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玄関ダッシュ五秒の女子高にオレひとり  作者: なるるん
最終章:あたしの未来、オレの未来
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第341話:みんなの想い、ぱっつん子先輩の想い



 金髪子先輩のお宅を出て、少し歩く。


 陽は落ちていないものの、もう、そろそろ、夕暮れ時。


 先輩たちのお宅は、閑静な、そしてわりと高級な住宅街。


 その中にあるちょっとした、公園。


 そこに向かえば、お迎えが。


 あたしよりずっと、背の高い。


 クール・ガイ。


 軽く、右手をあげて。


 少し緊張の面持ちで、でも、微笑んで。


「やあ」


 あたしも、小走りに近付いて。


「お待たせしました、サクラ先輩」


「オレも今来たとこだ」

「はい」


 前の行程が、時間通りに進むか、ちょっと不安だったので、ざっくりとした時間しか伝えてなかったんだけど。


 おそらく、金髪子先輩から連絡が行ったんだろうなぁ。


 場所的には、この公園、ぱっつん子先輩の家からの方が近いし。


 みんなには特に口止めもしてなかったし。


 内容はともかく、あたしと会った事は、共有されてるものとして。


「そこ、座りましょう、か」


 公園の、ベンチ。


「ああ」


 ぱっつん子先輩がすっと移動して、先回りして。


 ベンチにハンカチーフを、広げてくれる。


「さ」


「ありがとうございます。では、遠慮なく」


 レディとして。


 礼には、礼を。


 ジェントルマンに、恥をかかさないように。


 先輩のハンカチーフの、上へ。


 先輩は、そこから、わずかに離れた場所に腰掛けて。


 足を組んで、背もたれに片腕を掛けて。


「ずいぶん、男らしくなりましたね、先輩」

「そ、そうか?」


「先輩たちの中で一番、男っぽいと思いますよ」

「それは……喜んでいいんだろうか?」


「ええ、いいんじゃないですか?」


 にっこり、微笑んで返すと。


 少し苦笑いしながら。


「ありがとう。そうだな……」


 今日の最後だから、この後は気にしなくてもいいとは言え。


 時刻も時刻なので、あまり遅くまでは。


 なので、ここも、ささっと。


「男性への苦手意識も、だいぶ改善されましたか?」


 隣に座っていて、特に、お互いを見やっての会話ではないため。


 先輩は、少し、空を仰ぐようにして。

 

「あぁ、それは、まだ真綾(まあや)限定、かなぁ」


 あたしも、少しだけ先輩の方を視界の片隅に入れながらも、視線は前の方の、別の景色を中心に。


「苦手なものと、そうじゃないもの、得意なもの、選ぶとしたらやっぱり、苦手じゃないモノ、ですよね」

「そう、だな」


 よし。


 ちょっと。


 例えばなしを、してみよう。


「先輩、ニンジン、苦手でしたよね?」

「あ? あぁ、うん、まぁ……」


「でも、あたしの作る甘いニンジンは食べられるようになりましたよね」

「おぉ、あれはうまい」


「そういえば、あの時でしたよねぇ、先輩が、あたしにプロポーズしてくれたの」

「え? あっ! あぁ、そう、だった、かな」


 先輩にとっては、ジョーク、だったかもだけど。


 ちょっとドキっとした、あたしは。


 なんか、よく覚えてるんだよねぇ。


「そういう意味では、先輩が一番最初、だったかしら?」


「いや、そう言う意味なら、真綾と結婚したいとか最初に言い出したの、先生じゃなかったか?」


 あ。


 そう言えば、あたしの家が学校の真ん前だって話が出た時か。


 めっちゃ初日じゃん。


 あれは完全に冗談だって理解してたから、印象に残ってなかったかも。


 それに。


「あれは、通勤が楽になるからってだけでしたしね」

「それで言えば、オレのも、真綾の料理が食べたいだけだったけどな」


 あはは。


 と、見あって、笑い合って。


「先生の家が火事になった時も、みんな一緒に住みたいとか言ってましたしね」

「あぁ、実現はしなかったけどなぁ」


 思い出してみれば、すでに、あの頃から?


「ニンジンの話に戻りますけど」


 唐突感は、あれど、そもそもニンジンの話自体が、唐突。


「ニンジン、こだわるなぁ」


 脈絡も無いと言えば、無いように思えるでしょうけど。


「いえ。苦手なニンジンでも、甘く食べやすく加工すれば、食べられるようになる、と」

「そうだな」


「同じように、苦手な男子でも、女装して、男臭さを消せば、食べられるようになる、って事ですか?」

「あ、あぁ……」


 ふっふっふ。


 気付かれましたよね。


「と、すれば、あたしじゃなくても、例えばレイちゃんとか、今度の新入生とかでも、良くないですか?」


「違う!」


 がばっっと。


 よそ見をしていた先輩が、あたしの方に身体を向けて。


「それは絶対に違いますわっ! 真綾さんだから真綾じゃなきゃダメなんですのよ! ニンジンだってそうですわ真綾の作る甘いニンジンだから食べられるんであって、他の誰かじゃ、ダメなんですわよっ!」


 一気に。


 前のめりに。


 しかも、お嬢様に戻ってるし。


 あぁ……。


 少し上の方から、見下ろされる形で。


 迫力、あるなぁ。


 なんて。


 ドキドキする自分を、眺めている、もうひとりの、自分。


 その子は。


 とっても、幸せそうな顔を、しているように思える。


 でも。


「くっ……このまま食べてしまいたいくらいですのにっ!」


 ぎゃああああ。


 せんぱぁああああい。








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