやぶれかぶれだったんですけど、まだお手付きされてないなら、あたしが」
近い近い、近い近い。
「ちょっとまって、ちょっと待って」
こっちがのけ反って逃げなければ、物理的にキス状態でしたよ!?
肩に触れて、ちょっと押し返しちゃったけど、不可抗力、許して?
「いくらなんでも、まだ、結婚は早すぎるよ」
「はい、ですから、結婚を前提に、ってことで、どうですか?」
どうですか、と、言われましても、ですね。
「あ、子作りの事前練習とかも、お付き合いできますよ」
!?
「大丈夫です、イメトレばっちり、自習もバッチリです!」
なんか。
「ほら、うちのおじいちゃん牧場やってるじゃないですか。なので動物の交尾とかよく観察してましたし」
あー、なるほど?
「牛とか馬の出産にも立ち会ったり手伝ったりしてましたからねー」
ふぅん。
「そ、そうなんだ」
いや、だから何だ。
「ど、動物とヒトじゃずいぶん違うと思うんだけど……」
いろんな意味で。
「同じ哺乳類、似たようなものです!」
ふんすっ。
って、感じで。
ベンチから立ち上がって、座ってるあたしを、見下ろすように。
まくしたてられましても、ですねー。
「ごめん、ちょっとまって、話が急すぎて混乱してるから、ちょっと落ち着こ?」
あたしも立ち上がれば、上下は、反転するから。
そのまま上谷さんの肩をつかんで、ベンチに座らせれば。
「あー、す、すみません」
やっと、ちょっと。
落ち着きを取り戻してくれた、かな?
「結婚とかって言っても、まだまだ先の話だし、さ」
「はい」
「それに、あたしもまだ上谷さんのこと、あまりよく知らないし」
「そうですね」
「上谷さんも、あたしのこと、まだまだ知らないと思うから、ね」
「はい」
「だから、まずは、先輩、後輩、と言うか、お友達として、ってことで」
「あー、まー、はい、そう、ですね」
了承はしかねるも、一旦は、って感じかな。
「今日はもう時間も遅いし、また、今度、ね」
「はい。あたしも、気持ちをお伝えできたので、今日のところは、この辺で」
「うん。帰ろう、か」
「はい」
ふたり。
またこれ、不思議な空気のままながら。
ベンチから立ち上がって。
歩き出して。
今の話とは、別で、また世間話など、しつつ。
帰路。
学校まで戻って、我が家の、前。
「それじゃあ、先輩」
「あ、駅まで送って行くよ、そろそろ暗くなって来たし」
「ありがとうございます。先輩、やっぱり、優しい、ですね」
「あー、まぁ……一応、男、だし?」
「なんで疑問形なんですかー、でも確かに見た目だけなら女の子ですもんねー」
あはは、と。
また、話題も点々と変えながら、駅まで送り届けて。
やっと。
解放されたぁああ。
疲れた……。