第343話:みんなの想い、シズさんの強い想い
ゴールデンウィークに、突入。
学校の方では球技大会があったり。
八時間目の方では、一年生たちの男装用制服の制作のために、と、皆で雪枝さんのショップへ行ったり。
なんだかんだで皆さん、お嬢様。
余分、余計なモノながら、出資はしてもらえるって。
うーん、甘やかされてる、のかなぁ、みんな?
それを言ったら、あたしも、か。
半分は母さんの趣味、嗜好ってところもあるけどね。
それから、こちらは恒例となった、あたしとレイちゃんの、アルバイト。
なんだけど、今回は、川村ちゃんも、見学に。
すっかりと可愛らしくなった、川村ちゃん。
もう少ししたら、あたしと交代も、できるかも?
あたしの学校、基本的にアルバイト禁止だから、後ろめたいところあるしねぇ。
学校公認とは、いえど、ね。
そんなゴールデンウィークの最中、休日には。
母さんは、相変わらず、エリさんと、デート三昧。
あたしはひとりで家に居る事も多く。
ひとりで考える時間も、豊富に。
ただ。
考えても、考えても、なかなか、答えは、出ず。
そんな、母さんの居ない休日に。
シズさんに少し時間を作ってもらって。
お外で。
食事でもしながら、世間話でも、って。
シズさんの、過去、生い立ちなんかを、聞かせてもらったり。
なんと言うか、やっぱり、と、言うか。
結構、壮絶? な、人生。
大学受験に、失敗して。
浪人なんて、認められないって、家に居られなくなったって思い込んで。
家出をして。
金髪子先輩の、お母さんに、拾われた、って。
ちょうど、金髪子先輩が、産まれる少し前。
そのまま、金髪子先輩のお世話係として、住み込みで雇われて。
そんな話を、聞かせてもらって、推察するに。
やっぱり、シズさんも、元は良いところの、お嬢様だったご様子。
「実は、真綾さまにふさわしくないもうひとつの理由がありまして……」
さらに、語るシズさん。
「あまり大きな声ではお話できないので、お隣、失礼致します」
対面で座っていた、レストランの席。
すっと、あたしの横に移動して。
「実は、ですね……」
小声で、ささやくように、語られる、お話は、それは。
「!?」
驚愕。
あまりにも、衝撃的で。
確かに。
食後のお茶をしながらとは、言え、レストランで。
する話では、無い。
「……そういうわけでして、もはや清らかな身体では無いものでして」
もっと、夜の、深夜の、闇深い、お話。
「このお話も、事前にお伝えした上で、ご判断いただけますれば、と」
ちなみに。
金髪子先輩も、他の先輩たちも知らないお話、だそうで。
金髪子先輩のご両親、つまり、雇い主と、シズさんの、特殊な関係。
「沙綾さまにはお伝えしたのですが、沙綾さまは、直接、真綾さまにお伝えすべきだと」
うん。
母さんから、ひと伝で聞かされるのと。
ご本人から伺うのでは、意味は同じでも、その印象は、全く異なる。
と、言うか。
もう、泥沼に、片足どころか、両足、突っ込んじゃって、ますね、これ。
いや、知りたく無かったかもしれず。
「くれぐれも、他言無用でお願いいたします、ね。特にミリィお嬢様には……」
あー。
「なんか、ミリ先輩なら、気付いてそうな気もしますけどねぇ」
うん、なんとなく。
同じ家の中で、と、なれば。
防音設備とか、しっかりしてたとしても。
気付かれる要素は、多分にありそうな、気がする。
「って言いますか、これ、未成年のあたしが聞いていい話じゃない気もします、けど?」
うん、それ。
「それは……申し訳なくはありますが、全てを打ち明ける必要があると……」
うわぁ。
でも、まあ。
自分に置き換えて、考えてみると、ね。
そりゃ、全てを見捨てて、逃げ出すのと。
全てを受け入れて、自分に枷を履かせるのも。
どちらも。
「辛い、っすね……」
「はい、申し訳、ございません……」
シズさん、すっと、また席を移動して。
前の席にもどって、残っていた紅茶を、ひと口。
「冷めてしまいましたね。そろそろ、参りましょう、か」
「そうですね」
シズさんが、伝票を手に、レジへ向かうのを。
少し遅れて、着いて行って。
会計を済ませて、駅へ戻って。
「あたしは、少し寄り道して帰るんで、ここで失礼しますね」
「はい、では、わたくしはこれにて。真綾さま、またのご機会に」
「はい、今日は……ありがとうございました」
「んふふ。こちらこそ、ありがとうございました」
さて、と。
またもやヘビーな話を聞かされたこともあって。
少し、癒されに行こう、かな。