第345話:おぉ、まきばのみどり
何故か突然、新一年生の上谷牧乃緑ちゃんから、お呼び出し。
『今、正門前なんです』
正門前って、つまりは、あたしん家の前じゃない。
さっき、正門でみんなと別れて、上谷さんも駅の方に向かったはず、なのに。
戻って来たの?
『ちょっとお聞きしたいこと、お話したいことがありまして』
これまた。
イヤな、予感しかしないんですけど……。
『よければ、少し歩きながら、お話、お願いできますか?』
高校で初めて出来た後輩から。
そんな風に言われたら。
無下にも、できず。
幸い、まだ着替えてなかったので、制服の、まま。
「うん、ちょっとだけなら、いいよ。すぐに行くね」
あまり長時間には、ならない、よね?
晩御飯の支度とかもあるし、手短に……。
……終わると、いいな。
上谷さん、本当に正門前で待機してました。
家の玄関が開いたのを見て、信号のボタンを押してくれたようで。
ほどなく、青信号。
ダッシュで駆け寄って。
「お待たせ」
「いえ、急にすみません。どーしても先輩と話がしたくて」
「う、うん」
「学校の向こうの、河原の公園の方まで、いいですか?」
「いいよ」
家からだと、学校を挟んで反対側にあるスーパーマーケットのさらに向こう側。
少し距離あるけど、歩けない距離でも、無い。
「ごめんなさい、お夕飯の支度とかも、あるんですよね?」
「うん、まあ……」
「料理もできるなんて、先輩ってすごいです。あたし全然できないですよー」
「少し練習すれば、すぐできるようになるよ。そういえば去年は先輩たちに料理を教えてたっけな」
「わ、いいですね。あたしも教えてもらいたいです!」
「あぁ、じゃあ、他のみんなも一緒に、また今度、ね」
「はい!」
学校の脇の道路を歩いて、学校から離れて進む。
ずっと喋りっ放しってわけではなく。
ぽつり、ぽつり。
思い出したように。
おそらく、本題とは、無関係な、世間話。
「ここのスーパーでお買い物とか、したり?」
「うん、ここはよく来るよ」
「ふむふむ」
スーパーの前を通り過ぎて。
人通りが少なくなって、河原の公園が見えて来た頃合いで。
「先輩って……」
「うん……」
その公園に、向けて歩きながら。
「先輩は……」
「うん……」
じれったい、けど、我慢、我慢。
急かしたり、できないから。
待つ、しか無い、よね。
「あ、あそこのベンチでいいですか」
公園に入って、片隅にある、ベンチへ。
とて、とて、と、近寄る、上谷さんを、追って。
ふたり、並んでベンチに腰掛けて。
早速。
「先輩」
「はい」
並んで座っているものの、身体は、お互いの方に少し向けて。
しっかりと、目を合わせて。
「何かありました?」
「え?」
なんで?
「最初に会った時と比べてなーんか雰囲気が変わった気がして、最近、何かあったのかな、って」
え……。
「もしかして、彼氏さんに振られたり、しました?」
「かっ、かれっ、彼氏なんかいないよ。いるわけないよ!? もちろん、彼女もいないよ」
それはいいとして。
こ、この娘……するどい……。
内容はともかく、あたしが例の件で悩んでるの、見抜いてるんだ。
「んふふ。そうですか、彼氏さんも彼女さんもいらっしゃらない、と」
「う、うん……」
「じゃあ、告白されても、断ってるって事ですよね?」
いやいや、いやいや。
「こ、告白とか、さ、されたこと、な、な、な」
無い?
あれは、いわゆる告白とかとは、ちょっと違うし、なぁ。
「告白されたことも、無いよ」
「ふーん、先輩、すっごく人気あるみたいだし、みんな結構狙ってるっぽいのに」
えー。
なんか、もう。
えー。
しか、出てこないよ!?
「そっかー、誰も告白してないのかー」
と、言いますか、この流れは。
またも、イヤな予感、的中。
「皆さん、けん制し合って、遠くから眺めるって感じの協定でも結んでるんでしょうかねぇ」
そんな話は、聞いた事が、無い。
風の噂で、とかも、無い。
無いんだけど……。
「んー、だったら園田先輩が暗い雰囲気になってた理由って、何なんでしょう?」
「そ、それは……」
言えない。
言えるわけが、無い。
もしかしたら、他のひとにも変化に気付かれてるのかもしれないか……。
「じゃあ、それは、また今度ゆっくり聞かせてもらうとして先輩」
近い近い、顔、近いです、上谷さん。
身長、つまりは座高の差もあって、あたしを見上げるように。
「な、何かな?」
「あたしと……あたしと、子作りを前提にお付き合い、してみませんか?」
へ?
イマナンテ?