第342話:みんなの想い、あたしの想い
「それじゃ、先輩、お気を付けて」
「ああ、真綾こそ、気を付けて帰るんだぞ」
「はい」
一瞬。
先輩に押し倒されそうな雰囲気もあったものの。
先輩も自重してくれたし、あたしもさっと避けて。
本日、予定、終了。
先輩は駅まで送るって言ってくれたけど、やんわりとお断りして。
ひとり。
歩きながら、電車に乗りながら、そしてまた、歩きながら。
我が家へ。
家に入る前に、少し。
振り返って、見上げる、母校の、校舎。
休日の夕暮れ。
すでに薄暗くなった空に、灯り無く浮かぶ影。
その影の向こう、思い浮かべる、あたしを取り巻くひと達の、姿。
ぼんやりと佇んでいると、時折、目の前の道路を通り過ぎる、ヘッドライト。
そろそろ。
陽も落ちて、暗くなって来て。
四月とはいえ、まだ少し肌寒いこの時間。
玄関の鍵を開けて。
「ただいま」
おかえりの返事は、無く。
母さんは、今日はお泊り。
今頃は、エリさんとふたり…………。
「……っと、あまり変な想像しちゃダメよね」
部屋着に着替えて、夕食は帰り道のコンビニで買って来たお弁当で済ませて。
「おっ風呂ぉ、おっ風呂ぉ」
誰も居ないけど。
誰も居ないから?
つい、口をついて出る、ひとり言。
「そういえば、みんな一緒にお風呂にも入りたがってたっけなぁ」
ユイナおねえちゃんも含めて。
みんな、からかうのが、好きなんだと思ってたけど。
ユイナおねえちゃんはともかく。
他のみんなは。
「どこまで本気なのやら……」
そう考えて、みれば。
今日、少しお話をして、その本気の度合いを確かめてはみたけど。
本当に、どこまでって言うのは。
まだまだ、解らない事も多い。
特に、シズさんは。
でも、先輩たちや先生も。
それなりのお付き合いの中で、ある程度は、って思うところもあれど。
実際には、家庭環境含めて、その内面についても、知らないことばかり、だよね。
だから、やっぱり、もっと。
もっと。
「ぶくぶくぶく」
湯船にゆったりと、浸かりながら。
なんだかんだ、でも。
先輩たちとゆっくりできるのは、夏まで。
先輩たちの大学受験もあって、二学期からは会う機会も減ることになるだろうし。
シズさんとは、根本的に普通には接点、無いしなぁ。
エリさん……エリ先生は、先生として、それに、母さんの恋人として。
一番、会う機会が多くなるんだろうな。
仮に。
最終的に、みんなの願いを叶えたと、して。
「あたしの子供が、五人……いや、六人か」
なんか。
うん。
やっぱり、えげつないよねっ!?
話の流れとして、その子供たちには、父親の事は、話せない。
父親が誰だか、わからない状態。
うーん。
それって、いいの?
自分の子供なのに、父親を名乗れない、なんて。
それって、いいの?
あたしの場合は、父親が誰なのかは、わかっていても。
その本人が、居ない状態。
あたしの場合は、まあ、それがあたりまえになってるから、いいけど。
あたしの子供たち、は?
「うーん」
うーん。
その先の事を考えてみたとしても。
あたしが、あたしの良きひとにめぐり逢えたとして。
そのひとに対して。
誠実で居られる、だろうか?
過去の行為を、隠して?
それとも、話して?
それを、受け入れてくれる、ひとなら?
そんなひとが?
「ぶくぶくぶく」
仮に、全てを受け入れてくれるひとが現れたと、して。
あたし自身は?
あたし自身の、心は?
「ぶくぶくぶくぷふぁ」
うん。
「やっぱり」
ざばぁっ。
お風呂からあがって。
いつものルーティンを、こなして。
「はふぅ」
ベッドへダイブ。
今日は、もう。
おやすみ、なさい。
……。
……。
寝れん。
んぁあああ。
ひとり、ひとり。
顔を思い浮かべながら。
母さんも居なくて、ひとりきりだし。
きっと母さんも、お楽しみの最中だろうし。
って言うか。
女性同士って。
どんな風に?
…………。
うぅむ。
よく、わかんない、けど。
あたしも。
ちょっとくらい。
みんなのこと、使わせてもらっても。
バチは当たらない、よね?
今日くらい、は。
ね?
ぱっつん子先輩に、押し倒されたり。
金髪子先輩と、シズさんに二人がかりで、のしかかられたり。
おさげ子先輩に、連れ込まれたり。
母さんに押さえつけられて、エリさんに。
とか。
最後は、シズさんともう一度、今度は、ふたりきり、で。
とか。
ね。
ね?