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玄関ダッシュ五秒の女子高にオレひとり  作者: なるるん
最終章:あたしの未来、オレの未来
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第338話:みんなの想い、おさげ子先輩の想い



「じゃ、お先に失礼しますね。エリさん、母さん、ごゆっくり」


 てな具合で。


 午後、母さんとエリさん宅にて。


 エリさんと、それに母さんの『本気』の度合いを確認させてもらって。


 後の雑談の中で、知った、知らされた、追加のお話。


 例のお花見バーベキューの帰り道での、お話。


 車中で盛り上がって、冗談半分、好奇心半分で、ちょっとお試しに、って。


 そういう()()()()に立ち寄って。


 当時の母さんの心理状態の事もあって、一気に、本気状態になったって言うんだもの。


 いやぁああ。


 遠回しにだけど、そういう事実を知らされるとわ。


 そういえば、休憩した、とは言ってたけど。


 そっちの()()()だとは、思いもよらず。


 レストランか喫茶店か、とか、思っていた自分が、逆にちょっと恥ずかしい。


 うん、もう、びっくり。


 そんな母さんとエリさんは、この後、二人きりにさせてあげて。


「さて、っと」


 エリさん宅から、ひとり、帰路へ。


 予定通りの時刻に最寄り駅までたどり着くと、改札の外で。


「おまたせしました、先輩」


「よ。ボクも今来たところだよ」


 電車から降りてすぐここに来たあたしを待っていたってことは。


 少なくとも、ひとつ前の電車、十五分くらいは、待ってたはず。


 先輩には、男子モードで、って、お願いしてあったから。


 黒のスラックスに、明るいグレーのTシャツ。その上にスプリングコート。それにベージュのサファリハット。


 先輩の左腕に自分の右腕を巻き付けて。


 耳元にふっと息を吹きかけるような仕草で。


「んふふ、じゃあ、行きましょうか、中原せーんぱい」


 休日の夕方なので、それほど人通りは多くないとはいえ、無人でもなく。


 道行く人に、ちら見されてるのも、わかるけど。


 恥ずかしさは、もはや、何か突き抜けた感もあって。


 わりと、平気で。


 かえって、おさげ子先輩の方が、ちょっと恥ずかしがってる感じがするのが、楽しくも、あり。


 それでも、拒絶される事もなく。


 先輩と並んで、我が家、つまりは、母校の前まで。


「さ、せんぱい、入って下さい」


 そして、我が家の玄関を開けて。


 五秒で。


「ツグミ、せんぱい……」

「お、おぃ、真綾(まあや)……」


 先輩の背中から、先輩のお腹に手を回して、軽く抱き着いて。


「せんぱい、男子の家に女子ひとりで来て、何も無いと思いました?」

「あー……それは、うん、もちろん、覚悟の上だよ。でも、真綾が同意もなしにそういう事をする子じゃないって知ってるし、それに」


「それに?」


 そんなに強くは抱き締めていなかった、あたしの腕の中で。


 先輩は、くるり、と、身体を反転させて、逆に、あたしを。


 わりと、ぎゅっと、抱き締めて。


「逆に真綾は、男子ひとりの家に女子を呼んで、何もされないと思ったのかな?」

「あはは。同じですよ。先輩があたしを無視してそういう事、するはず無い、でしょ?」


 どちらからともなく、ふっと、手を離し、身体も離して。


「ああ、そうだな」


 少しの間、見つめ合って。


「ふふっ」

「んははっ」


 笑い合って。


「のど、かわいたでしょ? お茶煎れますね」

「ああ、頼むよ、真綾。正直、やっぱりちょっと緊張したわ」


 なんて。


 もう、これだけで、なんとなく。


 先輩の。


 おさげ子先輩の。


 中原ツグミ先輩の。


 優しさと、本気度を、知れたような気が、する。


 でも、一応、念のため。


「先輩は、確か、妹さんが居るから、家を継ぐ必要は無かったんじゃ?」

「あれ? その話って、してたっけ?」

「ええ、結構前でしたけど、妹に継がせれば、って」

「あぁ、でも、やっぱり、妹に押し付けて逃げるのは、どうかなって。ミリやサクラに負い目もあるし、な」


 だろう、ね。


 三人、幼い頃から、それこそ、生れた時から、一緒に育って来て。


 偶然にも、似たような、境遇。


 その境遇を、お互いに共有しあって、共感しあって。


 自分だけ、って、言うのは、ね。


「他人に合わせる必要は無いんじゃないですか?」

「んー、あいつらも、家族みたいなもんだしなぁ」


 なるほど。


 姉妹、みたいなものって事、かぁ。


 いいなぁ。


 あたしは、一人っ子、だし。


 あぁ、だから、かな。


 エリさん、母さんが、子供は二人欲しいって言うのも。


「あたしと結婚、は、出来ないんですよね」

「あぁ、それは……悪い、ごめん」


 うん。


「事情は、母さんから聞いてますから」

「ああ、悪い、ごめん……」


 恐縮至極、な、先輩。


「んもー、先輩、謝ってばかり……」

「あ、わる……いや、なんて言うか、その……」


「あはは。まだちょっと先の話、ですし、それに……」

「それに?」


 ちょっとだけ、身を乗り出して、小声で。


「もし、その時があったら、あたしも楽しませてもらいますから、ね?」


 ぼっ、って。


 先輩の頬が、真っ赤に。



 うん。


 してやったり。


 ちょうど、そのタイミングで。


『ピンポーン』


 ドアベルが、鳴る。


 おっと、次のお客様、ご到着の、模様。





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